第3話 わたしを弟子にしてください!

「……やっぱりわたし、魔導師に向いてないんですよ。クラスで運動神経が一番悪くて、魔法が一番下手で、不器用で……。わたしなんて……才能のない落ちこぼれなんです」


「本当にそうか?」


「……え?」


 予想外の発言に驚いたのか、アルマはビクリと肩を揺らし涙目でこちらを見上げる。


「才能があってもなくても、クラスのみんなは一生懸命努力していたんじゃないか? その結果を『才能』の一言で片づけられたら、誰だっていい気分にはならねえ。アルマちゃんに足りないものは、魔法の知識や技術じゃない。努力と根性だ!!」


 俺はアルマの顔面を指差しドーン! とはっきりと断言した。


「……努力と根性……。たしかに、そうですね。わたし、自分の努力が足りないことを認めず逃げていました。一真さん、ありがとうございます! もう弱い自分に負けたりしません!」


「いい笑顔だ! アルマちゃんならきっとなれるよ」


「―――はい! あの、一真さん! わたし……一真さんにお願いがあるんです!」


 アルマは飛び上がると元気のよい声を上げ、こちらの様子を伺っている。


「どうしたんだい?」


「あ、あの……そのっ! ……わたしを弟子にしてください!」


「で、弟子?」


「はい! わたし、できないことがあるとあきらめて……逃げていました。でも、それじゃいつまでも変われない。わたし、努力と根性でどんなに辛くても絶対にくらいついて見せます!」


 アルマの曇りなきその瞳から、本気で変わりたいと願う強い意志が感じられる。

  

「そこまで言われたら断れないな。わかった、俺でよければ弟子にしよう!」


「ほ、ほんとですか!?」


 そもそも、こんな美少女と一緒に冒険できる時点で断るバカはいない。

 とりあえず『できるできる絶対できる。頑張れもっとやれるって、気持ちの問題だ!』といった、精神論を振りかざしておけばいいだろう。


「うそをついてどうする。さっそく修行と行きたいところだが、その前に聞きたいことがあるんだ」


「―――まかせてください!! 実はわたし本が友達で、かなりの読書家なんです! このあたりなら観光案内だってできますよ!」


 某サッカー少年のような発言がでたが、あくまで比喩だろう。

 そう信じたい。


「それは頼もしいな。ええと、俺はこの世界についてわからないことが多くてさ。このあたりに冒険者の街ってあるかい?」


「冒険者の街……? 『サイショタウン』のことですよね? それならこの道をまっすぐ行けばたどり着けますけど……。一真さん、『サイショタウン』も知らないなんて、いったいどこから来たんですか?」


 正直に言っても信じてもらえないだろうと省いたが、信頼関係を築く上で隠し事はよくないか……。


「……実は、俺はこことは違う世界。『スーダド・アーカ』から転生してきた、異世界人なんだ!」


「あっ、そうだったんですか。……って、え? ……異世界人? ……つ、つつつ、つまり! 次元を超えてきたってことですか!?」


「元の世界で死んじまって、女神に転生させてもらったんだよ。たしかラピスさんて言ったかな?」


 あの乳袋はとても印象的だった。

 パーティーに加わった際はぜひ後ろから鷲掴わしづかみに……。


「―――め、めめめ、女神ラピス様!? 女神ラピス様と言えば! 選ばれた冒険者だけが会うことができるすごい方なんですよ!」


「わ、わかったから、少し落ちついてくれ」


 アルマは手を離すと、『す、すみません』と言ってぺこりと頭を下げる。


「やっぱり一真さんはすごい人なんですね! わたし、どんな修行でも努力と根性でやりとげてみせます!」


「常に前を向き続けるのはいいことだ! どれ、修行をしながら『サイショタウン』へ向かうか!」


「はい! よろしくお願いします!」


 この瞬間を、まっていたんだぁあああああ! とばかりにアルマの目が輝く。

 

