第7話 強者の証、青い冒険者カード

「いい加減にしろ! 一応俺は助けてやった恩人だぞ!」


 静観していたが、このままではストレスで毛根が死滅しそうなので思わず声がでてしまった。


「あんたなんか豚よ!」


「やめなさいネリアッ。豚は綺麗好きで知能も高いの、それでは豚に失礼だわ」


  なんだとこのぉ? 仏の顔を三度までという名セリフを知らないのかよ!


「ああわかった。そこまで言うなら徹底的にやってやる! 覚悟しておけっ」


 グヘヘ、女として生まれたことを後悔させてやる。


「くっ、本性を現したわねこの変態っ! あんたの思い通りになんて絶対ならないんだからっ!」


 ネリアはいい感じにツンツンしているな。だが美少女ゲームでこういう女の子の堕とし方は研究済みだ。


「そうかそうか。なら指先が生きていると言われた俺のスーパーテクニックに、いつまで耐えられるか今から楽しみで仕方ないなぁ? さっそく宿屋に…… 」


 俺は十本の指を滑らかに動かして舌なめずりしてみせるも、忘れていたが現状無一文。宿屋に連れ込んでニャンニャンしたいが、まずは依頼を受けるのが先だな。


「いや、なにか依頼を受けよう。それに、怒りの矛先を向けるのは俺じゃなくてそいつだろ?」


 俺は気絶しているジムを指差すと、そちらを見たネリアが目を見開く。


「そうだった! よくもあたし達を騙してくれたわね……。ベリル、まずはあいつにお礼をするわよ」


「それには賛成です。では一真さん、一度失礼しますわ。また後程」


 ベリルとネリアは、気絶しているジムを引きずり冒険者ギルドから出て行った。


「あ、嵐のような人でしたね……」


「あれくらい元気があった方が俺は好きだけどな。さてアルマちゃん、依頼を受けるにはどうしたらいいんだい?」


「えっとそれならまず、冒険者カードを作った方がいいですよ! 受付はこっちです」


 アルマの案内を受けて、受付の方へ歩いていく。

 どうやらさっきの一件で有名人になってしまったらしく、冒険者達が気軽に話しかけてきた。


「おい、兄ちゃん! 若いのにすげえ強いな!」


「魔王討伐に一番近いと言われたジムを、赤子の手を捻るように倒しちまうとはな。活躍に期待してるぜ!」


「いやいや、それほどでもあるさ! 俺の名は橘一真、歴史に名を刻む男の名をちゃんと覚えておくんだぞ!」


「一真さん、すごい人気ですね。わたしも有名になれるよう頑張らないと」


 アルマは何かを確認するように数回首を縦に振る。


「ようこそ、冒険者ギルドへ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付に到着するとそこにはバニーガール姿の受付嬢がおり、自然と視線がその立派な谷間へ吸い込まれていく。


「冒険者カードを作りたいんですけど」


「はーい。それでは係員のマリンが担当させていただきます。……よいしょっと、こちらの口に右手を入れてくださいませ!」


 マリンはカウンターの上に、真実の口によく似た炊飯器くらいのサイズの物を置いた。

 俺は言われた通りに口の部分へ右手を突っ込むと、額のあたりから一枚のカードが排出される。

 

「はーい、もう手を抜いても大丈夫ですよー。今排出されたのがあなた様の冒険者カードになります」


「ほぉー、どれどれ? って、なんだこれ? 真っ青……いや、何かロゴのようなものが……」


 冒険者カードを確認すると、それは片面の中央にチベットスナギツネの顔が描かれた真っ青なカードだった。

 

「ちょっと見せて頂いてもいいですかー? こ、これはブルーカード!?」


 マリンに冒険者カードを渡すと、ブルーカードとやらを見つめて驚きの声をあげる。


「……ブルーカード? ブルーカードなんて、わたしはじめて聞きました。いったいどんなカードなんですか?」


「でわでわ、僭越せんえつながら、マリンがご説明いたしましょう! ブルーカードはですね、職業ランクがSSS級以上かつ全ステータスが高すぎて測定不能な場合、冒険者カードが変異して青くなってしまうんですよ」


