第6話親子でカウンセリング
「松山行くよ。なんか食べる?お腹空いとる?」
「ううん。」
良夫は首を振って髪が伸び放題の頭を掻きながら言った。恵理子は食事をしていないた良夫の為に、」台所にあったメロンパン二つと水筒にお茶と氷を入れて袋に入れた。
当時、あまり松山に車で行くことはなく、ましてや初めて行く病院の場所がわかるか、十二時までに間に合うか心配だった。とはいえ、とにかく行くしかないと思った。誰かに助けを求めるしかないと思ったのだ。317号線は今治と松山を結ぶ国道で、曲がりくねった山道だったが、道後方面へ行くにはこのルートが一番近かった。この日はとても良い天気で、松山へ抜ける山道の両側には目にも鮮やかな新緑が美しかった。良夫はいつものように後部座席で家から持ってきた毛布にくるまって寝転がっていた。ルームミラーを覗いて声をかけた。
「お腹空いてない?メロンパン持ってきたよ。」
「いらない。」
良夫は蚊のなくような声で答えて毛布を頭からかぶった。そういえば今朝の騒ぎで恵理子も朝食を食べていなかった事に気付いた。運転しながら、助手席に置いてある袋の中から持ってきたメロンパンを一口かじった。パンの表面のザラザラした部分が恵理子のオレンジ色のジャケットに散らばり車の中にメロンクリームの香りが広がった。恵理子は急に空腹感を覚え、あっという間に一個たいらげてしまった。317号線はカーブが多く片側一車線で運転は緊張を要するが、海岸周りの196号線より道後へ行くには近かった。
松山に入ってスーパーの駐車場に車を停め地図を広げて星野クリニックを探した。方向音痴の恵理子は無事行けるか心配だった。星野クリニックは、大通りに面したビルの二階にあった。ビルの隣にある駐車場に車を停めると、後ろで毛布にくるまったまま寝ている良夫に声をかけた。
「よっちゃん着いたよ。大丈夫?」
良夫はゆっくりと毛布から顔を出すと、まぶしそうに運転席の恵理子を見た。20
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます