第12話来た方がええんやろ。

 「ごめんね。勝手に進めて。でもね、お母さんじゃ、どうにもならないのよ。」

「ええよ。母さんがそう思うなら。」¥241005

 良夫はそう言うと、湯飲みの残った茶を飲み干した。

「いつがいい?」

「母さんが都合の良い時でええよ。俺は暇なんやから。」

 良夫の返事を聞いて恵理子は答えた。

「今からだと一番早く予約が取れるのはいつですか?」

「少々お待ちくださいね。」

 井上さんは、「よいしょ。」と、掛け声をかけて立ち上がり、部屋を出て行った。二人だけになり恵理子は良夫にもう一度聞いた。

「どんな?来られそう?」

 良夫は疲れていたのか。緊張していたのか井上さんが部屋を出ていくと、畳に仰向けに寝転び欠伸をしながら伸びをした。

「来た方がええんやろ?」

「お母さんもわからんけど、専門家がええいううんやけん、ええんやろ。他に方法が思いつかんのよ。」

「トントン。」と、井上さんが声でノックした。

恵理子達がいた部屋の戸はふすまだったので、入っても良いか確認の合図だった。さすがに配慮が聞いていると感心した。

「入ってもよろしいですか。」

 井上さんの問いかけに寝転んでいた良夫は慌てて起き上がった。それを見て恵理子は返事をした。

「どうぞ。」

 井上さんは予約ノートを持って入って来た。

「お待たせしましたね。」

今日が五月十日ですから、今だったら十五日が空いています。」

 恵理子は、壁に掛かっている大きなカレンダーを見た。十五日は月曜日だった。

「日曜日は空いていないですか?」

「土日はお休みにさせて頂いております。申し訳ございません。」

 恵理子は、その頃、芙美子に雇われていたので、芙美子に用事がなければ休みを貰えた。

「一応、十五日に予約をして、もし都合が悪かったら連絡したので良いですか?」

「良いですよ。お時間は今頃が良いですか?基本的に午後一時からなのです。」

「十五日の一時でお願いします。」

 そう答えてから、また良夫の了解を取ってないことに気づいた。これだから息子が不登校になるわけだ。反省しながら良夫に聞いた。

「よっちゃんの都合聞かないとね。ごめん。十五日の一時どう?」

 良夫は恵理子の目を見つめて静かに言った。

「俺はいつでもええよ。暇なんやけん。」

 毎朝学校へ行くために、起こされる日々から解放された事に安心したようだった。

「じゃあ、十五日の午後一時に参ります。よろしくお願いします。」

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