第6話 *

太陽が映画の約束を当日ドタキャンされた次の日、瑠奈は大学に来なかった。


その日に限らず、瑠奈は大学に来ない日がだんだんと多くなっていた。

見かねた太陽が、瑠奈の単位の心配をすると、「太陽には関係ない」と突っぱねるだけで、休んだ理由を聞いても「朝起きれなかった」「面倒だった」といういい加減な返事を返してくるだけだった。




「なぁ、お前ら上手くいってんの?」


大きな教室での授業中、一番後ろの席に座っていることをいいことに、山里が太陽に聞いてきた。


「なんで?」

「いや、なんかさぁ、前に比べて吉高さんの態度がなんて言うか……」

「はっきり言えよ」

「……変わったくない? 前はもっと『何もかも幸せ』みたいな感じで、何やるのも嬉しそうだったし、お前といる時は特に楽しそうに見えた。それがいつからか、すっごいお前のこと……雑に扱ってるって言うか……」

「そうなのかな……」

「もしかして……」

「何?」

「いや……」

「はっきり言えよ」

「怒るなよ?」

「怒らないから」

「お前……満足させてないとか」

「何を?」

「何って……アレだよ。アレ」

「『アレ』じゃあ、わかんないって」

「だから……お前……あっちの方がヘタクソとか」

「……それはない」

「あ? じゃあ、満足してんだ」

「……やってないから」

「はぁ? 嘘だろ? だって何回もお前ん家泊まってるよな?」

「何で知ってんだよ」

「そりゃあわかるよ見てたら。何で?」

「『クリスマスまでは嫌』って言われてる」

「何だそれ?」

「オレに聞くなよ」

「それで、家に泊めて何もしてないとか、お前、修行僧?」

「言っとけ」

「いやいや、ないない」

「オレたちが納得してるんだからいいだろ」

「お前も納得してるってこと?」

「オレは……でもまぁ、きっと初めてって言うのは大事なんだろうと思って」

「吉高さんって処――」


山里が言おうとすることを慌てて太陽がさえぎる。


「口に出さなくていいから。多分、だよ」

「そういうのわかるもん?」

「まぁ、なんとなく」

「ぶっちゃけ何人?」

「何が?」

「今までの数」

「知るか」

「いいじゃん、俺とお前の仲だろ?」

「そんな仲じゃない」

「ふんっ。で、クリスマスどうすんの?」

「ホテルミラコルテに泊りたいって言うから予約した」

「げっ……クリスマスのホテルミラコルテって激高だろ?」

「まぁ。でもまだ半年近くあるし、バイトすればいいかな、と思って」

「俺、吉高さん見る目変わった」

「なんで?」

「わがまますぎだよ、それ」

「そうかな?」

「お前、仏かよ」

「修行僧の次は仏って、何だよそれ」

「いやぁ、悪いこと言わないからさっさと終わった方がいいと思うけど……お前、興味ないみたいだけど、女子に結構人気あるし。ほら、井坂とか」

「井坂は、違うと思う」

「そーかぁ?」

「うん、それは確か」


山里と話していると、確かに瑠奈の行動はわがままともとれる。

けれども、一緒に過ごしている時の瑠奈はそんなふうではない。

その違和感の正体はわからないままだった。


(もしかして、オレって騙されてる?)


そんな考えが頭をかすめたものの、太陽は一笑した。

なぜだか、「瑠奈に限ってそれはない」という確信めいた自信があった。

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