第4話 クエスト開始②

「………」



 異常なくらいに静かだ。雷豪龍も動かない、ただじっと僕たちを見つめている。だが、そんな時間もずっとは続かない。



「っ!」


 再び雷豪龍が動き出す。角に光が集まり、次第にそれは音を発し、雷となっていく。僕たちはその場から離脱する。



「……やっぱり」



 思ったとおりだ。あの龍が雷を放つまでには一瞬隙がある。これならもしかしたら倒せるかも知れない。僕はみんなにその情報を共有しようと声をかける。


「みんな……」


「分かってるよ」


「タメができるってことですよね?」


 リズも頷いた。どうやらみんな分かってるらしい。僕は一度、みんなを見てそのまま雷豪龍の元まで駆ける。ステラも僕が動き出すと、一緒について来てくれた。


付与エンチャント氷結コールディ!』



 リズは僕の剣、ステラのナイフに氷の属性魔法をつけてくれた。これならダメージが入るかも知れない。肉体強化の魔法は……そろそろ終わりが近いな。



『霧の囲い《フィルアミスト》!』



 カーラが魔法を唱えると雷豪龍の頭部が霧で覆われた。龍は一瞬何が起きたのか分からず霧を払おうと頭を振る。龍の意識が4人から霧へと変わった。それはあまりに大きな隙となった。



「今だっ!!」


「ハアッ!!」



 僕の合図でステラが雷豪龍の足元にナイフを突き刺す。すると、突き刺したナイフから冷気が漏れ出し、徐々に龍の前脚を凍結させていく。



 これは最大のチャンスだ。僕は反対の龍の前脚を斬り、跳躍した。一瞬ステラがナイフ抜いて後ろに移動して行くのが見えた。霧に中に入ると龍と目が合った。すごく怖いがやるしかない。


「ハアッ!!」


 僕は最大の力を込めて龍の顔を斬った。きりさかれた龍の頬からは血が流れずに凍っている。体には無数の傷ができて全て凍っている。おそらくステラが傷をつけたのだろう。



「はぁ、はぁ」



「ねぇ、これなら……」



「考えていることはみんな同じ」



 僕たちは息を整えながら、一度離れる。僕たちの考えは一緒だった。これなら勝てると思った。



 そして同時に嫌な予感が頭をよぎった。



(本当にこれがランク10のモンスターなの?)



 そうだ、ランク10のモンスターにしては手応えがなさ過ぎる。確かにこのモンスターは強い。あの雷を一撃でも貰えば死ぬと思う。



 でも、それでも良いとこランク9だ。到底10もあるようには思えない。それにあの龍は妙に落ち着いているのが気になる。動揺した動物はもっと焦ったりするはずなのに……不気味だ。



「すぅ、はぁー」


 僕は嫌な考えを払拭しようと一度大きく息を吸い、みんなを見る。みんなの顔も険しい。やはり、あの龍の態度が気になっているのだろう。



 僕たちが警戒していると、再び雷豪龍の角が光り出す。


「「「「っ!!」」」」



 僕たちは考えるのをやめて回避した。でも、そこで奇妙なことが起きる。僕は目を見開き、カーラが冷や汗を流しながら呟く。


「それ……は」



 雷豪龍の周りに雷が走る。角だけではない、全身に雷を纏っているような状態だ。あれでは近づかない、いや…それだけではない。



 もし、あの全身に纏っている雷をそのまま放たれたら? 嫌な予感は確信になった。僕はみんなに逃げるように伝えようとする。



「みんな! 逃げて!」



「っ!! 『プロットアーマー!』」



 リズは全員に防御の魔法を付与した。おそらく逃げ切れないと判断したのだろう。そしてその判断は正しかった。


 あの龍は全ての範囲に雷を放った。僕たちはそれをまともにくらった。



「ぐっ、うっ」


 リズの魔法の、おかげで少し体が焼けるだけですんだ。あの時、リズが魔法を付与してくれなければ死んでいただろう。




「みん……な。生きて、る?」



「………」



 誰も答えない。まさか、死んだのだろうか? そう考えると涙が出そうになる。


「みん、な」


 僕は痺れてほとんど動かない体を必死に動かしてみんなのところに行く。近くにいたカーラに触れた。



「っ!! 良かった……」



 息がある。リズとステラも息をしている。どうやらみんな気絶しているだけみたいだ。思わず安心してしまう。だが、最も重要なことが頭から抜けていた。



「っ!!」



 地鳴りのような音。あの龍が一歩こちらへ近づいて来た音だ。



「みんな、ごめん……」



 僕も動けない。みんなを助けることはできそうにない。だから、せめて死ぬ時は一緒に死のう。僕は目を閉じる。



「……」



 龍の口を開く音が聞こえる。あぁ、本当に終わりだ。僕たちの冒険はここで終わりか。でも、もう少しだけ……



「みんなと、一緒に居たかったなぁ」



 突然の轟音と突風。一体何が起きたのか? 僕は残り少ない体力を使って目を開ける。



「あれ、は……?」



 目に映ったのは吹き飛ばされた龍、そして僕たちの先に庇うように黒髪の男の背中が見えた。



「え、あの……」



 僕が話しかけようとしたと同時に土の壁が現れた。黒髪の男は見えなくなってしまう。あの人からは敵意も殺意も感じなかった。もしかして助けてくれたのだろうか?



 そう思った瞬間、僕は安心してしまった。そのまま意識を失ってしまった。

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