【BL】漂白

うはは

漂白

親友の家に遊びに行き、彼の自室の扉を開く。目に入ったのは、──真白が俺の目の前に立っていた。



真白ましろとは幼馴染だ。お互いの家は隣同士で、自然と顔を合わせる機会が多かった。だから、自然に一緒にいることが当たり前になっていた。真白は、小さい頃から無口で、感情をほとんど表に出すことが無い奴だった。俺がどんなに話しかけても、軽く相槌を打つだけで、自分から何かを話すことがめったにない奴だった。でも、他のクラスメイトに声をかけられても、完全に無視していたので、俺が多少特別扱いされていることを感じていた。

真白はとにかくモテた。クラスメイトの女子だけじゃなく、他クラスの子からも告白されるほどだ。俺が片思いしていた女の子に「肌白で、憂いを帯びた顔がいいのよ」と真白の魅力を熱弁されたときには、思わず苦笑いしたのを覚えている。しかし、真白本人は恋愛に興味が無かったようで、告白されたその足で何事もなかったかのように俺と帰ることが何度もあった。



俺は真白の容姿を意識したことなんて一度もなかった。けれど、今目の前に立つ彼の姿は、見慣れた親友のそれとはまるで違っていた。セーラー服は真白にとって少しだけ小さく、彼の曲線的で艶めかしい体のラインがくっきりと浮かび上がっていた。肩にさらりとかかる黒髪が、白く透き通った肌を一層際立たせ、その対比が俺の目を奪う。一歩、二歩と、真白がにじり寄ってくる。制服のリボンが微かに揺れるたびに、何かが壊れてしまうほどの美しさを感じた。

気づけば、俺はベットの上で真白に押し倒されていた。顔先にまで近づく彼の顔は陶器のように白く滑らかで、思わずたじろぐ。とっさに身を引こうと後ろに動くが、真白の細い手が俺の腕を掴み、その見た目からは想像できない強い力で締め付けられた。動けない。

真白の涼やかな瞳が俺を真っ直ぐ見据える。


「…俺、当麻とうまが他の誰かと付き合うって聞いた時思ったんだ」


「嫌って」


「だから、どうすれば渡さなくて済むか、どうすれば俺から離れないように、できるかって」


すらりとした、細く長い指が俺の胸元を、ゆっくりとなぞる。その動きはまるで舐めるようで、俺の皮膚はそこだけ異様に敏感になっていくのを感じる。心臓が痛いほどに、けたたましく鼓動を打っていた。

駄目だ、俺には彼女がいる。三ヶ月もかけて、じっくりと互いの気持ちを確かめ合って、ようやく付き合えた大事な恋人だ。彼女を裏切るわけにはいかない。それに、もしここで真白に応じてしまうと、俺たちの関係はきっと、取り返しのつかない関係になってしまう気がする。真白は、混乱しているんだ。うまく整理できずに持て余す感情を、勘違いしているだけなんだ。俺が冷静に話して、真白に落ち着くように伝えれば、誤りに気付くはず。じっくり話を聞いてやれば、きっと元の真白に戻るはずだ。

そして何事もなかったかのように、俺がいつものように接する。そうすれば、今の歪んだ空気もすぐに消えて、元に戻る。そうだ、俺がしっかりしなきゃ。

ああ、そうなのに、そうなのにどうして。この欲求は、真白をめちゃくちゃにして、貪りたい──この気持ちは。


真白が、俺の耳許にそっと唇を近づけて、ゆっくりと囁く。


「当麻がしたいこと、俺に、全部ぶつけて」


「…お前の彼女には、できないことも」


「…だからさ、だから」


「……俺じゃ、駄目か?」


ぷつり、と頭に響く。理性が何かを叫んでいる。でも、俺は、真白の声、姿に、抗えなかった。




漂白とは、色素を分解あるいは変化させ脱色し、白くする処理を指す。

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