第4話 オークを焼き尽くす黙示録の炎

「アルマちゃん、派手なステータスじゃねえか。これから毎日オークを焼こうぜ?」


「はいっ、わたしがんばります!」


 某宇宙人のように問いかけると、アルマははっきりとした声で元気よく返事をし、やる気満々といった感じだ。


「うむ、いい返事だ! それじゃ早速ひと狩行くとしよう! 【スウィート・パフューム】【ウィンド・スラスト】」


 魔導書にて【索敵】と【風】のキーワードで検索をかけ、ピックアップされた魔法を発動させる。

 すると花の蜜のような甘い香りがあたりに充満し、それは風によって運ばれていった。


「ふわぁ……いい香りですね~」


「これでむこうから来てくれるはずだ。歩きながら待つとしますか」


 3分ほどたったころ、遠くの方からドドドドという地響きのような音が聞こえてきた。


「おっ? アルマちゃんあそこ見てみなよ、さっそくお客さんだぜ」


 指さした方角からパッと見で30体以上いるオークの群が、こちらへ土煙をあげながら一直線に突っ込んできている。


「あばばばばば!? かかか一真さん! たくさんきましたよ!?」


 慌てふためくアルマにたいし、『れれれ冷静になれ』と声をかけた。


「呼んだのだから来るのは当然。ステータスの強化もしたし、危険だと判断したら俺が助ける。さぁ! さっきの修行を思い出して、あいつらにアルマちゃんのありったけをぶち込んでやれ!」


「む、むりですよ! あんな数、わたしな……」


「魔導師大原則! ひと~~つ! 敵に背を見せてはならないっ!」


 俺はアルマの弱々しい声をかき消すように、尊敬する勇者の言葉を放つ。


「やる前からあきらめるな! 全部倒せなくてもいいから、やれるだけやってみようぜ?」


 もしアルマの手におえなくとも、先ほどのオークで俺の魔法なら一瞬で屠れることはわかっている。

 ここはアルマに自信をつけさせるためにも、できるだけのことをやらせてみよう。


「……たしかに、ここで逃げたら今までのわたしのままです。怖いけど……。わたしやってみます! わたしは強い、わたしは強い」


「そうだ! アルマちゃんは強い! アルマちゃんは強い!」


 そうこうしているあいだに、モンスターたちはすぐそこまで迫っていた。


「いいかアルマちゃん? こういう時は、敵の数を減らすか動きを止めることを考えるんだ」


「わかりました。なら先頭を狙えば!」


 アルマは杖の先端をモンスターの群れへと向け。


「全てを焼き尽くす黙示録の炎! 【ファイヤー・ボール】」


 ―――叫び声と共に杖の先端から、ソフトボールくらいの火球が連続で発射される。それは群れの先頭を走るオーク達を次々と火だるまにした。


「ノッピョッピョオオオオオオオオオオン」


 のた打ち回るオークに後続がつまずいてドミノ倒しのようになり、動きの止まった群れへすかさず追撃をおこなう。余程脂の乗りがいいのか、火のついたオークの山がキャンプファイヤーのように大きな炎とかす。


「よし! 今ので一気に倒せ……」


 魔法の反動でアルマのミニスカートがひらひらし、パンツが見えるのではと視線が吸い込まれる。

 こんなもの誰だって見るに決まっている! それなのに見えそうで見えない鉄壁スカートはずるいぞ!

