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ヴァルトンの挑発は、僕の心に小さな棘を刺したけど、それが逆に僕の闘志を燃え上がらせた。ミレイアのような力はないと自覚していたが、それでも僕は立ち止まることはできなかった。新たな決意のもと、剣の柄を握る手が震える。何とか奴の弱点を見つけ出し、勝利に繋げる何かを見つけなければならない。でも、ヴァルトンが僕の初撃をあっさりといなしてみせたことから、奴が容易い敵ではないことは明白だった。

奴は軽やかに動き回り、僕を観察している。まるで狩りを楽しむ猛獣のように、僕の思考を読み取っているかのようだった。


「お前が何を考えているか、手に取るようにわかるぞ。」


ヴァルトンの声は冷たく、挑発的だった。


「俺の弱点を探しているんだろう?だがな、小僧、俺は無数の戦場を渡ってきた。その経験を踏まえて言うが、俺には弱点なんてない。」


僕は黙ったまま、奴の罠にかかるつもりはなかった。迷う一瞬が、命取りになる。奴が捕らえた少年少女たちを救うためにも、一切の躊躇は許されない。


突然、ヴァルトンは予想を超える速さで間合いを詰め、一撃を振り下ろしてきた。僕は何とかその攻撃を防いだが、腕に響く衝撃は強烈だった。歯を食いしばり、踏ん張りながら奴を押し返す。ヴァルトンの口元には悪意に満ちた笑みが広がっていた。


「いいじゃないか。」


奴は囁くように言うと、再び剣を振り上げ、次々と猛烈な攻撃を仕掛けてきた。僕は懸命に応戦し、剣が火花を散らすたびに心臓が激しく脈打つのを感じた。だが、奴の動きは余裕そのもので、まるで僕を楽しみながら弄んでいるようだった。


だが、僕は奴の遊び道具にはならない。剣を交わしながら、わざとつまずいたふりをして体を傾けた。その瞬間、ヴァルトンの目が勝利の光を帯び、奴は決定的な一撃を狙ってきた。


その瞬間を狙っていた僕は、体をひねって剣を一気に振り抜いた。ヴァルトンの目が驚愕に見開かれる中、僕の剣は奴の脇腹を切り裂き、血が飛び散った。傷は深くなかったが、奴をよろめかせるには十分だった。奴の表情が一瞬歪み、後退する。


僕はこのチャンスを逃すまいと、剣を構え直し、とどめを刺そうとした。だが、ヴァルトンは瞬く間に態勢を整え、僕の攻撃をあざ笑うかのように弾き返した。その動きは驚くほど速く、そして冷静だった。奴の目は依然として傲慢な光を宿し、勝利を確信しているようだった。


「それで終わりか?」


ヴァルトンは嘲笑交じりに言い放つ。脇腹から血が滲んでいるにもかかわらず、奴はまるでそれを気に留めることすらしなかった。奴の自信は揺るぎなく、僕は再び奴との実力差を痛感せざるを得なかった。


戦闘は激しさを増し、剣がぶつかり合う音が闇夜に響いた。僕の腕は疲労で重くなり、呼吸も荒くなる。それでも、戦いをやめるわけにはいかなかった。奴が捕らえた子供たちを解放するためにも、僕は戦い続けるしかなかった。


しかし、ヴァルトンの攻撃は一層鋭さを増し、次第に僕は追い詰められていった。奴の剣が僕の防御を崩し、ついに利き腕を切り裂かれた。痛みに呻き、僕は地面に崩れ落ち、剣が手から滑り落ちる。


奴は僕にとどめを刺すべく、剣を振り上げた。奴の顔には勝ち誇った笑みが浮かび、全てが終わろうとしていた。


だが、その瞬間、ヴァルトンの動きが止まった。奴はよろめき、肩から血が滴り落ちる。次の瞬間、ヴァルトンの首が宙を舞い、その巨体が地に崩れ落ちた。


僕は呆然と立ち尽くした。目の前に立っていたのはミレイアだった。彼女の剣には、ヴァルトンの血がまだ滴り落ちていた。


「言ったでしょう。あなたの弱点は力じゃない。精神なのよ。」


彼女の声は冷静で、厳しさが滲んでいた。その言葉の重みが僕の心に沈み、戦いが終わった安堵感と共に、僕の身体は完全に力を失った。


ミレイアは沈黙の中、滑らかで熟練した動きで、両手に持った二本の剣を鞘に収めた。そして最後に、飛ばされた僕の剣――彼女の三本目の剣――を、静かな威厳を持って拾い上げ、はっきりとした音を立てて鞘に収めた。僕はただ、月明かりに溶け込んでいく彼女が歩き去る後ろ姿を見守るしかなかった。

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