第4話 *

ちょうど1週間前だった。

大学の講義の空き時間にふたりで見ていた動画に、途中映画の番宣が入った。

それを見た瑠奈の方が言った。


「この映画、観たいな」

「来週から公開みたいだから行く?」

「行きたい!」


太陽がすぐにスマホでチケットを購入するのを、瑠奈は覗き込むようにして見ていた。


「土曜日、2時に駅前で待ち合わせしよう。遅れるなよ?」

「遅れないよ。来週が楽しみ」


瑠奈は嬉しそうな顔をしていた。




「見たいって言ってたじゃん……」


太陽は無意識に言葉にしていた。


「日下部くん、誰と話してるの?」


振り向くと、太陽と同じ大学の井坂奈帆が立っていた。


「井坂か」

「もしかして吉高さんと待ち合わせしてた?」

「なんで?」

「さっき見かけたから」

「どこで?」

「駅ビルの中のLILIっていうアクセサリーのお店だけど。また約束すっぽかされた?」

「一応ここまでは来たけど、帰ってった」

「いい加減、別れたら?」

「それは考えてない」

「……他にもっといい子いると思うけど?」

「かもなぁ」



太陽の脳裏に、あの夜の瑠奈の顔が浮かぶ。

泣きながら「太陽、好きだよ……」と言った時の顔。



「井坂、暇?」

「え? うん」

「映画行く? 3時からだからもう始まってるけど」

「えっと……」

「ID教えてくれたらQRコード送る」

「一緒に行くんじゃなくて?」

「一緒は……これでも彼女持ちだから。井坂にも悪いし」

「……行かない」

「そっか。じゃあ、オレ帰るから。また大学で」



奈帆は太陽の姿が見えなくなるまで待って、カバンからスマホを取り出すと電話をかけた。


「日下部くんに会ったんだけど……どんだけ彼女好きなの?って感じ……てっきり『映画一緒に行く?』 とか言って来るかと思ったのに、わたし一人で行けってさ……別れるつもりなんて全然なさそう……もちろん、諦めたりしないよ」


奈帆は通話を終了すると、スマホを見つめたままため息をついた。

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