 断腸の思いで視線を正面に戻すと、5体のオークが左手に持った剣を振り回しながらこちらへ向かってきている。


「最後まで油断するな。確実に止めを刺すんだ!」


「はい! 全てを焼き尽くす黙示録の炎! 【ファイヤー・ボール】、【ファイヤー・ボール】」


「モロロロロ」「ブヒィイイ」「タクハイビンマダデスカー」「ゥオオオク」「ポップルギャッピッポー」


 オークは様々な断末魔をあげて前のめりに倒れ込み、風にのって香ばしい香りが漂う。 

 アルマはまるでシューティングゲームのように次々と弾を命中させ、スコアという名の経験値を稼いだ。

 数メートル先の動く標的にここまでやれるなら、文句どころかご褒美にジュースをおごらざるをえない。


「ノーダメージで討伐なんてすごいじゃないか! まったく、なにが落ちこぼれだよ。謙遜けんそんしてたのかこのっ」


 とんがり帽子のうえからアルマの頭を軽く小突くと、アルマはとんがり帽子を目深にかぶり直し、ふるえた声でゆっくりと話す。


「……なんだか夢みたいです。……失敗ばかりしてたわたしが、一真さんに助けてもらったといえ、あんなにたくさんいたオークを全部……倒せたんですね」


「おいおいアルマちゃん、勘違いしてもらっちゃ困る。ゴッド・ブレスの効果時間は3分。オークの群れが見えた時点で、すでに効果は切れてるんだよ」


「―――!? そ、それじゃあどうやってオークを!?」


 俺はアルマの目の前に立ち左手でとんがり帽子を持ち上げると、小脇にかかえて屈みながら目線を合わせる。

 そしてまっすぐにアルマの目を見つめ。


「初撃も追撃も止めも、全部アルマちゃんの実力だ! アルマちゃんはつよい! アルマちゃんはすごい! よく頑張ったな。えらいぞ!」


 右手をアルマの頭の上におき、わしゃわしゃと撫でまわす。


「わたしにも、こんなにたくさんのオークがたおせました……。やったぁああああああああああ!」


 アルマが歓喜の叫びをあげて、大粒の水滴が頬をつたいポタポタとたれていく。

 自分が強くなったと実感できたこの瞬間は、ゲームですらうれしいものだ。

 今までのアルマからすれば喜びもひとしおだろう。


「よーしよしアルマちゃん、俺の胸でたーんとお泣き!」


「はいっ、ううう、ぐずっ、ちーん」


 おいおい、なんだ最後のは? なんでちーんなんて効果音が出てくるんだ?

 まさかと思ってみてみると、案の定アルマが鼻水やら涙やらいろんなものがブレンドされたものを、俺の服へと発射している。


「ちょっとアルマちゃんっ!? 俺の服はティッシュじゃないぞ!」


「ふぇっ!? ごめんなさい一真さん。わたし持ってなくて」


「まったく、じゃあなんか適当な葉っぱでも……ん?」


 辺りを捜索していると、こんがり肉と化したあるオークの体がキラキラと光っている。

 何かと思って近づいてみると、それはかしわの葉のような見た目をしており、どうやらアイテムをドロップしたらしい。

 お馴染みの魔導書を使い【鑑定】のキーワードで検索をかける。


「ゴミだったらティッシュ代わりになってもらおう。【アナライズ】」


 アナライズは対象の名前、レア度、効果等情報を教えてくれるのだ。これによると。

 『ランクD、謎の草。食するとランダムなステータスが上昇する』とのことだ。

 他にも光っているオークがいないか一通り調べてみたところ、謎の草を4つほど入手。


「アルマちゃん、これは戦利品な」


 俺はアルマに駆け寄り、謎の草を手渡す。


「なんですかこれ? ただの葉っぱみたいですけど」


「謎の草と言って、ランダムにステータスが上がるらしい。4つあるから全部食べれば、ステータスが4ポイントもあがるな! せっかくだし食べてみたらどうだ?」


 草を食べてステータスアップなんてどこぞのローグライクゲームだけだと思っていたが、異世界ではあんがい普通なのかもしれない。まあサイショタウンについたら調理法を調べて、できる限りおいしく……。


「うぇっ!? ……オロロロロロ」


 突如としてアルマがえづきはじめ、口から緑色の物体を発射している。


「まさか、本当に食べてしまったのか!? 今すぐ回復魔法を……」


「だ、大丈夫です! 食べてみたらイカみたいな匂いとものすごい苦さだったのでつい。それよりも早くサイショタウンへ行きましょう!」


「そ、そうか。じゃあサイショタウンへ向かおう」


 俺達は冒険者の街サイショタウンを目指して歩き出すのだった。

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