第3章 - 不死鳥と王国
1
ルクスエリオス王国がヴァルトンとの激戦に勝利し、ついに帝国から首都アークヴァレーを取り戻した。その瞬間、15年以上も待ち続けた悲願が果たされたのだ。かつて栄華を誇ったこの首都は、長い間帝国の支配下にあり、女王エリシアは避難先のイーストヴァレーで略式の戴冠式を行っていた。しかし今、ついに正式な戴冠式を、この歴史ある首都アークヴァレーで挙行する時が訪れた。
だが、その首都の姿は、かつての威厳とはかけ離れていた。アークヴァレーの多くが廃墟と化し、宮殿へと続く大通りは瓦礫や戦闘の痕跡、そして無数の死体で埋め尽くされていた。壮麗だった宮殿も、今や骨組みだけが残り、崩れ落ちた壁や、穴だらけの屋根からは雨が吹き込んでいた。玉座の間だけは、辛うじて原形を留めていたものの、長年の放置で汚れ果てていた。
女王エリシアは玉座に腰を下ろした。20年以上待ち望んでいたこの瞬間に、集まった国民たちは、歓喜や涙で感極まり、それぞれに思いを馳せていた。しかし、そんな民衆の喜びとは裏腹に、エリシアの表情には不満が浮かんでいた。
「ここは汚すぎる。暗くて不快だし、全然女王にふさわしくない。」
嫌悪感を露わにし、エリシアは苛立ちを隠さず大声で命令した。
「さっさと修理を始めなさい!それと、新しくてきれいな服と、まともな食べ物を持ってきて!」
彼女の言葉に、臣下たちは驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。場の空気は急速に冷え込み、不安げに前に進み出たのは宰相アルベルトだった。
「陛下、先の戦いでは皆が命を賭して戦いました。ここで、臣下たちに慰労の言葉をかけるのはいかがでしょうか?」
だが、エリシアの態度は変わらなかった。それどころか、彼女はより一層不機嫌な様子でアルベルトを睨みつけた。
「そんなことはどうでもいいの。できないなら、さっさと消えなさい。働かない者は必要ない。」
その冷たい言葉に、家臣たちの間には不満が広がっていった。多くの者が声を上げようとする中、一人、前に立ち上がった者がいた。それはミレイアだった。彼女は女王と群衆の間に立ち、毅然とした態度で口を開いた。
「皆さん、女王陛下は、私たちとは異なり、国を背負う重責と苦しみを一身に受けておられます。先の戦でも、陛下は私たちの士気を支え、いざという時には召喚士の力を使って共に戦う覚悟を持っていました。陛下はその役目を見事に果たし、私たちは勝利を得たのです。」
その言葉に、群衆は耳を傾けた。続けてミレイアは女王エリシアの方に向き直り、穏やかに頭を下げた。
「陛下、首都の現状について心よりお詫び申し上げます。すぐに動き出し、市街と宮殿の修復を開始いたします。そして、最高の衣服と食事もご用意いたしますので、少々お待ちください。」
再び群衆に向き直ると、ミレイアは深く頭を下げ、静かに語りかけた。
「首都がこのような状態にあるのは、すべて私の責任です。軍の最高責任者として、私の任務はアークヴァレーを戦いから守ることでした。すべて私の落ち度です。本当に申し訳ありません。」
その誠実な謝罪により、場の緊張は徐々に解けていった。群衆の間には、女王への怒りではなく、ミレイアへの同情心が広がり、やがてその場は落ち着きを取り戻した。
宰相アルベルトがミレイアに近づき、深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「ミレイア将軍、この場を収めてくださり感謝いたします。あなたの戦場での勇敢さと、この場での自己犠牲に、私たちはただただ感服するばかりです。」
ミレイアの行動は、女王の冷酷さと人々の求める優しさとの間の溝を埋め、その場を収めただけでなく、彼女の指導力と人間性を示すものとなった。
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