第7話 出会い
「よし、今日も頑張るか」
昨日はほんの少しだけアクシデントがあったが充分に体を休めることができた。今日はしっかりと働かないとな。
「えっと、今日のクエストは」
俺がクエストを見ていると背中をトントンと指で叩かれる。俺は後ろを振り返る。するとそこには昨日話しかけてきたリズとそしてそのメンバーたちがいた。
「また会ったね」
「……あー、うん。そうだな。昨日ぶりだな」
若干そっけなくなってしまう。こんなところで話しかけられたせいだ。周りからの視線がしんどい。俺は今、逃げ出したい気持ちで胸がいっぱいだ。逃げても良いかな?
「えっと、じゃあ俺はこれからクエストだから。またな」
俺は適当なクエストを取って急いでその場を離れようとする。手に取ったのはフォール海岸だ。多少目的地が遠いクエストを選んでしまったが今はここから離れる方を優先しよう。
「ちょっと待って」
「………」
俺は何回呼び止められるのだろうか? 無視して逃げても良かったが、後で周りからなんか言われるのが面倒なので止まることにした。
「…えっと、なんか俺に用事でもあるのか? 依頼場所が遠いからなるべく早く出たいんだけど」
俺は少し急かすように言う。周りの冒険者は俺たちを見ている。早くここから離れたいなぁと思っているとリズが少しだけ近づいて来た。
「それってなんのクエスト?」
「まぁ、普通のクエストだよ。フォール海岸のクエストを受けに行くんだ」
「……一緒」
「……ん?」
リズが小さく呟いた。一緒? 一体何が一緒なんだ? 俺はその言葉の意味を考える。俺が考えているとリズがクエストの紙を見せてきた。
「私たちもフォール海岸にクエストに行く」
「へぇー。こんな偶然もあるんだな」
「「「………」」」
なんか後ろにいる3人が無言でめっちゃ見てくる。周りからも見られるし、とても居心地が悪い。
「じゃあ、俺はもうクエストに行くから。お前らも頑張れよ」
「……うん」
俺はなるべく早く足を動かしてギルドを出た。
▲▲
「……ね? 言った通りだったでしょ?」
「うん、確かにいつも見ていた男の人とは違うね。リズもそうだけど僕たちを見る時も下心とか見えなかった」
「……それになんだか早く会話を終わらせたいようにも見えたね」
ステラが言うように彼は会話を早く切り上げようとしてたように思える。ふと、周りを見ると他の冒険者が僕たちを見ていた。たぶん、これが原因なのだろう。
「……それより、私たちも早く馬車に乗りに行った方が良いんじゃないですか?」
「確かに。じゃあ、行こうか」
僕たちも彼と同じようにギルドを出る。
▲▲
「はぁ、なんかちょっと疲れたな」
俺は少しだけため息をつく。あーやって静かな空間になって見てくるのは本当に苦手だ。一挙一動を全部見られてるような気になってしまう。
「あいつらも同じ場所って言ってたよな? なら会わないようにさっさと馬車に乗って出してもらうか」
俺は金を払って馬車に乗せてもらうことにした。幸いにも馬車はあと少しで出るらしい。なら大丈夫だな。俺は馬車に乗り込んだ。
「お、ふかふかだな」
馬車の座席にはクッションのような物が置いてあった。俺はその上に座る。これなら馬車での移動も全く苦じゃないな。
「そうだな。目的地に着くまで少し休むか」
幸いにも今、馬車に乗っているのは俺と小さな娘を連れた母親だけだ。これならスペースを広々と使っても良いのか? そんなことを考えていると声が聞こえた。
「すいません。4人乗っても良いですか?」
聞き覚えのある声だ。俺の意識はそっちに向いてしまう。まさか、あいつらなのか? いやいや、まさかそんな。あいつらは男が嫌い、そして俺は遠回しに次の馬車になることを示した。なら、たぶん次の馬車に乗るはずだ。うん、人違いだな。
「また会ったね」
「ソーデスネー」
リズが馬車に乗って来た。俺の予想は外れたようだ。俺はなるべく馬車の隅になることにした。せっかく優雅な旅になると思ったのに。
「……そういえば名乗ってなかった。私はリズ、あなたは?」
「俺はグレンだ。よろしくな」
とりあえず、形式上の挨拶は終わらせたので目を閉じて眠ろうとする。すると何やら妙な視線を感じる。俺は目を開ける。
「あの、リズ…さん?」
「リズで良い。なに?」
「いや、その。やっぱりなんでもないです」
「……そう」
もう気にしないことにしよう。どうせ、すぐに飽きるだろう。俺は気にせずに眠ろうとした時、目の前の小さな子が母親に向かって話しかけた。
「ねぇ、ママー? 馬車の中つまらない。なんかないのー?」
「向こうに着いたら色々あると思うからそれまで我慢してね?」
「えー! やだぁ! つまんないー!」
子供は母親の服を引っ張って駄々をこねる。母親はそれを見て困ったような顔をする。しょうがないな。俺はまず魔法を使ってシャボン玉のような物を作り出してそれを娘の近くで浮遊させる。
「触ってみるか?」
「うん!」
娘がそれを触ったと同時に弾けさせる。次にさらに多くのシャボン玉を作って娘の近くで浮遊させる。
「わぁ! すごいすごい!」
娘はご機嫌になった。母親は俺に頭を下げてお礼を言ってきたので俺は笑って「大丈夫ですよ」と答えた。
「ねぇねぇ、他には!? もっと見せて!」
「うーん、そうだなぁ」
俺はそこから目的地に着くまで延々と娘に魔法を見せることになった。全然寝れなかったけど、まぁ良いか。
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