第3話 待ち合わせ
駅に設置されている時計は2時30分を示していた。
太陽はそれを確認した後、更に自分の腕時計を見た。
さっきから何度も交互に見ている。
瑠奈との待ち合わせは2時だったから、既に30分は過ぎている。
瑠奈はいつからか待ち合わせの時間に遅れて来るようになった。
以前はそんなことなどなかった。
むしろ、15分前には着いて待っているくらいで、太陽の方が時々遅れてしまうことがあった。
(いつから瑠奈は変わってしまったんだろう?)
そんなことを考えながらポケットからスマホを取り出し、その画面を見た。
何か連絡が来ていないか確認するのもついさっきやったばかりだった。
そもそもバイブにしてあるのだから、わざわざ見なくても連絡があれば振動でわかるはずなのに、画面を見てしまう。
瑠奈の方は、遅れてくる時は決まってスマホの電源が入っていない。
それ以外の時も電源が入っていないことが多いので、何度も電源を入れておいて欲しいと頼んだ。
「何かあったんじゃないかと心配になる」とその理由も説明した。
その度に、瑠奈は「充電を忘れていた」とか「授業中切っていてつけ忘れていた」など、言い訳をするのだった。
もうすぐ3時になろうかという時間になってようやく、駅の方から瑠奈が歩いて来るのが見えた。
その姿を見ると太陽の顔が自然に綻ぶ。
本当なら怒ってもいいはずのところをどうしても怒ることができない。
(仕方ないなぁ)
と、思ってしまうだけだったから、口調も柔らかい。
「めざまし時計はずっと壊れっぱなし? それとも捨てた?」
「無くした」
「瑠奈、またスマホの電源を切ったまま」
そう言われたら普通はスマホを取り出し電源を確認するところを、瑠奈はそうすることもなく、太陽の顔を見るだけだった。
「行こう。最初が少し見られないけど、まだ大丈夫だと思うから」
目の前の信号が青から点滅に変わる。
「走ろう」
太陽が瑠奈の手を掴もうとして、振り払われた。
「走るとか嫌」
「でも、ちょっとだし、オレが引っ張るから」
「嫌って言ったよね? もうやだ。帰る」
今来たばかりだというのに、瑠奈はくるりと向きを変えて、来た道を戻って行った。
ハッとしてすぐに追いかけたけれど、瑠奈の姿はもうどこにもなかった。
太陽は慌ててポケットからスマホを取り出し瑠奈に電話をかけたが、やはり瑠奈のスマホは電源が入っていないままだった。
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