第9話不登校は病院じゃ治らない。
恵理子は、星野先生や芙美子、強運の良夫や八百万の神に感謝した。「ついている。来てよかった。」もがきながら手探りで進んでよかった。電話で森の家の場所を聞いた、松山駅から車で五分ほどのスーパーの裏だと教えてくれた。星野クリニックの駐車場を出て森の家に向かった。森の家は、立ち並ぶマンションと大きなスーパーの谷間ひっそりと佇んでいた。松山にもこんな場所があるのかと驚くほど森の家は絵本に出て来るような小さくて古い一戸建てだった。周りの近代的な建物に佇んでいた。ビルの一室か、公民館の中にあるのかなと想像していた。崩れそうなブロック塀には「カウンセリングスペース森の家」と書かれた朽ちかけた小さな木の札がかかっていた。築三十年以上は経っていると思われる平屋の家の前には小さな庭があった。二坪ほどの庭には名前を知らない木が一本植えられていて三メートルほどはあり、木漏れ日がキラキラと輝いていた。足元にはには色とりどりのパンジーがが植えられていた。恵理子と良夫は庭を通り抜け、玄関の呼び鈴を押した。
「どうぞ。お入りください。」と、言う声に導びかれて、恵理子が古い木の扉を開けた。半間ほどの玄関には左端に下駄箱が置かれていて、恵理子と良夫が入ると身動きできないほど狭かった。薄暗い廊下に初老の背の低い、にこやかな笑顔の女性が出迎えてくれた。
「小林です。先ほど電話したものです。」
恵理子が頭を下げると、女性が満面の笑顔で答えた。
「小林さんですね。お電話ありがとうございます。よく来てくれましたね。どうぞお上がり下さい。」
女性は、恵理子と良夫を玄関から続く薄暗い廊下の奥の八畳ほどの広い座敷へ通してくれた。座敷の正面には床の間があり、カウンセリングに通う子供たちが作ったのか工作が飾られていた。部屋の右側には廊下があり、ソファーが置かれていた。廊下の向こうのガラス窓からは、さっき恵理子達が通ってきた庭が見えた。緑が日差しに映えて美しかった。松山の街中なのに喧騒はほとんど聞こえず、まるで絵本の中にいるようだった。恵理子と良夫は、部屋の中央に置いてある黒い大きな座卓の床の間側に座るように勧められた。
「少々お待ち下さいね。今お茶を持ってきますから。」
「ありがとうございます。」
恵理子は部屋を見回した。電気はついていたが部屋は薄暗く、カウンセリングルームの名前さながら森の中にいるようだった。目の前には兵士の格好をした若い青年の大きな肖像画が飾られていた。思い描いていたような相談室とは違っていた。ひんやりとした空気の中で不安が安心に変わっていくのを感じた。
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