第2話 *

太陽は一度眠りにつくと目を覚さないタイプだった。


高校時代、部活の合宿に行った時など、朝起きると油性ペンで顔に落書きをされていたことがある、という話を瑠奈に話して聞かせたことがある。


それなのに、初めて瑠奈の方から太陽を抱きしめてきた日、太陽はなぜか目を覚ましてしまった。

それで、瑠奈もクリスマスを待たずしてソノ気になったんだと勘違いして、それにこたえ、太陽も瑠奈を抱きしめた。

太陽の腕の中で、体を強張らせる瑠奈に、すぐに「失敗した」と思った。

だからすぐに「ジェシー、良い子だ」と、寝言のようにつぶやいた。


太陽の腕の中で瑠奈の緊張が解けるのを感じ、さりげなくゴロンと寝返りをうって瑠奈を離した。


ジェシーは、太陽の実家で飼っているゴールデンレトリバーの名前だった。

「実家にいる時はいつも一緒に寝ているんだ」と、弟が面白がって撮った、太陽がジェシーを抱きしめて寝ている写真を瑠奈に見せたことがある。


瑠奈は自分がジェシーと間違われただけだと安心したらしい。

背中を向けた太陽に再び体を寄せてきた。



それから幾度となく同様のことがあった。


それはいつも太陽が「寝ている時」。


太陽が起きている時に、瑠奈が必要以上に触れてくることはない。

「そういう雰囲気」になることを意図的に避けているようにも思える。


なぜ、起きている時は触れようとしてこないくせに、太陽が「寝ている時」はそういう態度を示すのか、理由は分からない。



太陽は、寝たふりを続ける。



数ヶ月後に訪れるクリスマスを、ふたりで過ごすと信じていたから。

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