第14話初カウンセリング

「コンビニ着いたよ。一緒に行く?」

 いびきが止まった。

「行かん。」

「何がいる?」

「何でもええよ。」

 恵理子は良夫の好きそうなパンやおにぎり、唐揚げとジュースを買って車に戻った。これからの道筋が見えた事もあって安心したのか恵理子も空腹感を覚えた。今日は忙しく忘れられない一日になった。後ろを振りかえって毛布にくるまっている良夫に声をかけた。

「いろいろ買ってきたから。」

 恵理子は袋ごと良夫に差し出した。良夫は毛布の中から、手だけ出して受け取った。おもむろに起き上がると喉が渇いていたのかジュースを勢いよく飲んだ。恵理子もおにぎりを食べながら車を出発させた。こうして、良夫の不登校生活が始まったのだ。

 恵理子は今治に着くとまず、あすか薬局へ向かった。一時間近くの曲がりくねった山道は眠りを誘うらしく良夫はずっと寝ていた。

「よっちゃん着いたよ。」

 あすか薬局の駐車場に車を停めて恵理子は良夫に声を掛けた。

「ついたん?」

「あすか薬局よ。降りる?」

「家に帰らんの?」

「帰るよ。」

「ほんなら降りん。」

「ばあちゃん心配しよるがね。」

 良夫は返事をしなかった。

「お母さんは、ばあちゃんに今日の事言うてくるけんね。」

恵理子は、車のエンジンを付けたまま、一人で店に入った。入り口のチャイムが鳴ると芙美子の「はーい」と返事をした。

「私、恵理子。」

 そう叫びながら店の奥に入っていった。

店の奥に入ると二間ほど廊下があり、その奥に十畳ほどのリビングダイニングがあった。台所は六畳のフローリングで、横の六畳は芙美子の希望で畳が敷かれていた。今年八十歳になる芙美子は、お客さんが来ていない時は奥の畳の上で休んでいることが多かった。

 時計を見ると三時が近かった。台所へ行くと芙美子が心配そうに言った。

「お帰り、心配しよったんよ。よっちゃんは?」

「車に乗っとる。降りんって。」

 恵理子は冷蔵庫を開けて茶を取り出し、氷を沢山入れて、グラスに注ぐと一気に飲み干して、食卓の脇の椅子に腰を下ろした。

「あー疲れた。」

「お疲れさん。よっちゃんは大丈夫なんで?車暑いんやないんで。」

 芙美子は恵理子より良夫が心配で仕方がないようだった。

「アイスクリーム持って行ってやろ。」

 そういうと芙美子は、恵理子の事などお構いなしで冷凍庫からアイスクリームの箱を取り出して、松葉杖を突いて駐車場へ向かった。芙美子は二歳で小児麻痺に掛かり右足が不自由だった。恵理子も仕方なく芙美子の後をアイスクリームを食べながらついて行った。良夫は相変わらず後部座席で寝ころんでいた。芙美子は車のドアを開けて良夫にアイスクリームを渡して言った。

「よっちゃん疲れたろ?アイスクリーム食べや。」

 恵理子は二人の子供が生まれた頃から、芙美子が経営しているあすか薬局へ殆ど毎日一緒に出勤していたので良夫は芙美子とは抵抗なく接していた。芙美子の顔を見てほっとしたのかアイスクリームを受け取ると食べ始めた。

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