第6話 SSS級魔導師 対 魔王討伐に一番近い男
ジムは獲物を狙う鷹のごときするどい踏込で、俺の左肩口から右脇腹へ斜めに剣を振り下ろす。
「もらった! ―――!? くっ、この! てりゃあっ!」
ジムの剣が空を切り、俺は次々と繰り出される斬撃をジムを中心に回りながら避けていく。
「くそっ、なぜだ! なぜ当たらない!? 僕の剣筋は魔王直属の七魔、俊足のカッツェルすらとらえたというのに……」
通じないと気づいたのか、ジムはバックステップして俺から距離を取ると剣先を俺へ向け。
「それに貴様も、魔導師と言うならなぜ魔法を使わない!?」
苛立ちをぶつけるように声を荒げ、鋭い眼光で俺を睨みつけた。
「いや、そもそもここで戦うこと自体冒険者ギルドへの迷惑になるだろ。それなのに『なぜ魔法を使わない!?』って、おまえ常識って言葉を知らないのか?」
「―――な、なんだとっ!? ここまで僕をこけにするとは、後悔するぞ……」
「ガハハハ、こりゃ一本取られたなジム!」
「あの兄ちゃんなかなかおもしろいやつだな。だが、ジムを本気にさせちまったみたいだぞ」
ジムは剣を鞘へ納めると、なにやらぶつぶつとつぶやいてから右手を前に突き出す。
―――次の瞬間。突如として発生した光の粒が一か所に集まり、それはまばゆい光を放つ。おもわず何の光っ!? と叫びたくなるようなそれが収まると、ジムの右手に神々しい一本の槍が握られていた。
「これは七魔、俊足のカッツェルを倒して手に入れた神器のひとつ。『
神器だって? もしかしなくとも俺が集めるように言われたやつじゃないか!
俺は早速アナライズの魔法を使い情報を確認する。
『ランクSSS、
「悪しきを貫く光の槍! 【スピア・オブ・フューリー】」
ジムが槍投げの体制をとると、アスカロンを中心にして円を描くように、同じ形をした光の槍が12本出現する。光の槍は野球のバットくらいの太さがあり、いかにも必殺技といった感じだ。
「おいっ! そんないかにも大技っぽいもん避けたら、周りに被害が出るだろうが!」
「……ふっ、避けられること前提か。ならSSS級魔導師なのだから……、防いで見せろっ!!」
ジムはアスカロンを俺に向けて投擲し、動かないことを選択した俺にアスカロンと光の槍すべてが直撃。閃光が辺りを包み、その場にいる誰もがジムの勝利を確信したっ!
「フッ、本当にSSS級魔導師だったとしても、この至近距離からの【スピア・オブ・フューリー】ではひとたまりも……なにっ!?」
閃光が収まると、俺が先ほどと変わらず平然と立っているのを見てか、ジムが後ずさりする。
「残念だったなジム。俺は防御魔法、【エーテル・リフレクト】を発動していた。これでお前の攻撃は無効だ」
エーテル・リフレクトは無属性の上級魔法。使用者へのあらゆる攻撃を吸収して増幅し、好きなタイミングで発射することができる。
とっさの判断で防御魔法を検索して発動したが、ここまで強力とはなぁ……。傷ひとつどころか、服の破れすら存在しない完全なノーダメージだぜ。
「そ、そんな……ありえない……。神器の一撃を受けて、むむむ無傷だなんて……」
ジムは崩れ落ちてしりもちをつき、体をガタガタと震わせている。
「うっそだろおい!? まじかよ!! 魔王討伐に一番近いと言われるあのジムが、手も足も出てねえぞ!」
「まさか本当に、あんな若い兄ちゃんが……SSS級魔導師なのか?」
ジムの勝利を確信していた観客が一瞬にしてざわつき始めた。
「さてと、こんどはこっちの番だな。一応手加減して一本にしてやる。【リフレクト:スピア・オブ・フューリー】」
「ひぃいいいいいい! れ、レベルが違いすぎるぅううう!」
俺の眼前に鉄骨のような太さをした光の槍が出現すると、ジムが半べそになりながら背中をみせて逃げ出そうとし。
「バン!」
と、大声で言うと、ジムはビクンと体を跳ね上げてから、ごろんと仰向けに寝転がり白目をむいて動かなくなった。
[まったく、こんなんでよく決闘なんて言いだしやがったな。ま、おかげで神器も美少女も手に入ってまさに一石二鳥だけど]
俺はエーテル・リフレクトを解除して所持アイテム一覧ウインドウを開くと、ジムの足元に転がっているアスカロンを拾い上げてウインドウに刺して収納する。これで一覧にアスカロンの名前が表示され、いつでも取り出すことができる。
「それじゃベリルちゃんにネリアちゃんだっけ? 俺は橘一真だ、気軽に一真と呼んでくれ。これからよろしく頼むぞ? ぐへへ」
ふたりともなかなかエロイ……いや、女性に対してこの感想は失礼だな。シコリティの高い体をしている。
これはこれからの冒険が楽しみだぞ!