 なるほど。転生特典で大幅にステータスが上がっているのだから、当然と言えば当然か。


「これって、今後の冒険に支障とかないんですかね?」


「支障だなんてとんでもない! ブルーカードは強者の証、支障どころか女性冒険者に頼りにされてモテモテですよ? ヒューヒュ-。しかも、ブルーカードなら問答無用で虹の懐中時計が支給されちゃいます!」


 マリンによると職業ランク毎に虹、金、銀、銅の懐中時計が支給され、それによって受けられる依頼が変わってくるらしい。更に宿泊や買い物等の支払いで金以上の懐中時計を提示すれば、料金が割り引かれるそうだ。


「ありがとう。じゃあさっそく依頼を受けたいんだが……」


 俺はマリンから虹の懐中時計を受け取ると、さっそく依頼についてたずねてみる。


「それなら、ギルド内左手奥にある依頼掲示版をご覧ください。あのぉ……つかぬ事をお伺いしますが、職業の方はいったいなにを?」


 マリンが人差し指を顎に当て、頭を傾けて問いかけた。


「職業? SSS級魔導師だよ。じゃあさっそく依頼を探しに行きますか!」


 俺は依頼掲示板へと向かう。

 依頼書は量が多すぎて依頼掲示板におさまらず壁一面に所狭しと張り出されており、依頼書にはそれぞれ、依頼主、難易度、依頼の内容、報酬が記載されている。

 依頼掲示板の前では、俺達以外にも多くの冒険者が依頼書とにらみ合っていた。


「ひゃー、こんだけ量が多いと探すのも一苦労だな」


「難易度D~Sランクまでの依頼が不規則に張り出されてますからね。とりあえずDランクの依頼は……あ! 一真さんならSランクの依頼がいいですよね。でもそれだとわたしがいたんじゃ邪魔になっちゃうし……」


 俺は依頼書を見ながら右往左往するアルマに、重要な質問をしてみる。


「アルマちゃん、サイショタウンの宿代っていくらくらいなんだ?」


「えーと、たしか下調べしたときは……顧客満足度1位の宿屋が一泊二食付で、1人4629ゼニーだったと記憶しています」


 異世界にも口コミ的なやつはあるのか、どこの世界も客の声は重要ってことだな。


「1人約5000ゼニーか、ありがとう。ならそれを基準に探すか」


 依頼書の数が多すぎるので、ある程度条件を絞って依頼を探していると。


「一真さん、この依頼はどうでしょうか?」


 アルマが推薦した依頼は難易度Dランクの大量発生したアマガ・エールの討伐依頼。いかにも初心者向けの依頼だが注目すべきはその報酬。


「おお、討伐数×800ゼニーが報酬として支払われるのか。でもこれ、討伐のカウントってどうするんだ?」


「それはクエストを受けた後、冒険者カードへ自動的に記録されますよ」


 それなら旅費を確保しつつアルマの修行もできて、まさに一石二鳥じゃないか!


「これはいい依頼だ。ありがとなアルマちゃん。さっそくこの依頼をやってみようぜ」


「アマガ・エールなら、サイショタウンから北東に行ったところにある。湿地帯に生息しているはずです」


 ならさっさと行って、夕飯前には終わらせるとしますか!


「じゃあちょっと依頼を受けてくるよ。アルマちゃんは先に外で待っててくれ」


 俺はカウンターへ向かうと受付のマリンに冒険者カードを提示し、難易度Dのアマガ・エール討伐依頼を受諾した。


「あのぉ、ブルーカードを持ってる一真さんにお願いがあるんですけどぉ」


「どうしたんだ? 遠慮せず言ってみてくれよ」


 マリンがカウンターから身を乗り出し小声で話し始める。

 

「アマガ・エールを討伐しに向かった冒険者が、信じられないくらい巨大な個体を見つけたそうなんですよ。たぶんボスモンスターのキングアマガ・エールだと思うんですけど、それを倒した時に手に入る高級カエル袋がどうしても欲しくて……」


 マリンによると、高級カエル袋には美容にとても良いカエル液がたっぷり詰まっているらしい。

 

「わかった。もし手に入ったら持ってくるよ」


「キャー、助かりますぅ! マリン楽しみにまってますね」


 マリンと別れの挨拶を交わすと俺は冒険者ギルドを後にし、アルマの案内を受けアマガ・エール討伐に向かうのだった。

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