第7話病院へ
「着いたの?」
「ほうよ。病院よ。行くよ。」
「うん。」
良夫はすっかり落ち着いていた。車を降りると恵理子と良夫は駐車場を横切り隣のビルの前に立った。見上げるとビルには「星野クリニック」と看板がかかっていた。エレベーターは無く、幅半間ほどの狭く暗い階段を恵理子が先になって上がって行った。階段の先には星野クリニックと書かれたガラスの扉があった。恵理子はゆっくりと扉を押して中に入った。十畳ほどのあまり広くない待合室には五人の患者が待っていた。恵理子は受付カウンターの中の女性に、電話した小林だと告げた。問診票を渡されて、恵理子は良夫と空いている椅子に腰を掛けた。心療内科という事もあってか、待っている患者は皆静かで生気がなかった。待合室の時計を見ると十一時十分だった。
「間に合ってよかった。」
独り言のように呟いて良夫を見ると恵理子の横に座って目をつぶっていた。待合室はエアコンがきいていて肌寒かった。
「大丈夫?寒くない?」
声をかけると良夫は黙って頷いた。午前中の受付は十二時までだと聞いたが時間を過ぎても診察してくれるのだろうか。不安を抱きながら待っていると三十分たった十二時前に名前を呼ばれた。診察室に入ると五十歳を過ぎたくらいの白髪交じりの髪の毛を短く整えた四角い顔の男性がこちらを見て優しく微笑んだ。
「こんにちは小林です。よろしくお願いします。」
「小林さんですね。どうぞお座りください。」
恵理子と良夫は並んで座った。
「どうされましたか?」
星野先生の問いかけに、良夫が学校へ行けなくなったいきさつを話した。星野先生は恵理子の話す内容をカルテに記入して顔を上げて言った。
「不登校はね、病気じゃないので、病院では良くならないのです。」
予想外の星野先生の言葉に恵理子は驚いた。
星野先生はエリ子の脇に黙って座っている良夫に一つ二つ質問したが、良夫は「はい。」」「いいえ。」と、簡単に答えた。星野先生は主に恵理子に話しかけた。
「カウンセリングをして子供さんの気持ちを聞いてやる必要があるのです。不登校は心の捻挫のようなものですから。捻挫しているのに無理やり運動させないでしょ。いくら薬を飲ませても捻挫はすぐには治りません。捻挫が治るまで待ってやる必要があるのです。」
先生は、顎に蓄えた白髪交じりのひげをなでながら恵理子と良夫を見つめて言った。
「そうなんですか。そうかも知れないとは思っても、もうどうしたら良いか分からなくて、カウンセリングしてくれる所が何処にあるかも分からないし、息子も病院へ連れて行ってくれと言うので来たのです。」
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