第13話 *

太陽の中で初めて瑠奈に対する別の感情が湧き出した。


「帰れ!」


もう一度瑠奈に言い放つと、太陽はテーブルの上に置いてあった、水族館で買った小さな袋を瑠奈に投げつけた。

そして、頭から布団を被った。



やがて、カバンから落ちたものを拾う音、それから衣擦れの音が小さく聞こえ、キッチンと部屋とを隔てるドアの開閉音、そして玄関の鍵が開けられる音がした。


玄関が開けられ、小さな靴音と、ゆっくりとドアが閉まる音が聞こえて、静寂がやってきた。


瑠奈は一言も言葉を発しなかった。


「何か言えよ……言い訳でもなんでもいいから、言ってくれよ。何で何も言わないんだよ……」



数時間後には起きて、バイトに向かわなくてはいけない。

もう必要ないかもしれないと思いながらも、行くと約束したからには、それをドタキャンするようなことはできない。



元々、瑠奈のためのバイトだった。


太陽は瑠奈と迎える「初めて」のために、最高のシチュエーションをプレゼントしたかった。


瑠奈の希望は「ホテルミラコルテに泊まりたい」というものだった。


ホテルミラコルテは5つ星ホテルの上に、12月24日はクリスマスで値もはる。

それでも瑠奈のために2泊予約した。

太陽は瑠奈の「初めて」を思い出に残る最高のものにしようと決めていたからだった。

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