第5話 わからないこと
太陽と瑠奈は入学式の日から少しづつ話すようになり、GW前に太陽から告白して付き合うようになった。
奈帆も、太陽と同じ学部、同じ学科だったけれど、大学初日から盲腸で10日間休み、その後、更に祖母の葬式で1週間ほど大学を休んでいた。
そのため、瑠奈と太陽、そして奈帆の3人が顔を合わせたのは、GW明けで、大学の中で瑠奈と奈帆が話している姿を太陽は見たことがない。
だから、瑠奈と奈帆の間に接点があるとは思えなかった。
けれども、奈帆は何かと瑠奈のことで太陽に絡んでくる。
瑠奈がいない時、奈帆は太陽に瑠奈の悪口とも言えるようなことを吹き込んでくる。
「日下部くん、吉高さんに騙されてるよ。わたし、あの子が男の人と親しそうに歩いてるの見たんだから」
そんなふうにわざわざ告げに来る。
そのくせ反撃するとやたらと動揺する。
「それ、何のつもりか知らないけど、オレは自分の目で見たものしか信じないから」
「う、嘘じゃないんだから」
太陽と仲のいい山里はそんな様子を見て「あいつお前のこと好きなんじゃない?」と言ってきたけれど、太陽はそうでないことを知っていた。
一度だけ、太陽はカマをかけたことがある。
瑠奈と一緒に夜ご飯を食べに行く約束をしていた日、瑠奈の授業が終わるのを待っている太陽の元へ奈帆がやってきた。
「吉高さんならもう帰ったよ」
「え?」
「約束してたの?」
「まぁ」
「またすっぽかされたんだ。日下部くんはそんな子でいいの? こういうの初めてじゃないよね?」
「じゃあ、井坂が一緒にご飯行ってくれる?」
てっきりノってくると思っていたら、奈帆は意外な反応を見せた。
「……行かない。行くわけない」
「だったら、オレらのことはほっといて」
太陽がそう言った時、一瞬、奈帆はかすかに口角を上げたように見えた。
(こいつはオレを好きなわけじゃない。だったら何でわざわざ瑠奈のことを言いに来る?)
太陽にとって、井坂奈帆はよくわからない女だった。
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