08:パッピーストアの摩訶不思議な日々

 とある郊外の住宅街にあるコンビニエンスストア『パッピーストア 阿部さんの家の前店』。俺はここでバイトをしているのだが、色々言いたいことがある。

 とりあえず、今日は、バックヤードで大柄な後輩の白石が、呆然と立っていることに色々と言いたい。その手には謎にラッピングされた石臼と墨汁を持っていた。


「あの、白石くん、そんなとこに突っ立たれては邪魔なんだが。 」

「ウっス、申し訳ないっス。 」


 彼は端っこにより、両手に抱えた謎の臼と墨汁をジッと眺めていた。


「それ、何? 」

「ウっス、店長にもらったっス。 」

「あの、アホハゲ店長に? 」

「ウっス、阿部店長っス。古藤先輩、真実だとしてもアホとかハゲとか言っちゃいけないと思うっス。 」

「あぁ、白石くん、しらないのか?本人公認のあだ名だ。 」


 アホハゲ店長こと、阿部 帆架。薄らハゲおっさん店長である彼は、ここのオーナーであり、店名に入っている阿部さん本人だ。正直、何故この人がオーナーできているのか理解できていないし、こんな駄菓子や玩菓だらけのコンビニなのに経営が成り立っているのかも訳が分からないのだが、時給と福利厚生がよかったがために俺はここでバイトしている。


 アホハゲ店長が本人公認になった経緯としては、先輩が陰口でアホハゲと呼んでいた際に、

『それ、ほのかのこと!!わかりやすいかも!!これからは、ほのかのこと、アホハゲ店長ってあだ名で呼んでもらうようにしよう!! 』という、これはこれで意味が分からない流れがあったらしいが……。いや、アラフィフのおっさんの一人称が『ほのか』っていうのもちょっとアレなのだが。


「で、なんで店長がそんなものを? 」

「ウっス、それが……出勤してすぐ、誕生日プレゼントだってもらったっス。 」

「え、白石くん、誕生日なの?おたおめ。え、そんなもの欲しかったの? 」

「あ、ありがとうっス。いや、誕生日自体は明日なんっスけど、まさか石臼と墨汁もらうと思わなかったっス。 」

「え、口癖がウっス、だから、石臼もらった的な? 」

「ウっス、でも、墨汁の意味が分からないっス。 」


 俺は頭をフル回転させて墨汁の意味を考える……。


「店長から、何が欲しい?って尋ねられたとき、休みが欲しいと言ったということで間違えなかったか? 」

「ウっス、休みが欲しいって言ったっス。 」

「あーーーーーー、理解した。あのアホハゲ、白石くんにコレ渡した際に反応待ってなかったか? 」

「あぁ、待ってたっスね。 」

「そのあと、首をひねらなかったか? 」

「ひねったっス。 」

「あのアホハゲ、君の言葉をわざと誤解釈して、臼と墨を渡してきたんだ! 」


 ウっス、休みが欲しいっス……、うすやすみがほしいっす……、臼や墨がほしいっす……。


「いや、なにそれ、意味が分からないっス。 」

「やっと気づいてくれたんだ!!ほのか、うれしい!! 」


 気付けば、店頭に出ていたはずのアホハゲ店長がバックヤードに来ていた。


「マジか……。 」

「あ、白石さん、ちゃんと明日、誕生日有給にしてるから安心してねー!!古藤さん、そろそろ休憩終わりだから、商品の補充よろしくね! 」


 いや、アラフィフのおじさんのウインクはきついって。俺はそのツッコミを飲み込み、店頭へと出る。


「すみません、オリハルコンの臼とクラーケンの墨があるって聞いたんですけど!! 」


 レジに立った瞬間、長耳の美女が店内に飛び込んできた。まさか……、な。


 ここは、とある郊外の住宅街にあるコンビニエンスストア『パッピーストア 阿部さんの家の前店』。元異世界にいたアホハゲ店長がオーナーをしている摩訶不思議なコンビニだ。

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