第3話息子を壊すわけにはいかない

 このひと月、正夫も交えて学校へ行くか行かないか親子で話し合った。その結果、良夫の意思というより半ば脅迫的に正夫の強引な提案で五月の連休明けには学校へ行く事になっていた。良夫自身も何とかしなければならないと思っていたのか、うるさい大人の攻撃をかわす為に、一時しのぎの約束をしたのか正夫の提案に応じたのだ。しかしいざ学校へ行こうとすると、体が言う事をきかなかったので、恵理子は布団をかぶって苦しんでいる苦しんでいる我が子を一方的な約束で縛り追い詰めた。

「このまま学校へ行かなかったら高校へは行けないよ。」

 恵理子は布団から出てこない良夫に怒り怒鳴った。良夫はベッドから起き上がろうとせず布団を頭にかぶって背を向けた。その時恵理子の中で「プチッ」と、音がして何かが切れた。恵理子は、良夫の布団を無理矢理はがし、手を掴んで強引にベッドから引きずり下ろした。

「学校へ行くんよ。高校へ行けんやないの。」

 良夫は恵理子の顔を野犬のような殺気立った目で睨み叫んだ。

「うるさいんじゃ。何するんぞ。」

そう言うと良夫は床から立ち上がり、恵理子に向かってきて顔を殴り、突き倒し、傍にあった鶏の形をした目覚まし時計を壁に向かって投げつけた。覚まし時計は壊れ、部品が床に散乱した。壊れた時計は「コケコッコー。」と、すさんだ空気を切り裂いて鳴いた。しばらく放心状態で聞いていると「あんたたち何してるの?バッカみたい?」と。あざ笑っている気がしてばかばかしくなった。

「学校に行けないことがそんなにいけない事なのか。こんなに大騒ぎしなければならない事なのか。」

恵理子は部品の掛けた目覚まし時計を手に取って、スイッチを押さえたが鶏は鳴き続けた。壊れてしまったのだ。恵理子は体を起こして目覚まし時計の電池を取り出した。部屋には静けさが戻った。恵理子は涙が頬を伝うのを感じた。

「この時計のように良夫を壊すわけにはいかない。」

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