「「……」」
あらら? 何の反応もないときたもんだ。やっぱりなんか変だなぁ?
「どうしたんですか……一真さん!? 何かあったんですか?」
騒ぎを聞きつけたのか、トイレに行っていたアルマが走って戻ってきた。
「お、アルマちゃんお帰り。突然だが新しい俺のハーレムを紹介しよう。赤髪の女性がネリアちゃんで、緑髪の女性がベリルちゃんだ」
「ハ、ハーレムですか!? とりあえず、よろしくお願いします」
「「……」」
アルマは目を見開いてぎょっとし、ネリアとベリルの方を向いてぺこりと頭を下げるも、ふたりは何の反応も返さない。するとアルマが何かに気づいたようで、俺の裾を引っ張ってくる。
「一真さんあれ、服従の首輪ですよ」
アルマがそう言って指差したのは、紫色のチョーカーだった。
「服従の首輪!? なんだその男の夢が詰まっ……恐ろしい名前の首輪は!?」
「服従の首輪はSランクの魔法アイテムで、あれを着けられたら最後……。所有者が権利を放棄するまで、都合のいい人形になってしまうんです。なのでこの方たちはもう……」
あの野郎、ハーレムを外道とか言っておきながら自分は美少女を奴隷にしてやがったのか! なんでゲス野郎なんだ、絶対許せねえ!
俺は魔導書を開き『魔法解除』のキーワードで検索をかけ、ピックアップされた魔法を発動する。
「【アンチ・マジック】」
ベリルとネリアがつけていた服従の首輪が砕け散ると、ふたりの目に光が戻った。
「―――!? 動く! 体が自由に動く! ベリルは?」
「わたくしも自由に動きます。どうやらこのお方が解放してくださったみたいですわね」
どうやら正気に戻ったようで、ベリルは深々と頭を下げるも……。
「ベリル、礼を言う必要なんてないわ! こいつさっき、あたし達をハーレムに加えるって言ってたのよ? このままじゃ、あたし達何をされるかわかったもんじゃないわ! 早く逃げないと」
ネリアはベリルの手を引っ張りこの場から離れようとするも、ベリルが説得してなだめている。
「たしかにあの兄ちゃんだいぶ若いし、あんないい女がふたりもいたら……。なにもしないわけないよなぁ」
「こりゃ毎日、昨夜はお楽しみでしたねってパターンか? うらやましいぜちくしょうっ」
あの観客ども人を野獣みたいに言いやがって、俺クラスの紳士世界中探したってそうは……。
ん? まてよ。あのふたりが状況を理解してるってことは、服従の首輪をつけていても意識はあるってことか! こんなすばら……恐ろしいアイテムがあるなんてさすが異世界だな。
「なんでわからないの? こいつはきっとあたし達を慰み者にするつもりよ!」
「やめなさいネリア。一真さん、申し訳ありません。ネリアは素直じゃないんですの」
「何言ってるのよベリル! きっと死んだ方がましな辱めを受けるんだからっ」
俺まだなにもしてないのに、なんでこんなボロクソに言われてるんですかねぇ?
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