第8話カウンセリング。
「カウンセリングしてくれる所をご紹介します。心の捻挫の原因を自分で見つけるためにね。」
「カウンセリングですか。」
「本当は、病院で僕ができるといいのですよ。でもごらんのとおり、診察に追われていて、僕一人じゃあできないのですよ。」
先生はそう言うと、引き出しを開けてパンフレットを取り出し机の上に置いた。そこには森の絵の上に「カウンセリンスペース森の家」と、書かれていた。恵理子はパンフレットを手に取り名前を読み上げた。
「モリノイエですか?」
「主に不登校のカウンセリングをしている所なのですよ。ここだったらゆっくり話聞いてくれるから良いと思うなあ。」
先生は背もたれのついた大きな椅子に深々と座り、背もたれに持たれながら言った。
「森の家はいつでも開いているんですか?私達今治から来たのですけど、今日これからでも大丈夫でしょうか?」
「それはわからないけど、電話してみられたらどうですか?」
恵理子は「蜘蛛の糸」のカンダタのように。闇の中で銀色に光る糸を見つけた気がした。先生に礼を言うと支払いを済ませ、駐車場の車の中でもらったパンフレットを見せながら良夫に聞いた。
「どうする?行ってみる?ここ。」
「母さんが行きたいなら俺はええよ。」
この子は、恵理子の顔色をうかがいながら我慢していたのだと思うと申し訳なかった。母親の不安が晴れないと自分も不登校の呪縛から解き放されないと思ったのかもしれない。車に乗ると良夫は後部座席でいつの間にか助手席に置いてあった袋の中からメロンパンを出して食べながら言った。食欲が出たという事は元気が出たという事だ。
「善は急げだ。」と、思った。恵理子は車を駐車場に停めたまま、森の家のパンフレットに載っていた電話番号に電話をした。祈るような気持ちで呼び出し音を聞いていた。車の時計を見ると、十二時を過ぎていたのでもしかしたら昼休みかもしれない。
「もしもし、カウンセリングルーム森の家です。」
優しく穏やかな年配の女性の声がした。
「もしもし、突然お電話してすみません。私小林と申します。今、星野クリニックで診察してもらって、先生にそちらを紹介してもらったのですが、これからカウセリングして頂くことはできますか?」
恵理子はこちらの思いが通じるように丁寧に話した。
「そうですか。森の家は完全予約制なので、予約が空いていているか見てきますね。」
保留音がしばらく流れた後女性が答えた。
「もしもし、今日これからすぐだったら空いてますよ。予約がキャンセルになったのです。二時まで空いていますのでどうぞお越し下さい。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます