第2話 SSS級魔導師、異世界へ降り立つ
次に目を覚ますと、眼前には雲一つない青空が広がっていた。
体は柔らかい物の上に寝転がっており、時折頬を撫でる風が気持ちいい。
……こ、ここが異世界なのか?
「痛っ!」
夢かと思い自分の頬をつねって見るも、しっかりとした痛みが走りこれが現実であることを告げている。
「どんなファンタジー作品でも、最初は一人旅がお約束ってか?」
持ち物の確認をするため、ポケットの中に手を突っ込んで中身を出してみる。
あったのは糸くずと折りたたまれた紙とカメムシの死骸。
紙を開いてみると、所持アイテム一覧ウインドウの表示方法が書かれていた。
「……なるほど、この呪文を呟けばいいのか。【オルトイー】」
―――すると長方形の立体映像のようなものが眼前に浮かび上がり、それはスマホを操作するように指でスクロールさせることで、所持アイテムを確認することができる。
「所持品は『ウル技114514技収録! 超絶ジーニアス魔導書 ~’96年春版~』だけか……ん?」
魔導書の表紙にはお世辞にも上手とは言えない字で、『あんたが使える魔法一覧』と書かれている。
ならまずはこれを読みながら、人探しでもしてみよう。
ポカポカとした温かい日差しに照らされて読書をするのはなかなかよいもので、特に何もなければこのまま草原で昼寝をするのもいいな。
「ほぉ~。攻撃魔法に補助魔法、回復魔法も……って、これ全部使えるのか!?」
キーワード検索機能を使いながら魔法を調べていると、火球を放つ初級魔法から時間を止める超級魔法まで、豆粒のような文字で様々な魔法がぎっしりと書き込まれている。
「時間を止める魔法とか、男の願望そのものじゃねえか!」
これが俺に与えられたチート能力か、個人的には大満足だぜ。
後は美少女との出会いがあれば完璧なのだが……。
「だ、だれかぁあああっ……! た、たす、助け……、助けてぇえー!」
しばらく歩いたところで前方から女性の叫び声のようなものが聞こえ、何事かと思い視線を移す。
そこにはなんと。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/catkyouryu/news/16818093086236294799
「ほいきたぁああ! 見るからになかなかの美少女、俺のハーレム1人目にふさわしい。って、後ろに邪魔なのもいるな?」
どうやら少女はファンタジーで言う所の、オークに追いかけられているようだ。
オークは一応最低限の知性はあるのか、ボロ布で大事なところを隠し、右手に盾を左手に剣を持っている。
「まぁ、腕試しにはちょうどいいか」
俺は少女へ向かって走り出すと彼女を背にしてオークの進路へ立ちふさがり、魔導書を左腕で抱えるように持つ。
人間最初が肝心だ、かっこいいところを見せて少しでも好感度を上げておこう。
「はぁ、はぁ……、あ……あなたは?」
「俺は通りすがりのSSS級魔導師だ!」
「……え、SSS級魔導師様!? なんでこんなところに……。いえ、この際何でもいいので助けてくださいっ!」
頼まれなくても俺のやることは変わらない。
オークには俺の引き立て役になってもらおう!
「もちろんだとも。君はそのまま俺の後ろに隠れていてくれ」
「そ、そんなことできません! わたしだって一応魔導師です!!」
少女は俺の背後から飛び出すと杖の先端をオークへ向ける。
「―――ちゃんと戦いますよっ! 【ファイヤー・ボール】」
―――次の瞬間。
少女の叫び声と共に杖の先端から火のついたマッチのような物が発射され、それはオークへとまっすぐ飛んでいき命中。
「ブヒィイイイイイイイイイイ!」
しかし大事なところを隠しているボロ布が少し焦げただけで、こうかはいまひとつどころか喜んでいるようにも見える。
「くっ! オークは火属性が弱点なのに、やっぱり私の魔法じゃ……」
おお! 今のが魔法か、今度は俺がやってみよう!
少女は歯を食いしばっており、俺は再び少女の前に立つ。
「煉獄の炎に抱かれて、灰燼と化せっ! 【ファイヤー・ボール】」
目の前に魔法陣のようなものが出現し、そこからバスケットボールサイズの青い炎の球が発射されオークへ直撃する。
「ポップルギャッピッポォオオオオオオオオオオ」
火球は火柱となってオークを包み込み、悲痛な断末魔が草原にこだました。
火柱が収まると文字通り消し炭となったオークの灰が、そよ風によって宙をまう。
オークは、生命活動を停止。
死んだのだ……。
「上手に焼いて、こんがり肉程になると思ったのだが……。加減が聞かないのも困りもんだな」
よし、キマッタアアア! これは好感度+100はいっただろう!
「す、すごいっ! これが最強クラスと言われるSSS級魔導師の魔法なんですね!!」
黙り込んでいた少女が突然大声を上げると、興味深そうな目で俺の顔を覗き込んでくる。
「いやぁーそれほどでもあるさ。おっと、自己紹介がまだだった。俺は
「あっ! こちらこそ助けて頂いたのにお礼もしていませんでした! すみません、私はアルマです。よろしくお願いします。一真さん」
俺とアルマはがっちりと握手を交わす。
この娘、スリスリしたくなる良い太ももをしているなぁ。
「アルマちゃんか、当然のことをしただけだしお礼なんて別にいいけど……。どうしてオークに襲われてたんだ?」
気になっていたことを問いかけると、アルマの顔が少し暗くなる。
「じ、じつは冒険者になってから、初めて魔物討伐の依頼をうけたんですよ。わたしは火の魔法が一番得意なので、オークなら何とかなると思ったんですが……」
少女はひどく落胆した様子でため息をつく。
一番得意な火の魔法がアレでは、落ち込むのも無理はないか。
「そんなことより一真さん!? さっきの魔法はなんて名前ですか? 威力からして中級魔法だと思うんですけど、それがすごく気になってて……」
突然アルマが目をひし形にしてキラキラさせながら、俺に詰め寄ってくる。
「さっきの……? ……ああ、【ファイヤー・ボール】?」
「あはは、冗談はやめてくださいよ。【ファイヤー・ボール】は、さっき私が使った魔法じゃないですか。そうじゃなくて、さっき一真さんが使ったあのすごい火属性魔法のことですよ」
アルマが可愛らしくパタパタと手を横に振る。
「いや、俺がさっき使ったのは、【ファイヤー・ボール】だけど……」
「またまたぁ! さっきのはどう見ても中級……いや上級魔法に匹敵する威力でしたよ? それに初級魔法の【ファイヤー・ボール】があの威力だったら、わたしの【ファイヤー・ボール】なんて魔法ですらなくなっちゃいますよ!」
アルマにどう説明すれば信用してもらえるか試行錯誤していると、彼女がある提案を持ちかける。
「一真さん、そこまで言うんでしたら【ファイヤー・ボール】を、同時に地面へ撃ってもらえませんか?」
「ああ、いいぜ!」
「ありがとうございます。……準備はいいですか? 行きますよ? せーのっ!」
「「【ファイヤー・ボール】」」
お互いに十分距離を取ってから、アルマの合図で地面に向いファイヤー・ボールを放つ。
「そ、そんな……!? 同じ初級魔法の【ファイヤー・ボール】でここまで違うなんて……」
結果は一目瞭然だった。
アルマの方は草が黒く変色してぷすぷすと音を立てているだけで、俺の方は地面に隕石が落ちてきたようなクレーターができている。
「……【ファイヤー・ボール】は、私の一番得意な魔法なのに……。こんなんじゃ学芸会で披露する手品みたいなものです……ふぇええ……」
アルマは膝から崩れ落ち、涙目になって今にも泣きだしてしまいそうだ。
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