第11話ええよ。母さんがそう思うなら。
恵理子には下手な字にしか見えなかったが、病気ではないと言ってくれたので安心した。ここに尋ねて来る人は切羽詰まっている人が多いだろうから、発する言葉にとても気を付けているのが良く分かった。
「良夫君は、いつから学校へ行けなくなったのですか?」
「今年の四月からです。このままでは高校進学できなくなると思うと不安で良夫を追い詰めてしまったのです。」
「そうですか。星野先生の所に行かれて良かったですね。星野先生は森の家とも深い関わりがあるのですよ。」
「星野先生は病院では良くならないとおしゃったのです。不登校は病気ではなく、心の捻挫だから薬では治らないそうです。こんな考え方の先生いるのかとびっくりしました。」
「そうなんです。心療内科の先生もカウンセリングを勧めない方もいらっしゃいますからね。」
「私、薬局をしているのです。診療内科から不登校の子供さんに安定剤出ています。」
部屋には、外から鳥のさえずりが聞こえるくらいで静けさと薄暗さが恵理子と良夫の気持ちを、ゆっくりとなだらかにしてくれた。
「森の家の説明をさせて頂きますね。始めにお断りしておきますが、ここでカウンセリングを受けて頂くと料金が発生するのですよ。よろしいですか?」
「はい。私、ネットなどで調べてカウンセリングは料金がかかるのは知っています。」
井上さんが前もって説明するのは無理もない。話を聞くだけなのになぜ金をとるのかと思う人が田舎には多いのだそうだ。公民館活動の観劇やコンサート、カルチャースクール等も有料のものは人気がないと言う。
「カウンセリング料はお一人だと一回約一時間で三千円、お二人だと四千円です。超過しても追加料金は頂いておりません。良いですか?」
「はい。子供と親を別々にカウンセリングして頂けるのですか?」
「はい。」
有難いと思った。不登校や引きこもりなどナイーブな問題は事が起こってからすぐに解決するものではない。そういう場合、主に矢面に立って非難されるのは当事者より母親が多い。恵理子は前々からカウンセリングに興味があった。親が変わらないと、子供も変わらないだろう。親子で受けられるのなら恵理子も是非受けてみたいと思った。他でカウンセリングを受けたことはないが二人だと六千円のところ四千円と割引があるのは良心的だった。
「ご予約されますか?今日はこの後すべて予約済みなのですよ。いつがよろしいですか?」
恵理子は良夫の意見を聞かず井上さんと二人で話しるのに気付いた。
「よっちゃん、どうする?カウンセリング来てみる?」
「ええよ。その方がええなら。」
「ごめんね。勝手に進めて。でもね、お母さんじゃ、どうにもならないのよ。」
「ええよ。母さんがそう思うなら。」
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