「ならまずは、アルマちゃんが何をどこまでできるのか、把握する必要があるな」


 RPGやSLGなら、キャラクターの能力が数字となって一目でわかるが、いくらファンタジーとはいえそんな都合のいい物……。


「あっ! えっとそれなら、これを見れば……」


 アルマが懐から、一枚のカードを差し出してきた。


「これは?」


「冒険者カードです。身分証明書のようなもので、所有者の情報が記載されているんですよ」


「なるほど。さっそく拝見させてもらうよ」


 俺は心の中で『あるんかーい!』とツッコみを入れ、 操作方法を教えてもらいながらアルマの情報を確認する。


 冒険者ネーム_アルマ 

 冒険者Lv_1

 職業_D級魔導師

 腕力_3

 体力_4

 知力_10

 精神力_8

 敏捷性_4

 

「知力以外一桁か。アルマちゃん、レベル1魔導師の基準になるステータスっていくつなんだい?」


 ステータスはゲームとかだと、上限値が2桁の物もあれば、億単位を越える物もある。

 もしかしたらそこまで低く無いかもしれない。


「……あ、えっと……魔導師のステータス基準値は……。知力と精神力がレベル×20、それ以外はレベル×10なんですよ……」


「……レ、レベル×20と10……? アルマちゃんのレベルは1だから……」


 俺は唖然とし、冒険者カードを地面に落としてしまった。

 すぐさま拾い上げて再度ステータスを確認するも、アルマのステータスは全てが基準値を下回っている。

 むしろ半分以下という驚異の事実。


「……これはひどい……」


「―――!? やっぱり……やっぱりわたしなんか……」


 思わずポロッと出てしまった本音を聞き、泣き出しそうになるアルマ。


「―――いや、ち、ちがうんだよぉ! 今のはステータスが低くて出た言葉じゃない。これからの修行に、やりがいを感じたことによって出た言葉なんだ!」


「ほ、本当ですか?」


「もちろんだ! アルマちゃん、イメージしろ。強くなった自分の姿をっ! イメージは力になるんだぜっ!!」


「イメージ……」


 アルマは目を閉じ、深く考え込んでいるようだ。


「そうだ、イメージは力になる! まずは強い自分を常にイメージし続けること。これが修行の第一歩だ!!」


「わかりました! わたしは強い……、わたしは強い……」


「その調子だ! 次はその強いイメージを持ったまま、俺の言葉を繰り返してイメージを膨らませるんだ!」


「はい、一真さん!」


「全てを焼き尽くす黙示録の炎!」

「全てを焼き尽くす黙示録の炎!」


「いいぞ! 最期はそのイメージを【ファイヤー・ボール】に込めて、地面へと解きぃいいいいい放つんだ!」


「はい! わたしは……強い! 全てを焼き尽くす黙示録の炎! 【ファイヤー・ボール】」


 アルマの強いイメージがこもったのか、杖の先端からソフトボールくらいの火球が発射され、地面へ直撃するとスコップで掘ったような穴があく。


「……や、やりました! 一真さん、わたしにもできましたよっ!!」


「ああ! やればできるじゃないか!! どこのどいつだ? さっきまで才能なくてむいてないなんていってたの」


「そ、その言葉は忘れてくださいよぉ」


 どうやら俺の教え方は、予想以上にアルマとの相性がいいようだ。


「ガーハッハッハッ。でもこれなら、依頼も達成できるんじゃないか?」


「ふぇ!? そうでした! わたし、今ならオークを倒せる気がします!」


 今のアルマなら問題ないと思うが、魔法の検証もしておきたい。

 俺は魔導書を開き【補助】のキーワードで検索をかけ、ピックアップされた魔法を発動してみる。


「【ゴッド・ブレス】」


 するとアルマの体が青白い光に包まれた。


「はわわっ!? か、体が軽くなったみたいです!」


 ゴッド・ブレスは聖属性の上級魔法。対象の全ステータスを一定時間10倍にするのだが……。


「どうだろう? ステータス上がってるかな?」


「ちょ、ちょっと待ってくださいね!」


 アルマは懐から冒険者カードを取り出して確認すると、目を見開いて体をガクガクと震わせている。


「か……かかか一真さんっ! わたしのステータスがとんでもないことにっ!」


 アルマが恐る恐る差し出してきた冒険者カードを確認すると。


 冒険者ネーム_アルマ 

 冒険者Lv_1

 職業_D級魔導師

 腕力_30(3×10)

 体力_40(4×10)

 知力_100(10×10)

 精神力_80(8×10)

 敏捷性_40(4×10)


 おお! ちゃんと全部10倍になってるな。知力と精神力なら4レベル相当か。

 とりあえずこれで様子を見てみるとしよう。

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