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「500年前、私たちはあなたと同じような救世主を召喚したの。その救世主は卓越した技術者で、私たちの持っていた粗末な飛空技術に変えて、高度な機械から成る飛行船をこの世界にもたらしたの。彼の革新的な技術は、竜に対抗して、不死鳥側に有利な時代をしばらくもたらしたの。今では考えられないけど、帝国全土よりもルクスエリオス王国の国力がずっと強かった時代が、彼のおかげでしばらく続いたのよ。」
「でもね――」
ミレイアの視線は遠くを見つめ、まるでその言葉の重みを感じているかのようだった。
「召喚された救世主は、自分の世界に戻れなかったの。彼はこの世界に留まって新たな人生を築き、最終的にはこの世界で亡くなった。」
その言葉が響くと、彼女はしばし沈黙し、静かな部屋には重苦しい空気が流れた。
「伝説では、異世界から人を召喚することは可能だけど、送り返すためには不死鳥の魂を消費しなければならないと言われているの。」
ミレイアの声は次第に沈み、深刻さが増していった。
「私たちは不死鳥の力を召喚士を通じてしか引き出せないだけじゃなくて、その魂には実は全く触れられないの。でも、竜は皇帝と一体化している。その力を完全に引き出し、無駄なく使いこなすことができるだけじゃなくて、竜の魂も皇帝と同化するの。だから皇帝は力だけじゃなくて、竜の思考や命令を直接受け取ることができて、力と頭脳、すべての神から与えられるものを使うことができるの。」
彼女は深いため息をつき、その言葉の重みが彼女にのしかかっているのが見て取れた。
「つまり、私たちは常に不利な立場にいるの。私たちは不死鳥の力を完全には引き出せないばかりか、その思考の塊であって、私たちに啓示を与える頭脳である不死鳥の魂にも触れることができない。私たちはそれがどこにあるかすらわからないから。」
ミレイアは僕を見つめ、謝罪と不安が入り混じった表情を浮かべた。
「――本当にごめんなさい、湯島。あなたが元の世界に戻れる保証はない――というより、戻れる可能性は限りなくゼロに近い。たとえ不死鳥の魂がどこにあるか知っていたとしても、それを消費することはできない。それはこの国を守り、統治するために不可欠だから。」
その言葉は重く、静かな部屋に響き、僕の心に深く沈んでいった。僕は自分の世界に戻れるかどうかという不確実さに加え、この状況の残酷さについても考えさせられた。
不死鳥の力は、召喚士を通してしか引き出せず、その魂はどこにあるのかもわからない。それに対して、竜は皇帝と一体となり、魂までも統合された完全な存在として力を行使している。まるで完成された機構だ。
この状況で僕がしたのは、元の世界にあった政治体制に合わせて考えることだった。ルクスエリオス王国では、女王は国家の象徴であり、団結と力の象徴だった。でも実際の政治権力は、選挙で選ばれた宰相たちが握っている。これは不死鳥の力の構造に似ていると感じた。女王は国の魂を象徴しているけど、政治的にはほとんど無能で、完全な統治権は持っていない。不死鳥もまた、その存在は不死鳥という神の象徴としてみんな認識はしてはいるけど、魂がどこにあるかすらわからず、いわば魂の抜けた象徴だ。
一方で、竜と皇帝は一つの統合された存在として機能している。皇帝は竜の力を完全に行使し、その魂の影響も直接受け取る。まさに帝国の統治機構と同じだ。皇帝にすべての力が集約され、そこから出される統一された指揮系統、そしてそれによって行使される力によって、強力な中央集権体制として強い国家運営ができる。
その考えに至ったとき、僕たちの状況の深刻さが一層際立ち、異なる神々の力のあり方と、それに基づく統治システムの違いが、ますます鮮明になっていった。
そして、僕はミレイアを真っ直ぐに見つめ、静かに、でも確信に満ちた声で言った。
「僕はそんなこと、どうでもいい。」
自分でも驚くほど、言葉には確固たる決意が込められていた。
「元の世界では、僕の人生に価値なんてなかった。誰も僕を評価しなかったし、必要ともされなかった。でも、ここでは違う。ここでは僕にできることがある。少なくとも、僕を必要としてくれる人がいるんだ。」
僕は自分の心の中で、その思いがますます固まっていくのを感じた。
「だから、元の世界に戻れなくても構わない。」
その言葉は静寂に包まれた部屋に響き渡り、自分でも気づいていなかった覚悟が、確かにそこにあった。僕はもう、それこそ魂のない存在ではなく、この世界で必要とされる人間になったのだ。
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