第13話親子でカウンセリング
相変わらず、始終にこやかな笑顔で二人のやり取りを聞いていた井上さんが言った。
「承知しました。予約させて頂きますね。先程もお話ししましたように、お母さんとお子さん別々でカウンセリングできますけど、お母さんも受けられますか?」
「はい。一緒に来るのですからぜひお願いします。」
子供と一緒に来ても、カウンセリングを受けないで、近所のスーパーで時間をつぶすお母さんもいると言う。恵理子は、自分が変わる為にも、是非プロのカウンセリングを体験してみたかった。
「じゃあ、十五日よろしくお願いします。」
恵理子はそう言って立ち上がった。
「今日はおいくら支払えばよいですか。」
森の家に来てから一時間は話を聞いて貰った。
「いえいえ、今日は結構ですよ。次回から頂きます。」
恵理子達は、部屋を出て玄関へ向い、玄関口まで送ってくれた井上さんに礼を言った。
「ありがとうございました。救われました。」
「どういたしまして。よく来てくれましたね。いい息子さんじゃないですか。次回お会いできるのを楽しみにお待ちしていますよ。」
「ありがとうございます。」
頭を下げて森の家を後にした。外は午後の日差しが一層まぶしく輝いていた。恵理子と良夫は駐車場まで歩いた。
「どんな感じ?」
「俺はわからん。でも来た方がええんやろ。」と、また同じことを言った。自分でもなんとかしたいのだなと思った。恵理子が同じ事を聞くので、同じことを答えるのだ。分かっていても不安に駆られて聞いてしまう。後で聞いた話だが、当事者は、良夫のようにすぐカウンセリングを受けるというわけにはいかない場合も多いらしい。どうなるかわからないが、取り和えず相談できる所ができてよかったと思った。
車での今治までの道中、芙美子に釘をさされたので、学校へ行くとか行かないとかそういう話はしなかった。良夫は、後部座席から手を伸ばして助手席に置いてあった水筒のお茶をごくごく飲んだ。
「もう、パンないの?」
「ないわ。もう一つメロンパンあったんやけど、お母さんが食べてしもたのよ。お腹空いたねえ。もう一時やもんね。途中で蕎麦でも食べて帰るで?」
「ううん。」
「ほんなら、コンビニでなんか買う?」
「うん。」
良夫はそう言うと、よほど疲れたのか、横になり毛布をかぶった。学校へ行けなくなったこの一か月、親と学校と自分の中の何かわからないものと闘っていたのだろう。学校へ行かなくても良くなったという安心感からか良夫は穏やかだった。松山市内の繁華街を抜けて、今治へ向かう山道の途中にあるコンビニの駐車場に車を停めた。後ろからはかすかに良夫のイビキが聞こえた。
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