第14話 *
太陽の初体験は中2の夏。
サッカー部だった太陽は、マネージャーと周りには内緒で付き合っていた。
内緒にしていたのは、単に冷やかされるのが嫌なだけで、彼女のことを本当に好きだった。
ある日、みんなが帰った後、部室に残って2人でいちゃついていた。
キスは付き合い始めて1週間くらいで済ませてしまっていたし、太陽としては早くその先に進みたかった。
それで、誰もいない2人きりの今がチャンスだと思い、部室の長椅子に彼女を押し倒した。
抵抗はされなかったし、お互い初めてにしては悪くなかったと思う。
ただ、埃まみれで、乱雑に物が置かれた部室は、彼女の思い出に残る場所としては、あまりいいものではなかったらしい。
当時は、「初めて」がそんなに大切なものだとは思ってもいなかった。
彼女が友達と話しているのを太陽は偶然聞いてしまった。
「部室? あんな汚いとこで初めてとかないわー。なんで嫌って言わなかったの?」
「そんな……だって、言える雰囲気じゃなかったから」
「初めてって一生忘れないよ? 日下部、女心がわかってない」
「もう、いいよぉ。済んじゃったことだし……千花は彼氏の部屋だったんだよね?」
「向こうの親、共稼ぎで昼間いなかったから。した後、『大丈夫だった?』って、ずっと抱きしめてくれた」
「……いいなぁ」
「朱里は?」
「無言で制服着て『帰ろっか』って」
「最低! 絶対ない! 顔が良くなかったら速攻バイバイだね」
「別に顔で好きになったわけじゃないから」
「本当?」
「……まぁ、ちょっとは顔もあるかな」
「ちょっとだけ?」
「う〜……顔です。顔で好きになりました」
ハンマーで頭を殴られたような感覚というものは、こういうものなんだと、太陽は実感した。その上で更に階段の上から突き落とされたような気持ちだった。
その後、なんとなくうまくいかなくなり、彼女とは別れた。
高校に入ってできた彼女は二人とも、他で経験済みだったようで、あっさりとしたものだった。
そんな経験もあったから、瑠奈といい思い出を作りたかった。
2人で朝目覚めた時に、瑠奈が笑顔を見せてくれるのが太陽の願いだった。
それなのに、瑠奈は太陽のそんな思いを踏み躙った。
(オレには『クリスマスまでは嫌』とか言っておきながら、他の男とはやってたってことだよな? あの基町って男と……)
太陽は目から何かがこぼれ落ちてくるのを無視して、布団の中で体を丸めた。
(オレと写真撮るのを嫌ってたのも、何も欲しがらなかったのも、オレとの間に、形に残るものが欲しくなかっただけだったんだ……)
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