素晴らしきこの異世界
ダイナソー猫崎
第1話 女神との邂逅
【表紙】https://kakuyomu.jp/users/catkyouryu/news/16818093086235060311
目を覚ますと俺は、アンティークチェアのようなものに腰掛けていた。
そこは天井、床、壁、すべてが黒一色で染められた部屋であり、唯一の例外は正面にある白いドアだけ。
「……あれ? 俺なにしてたんだっけ?」
……そうだ! 黒塗りのトラックにひかれそうになっている、幼女を助けようとしたんだ!!
アンティークチェアから立ち上がり周囲を見渡してみるも、自分が腰かけていたそれ以外なにもない。
「なんだこの部屋?」
とりあえず女の子がどうなったのか気になる。
ここからでてみっか!
俺が白いドアへと近づいたそのとき、『ガチャガチャ』というドアノブを回す音が聞こえ、そのあとすぐに『ババン・バ・バン・バン・バン』と、平手でたたいたような妙にリズミカルな音がした。
「ちょっと! タ……タチ……ダディャーナ! ここにいるのはわかっているのよ!! 立てこもっても無駄なんだから、さっさと鍵をあけなさい!」
「せ、先輩!? ここ、外側から鍵をかける部屋ですよぉ。それに滑舌悪すぎて何言ってるかさっぱりですぅ。橘さんですよ、
「……! そういえばそうだったわね。じゃあ、さっさとこの部屋の鍵をあけて頂戴!」
扉の外から女性らしき声がふたつ聞こえてきた。
どうやら俺のことを知っているようだが、俺には皆目見当がつかない。
「もぉ……はい。あきましたよ」
「よい働きだったわ。あとでジュースをおごってあげる! さてと、観念しなさい橘一真!!」
荒々しく白いドアが開かれると、二人の美少女が姿を見せた。
これでもかというドヤ顔で入ってきた美少女Aは背が高く、髪型はライトブルーの髪を腰まで伸ばしたストレートロング。
横髪は胸のあたりまで垂らしており、前髪は先端がつり目にかかるかどうかの長さのM字で、両端が外側にはねている。
体型はすべて引っ込んでおりスレンダー。
服装は薄い水色のドレスを身に着けており、太ももや胸元が透けて見えるも下着は見えない。
その後ろに隠れて、おどおどとしている小動物のような美少女Bは背が低め。
髪型は栗色の髪を肩にかからない程度に伸ばしたエアリーボブ。
横髪を頬まで伸ばしており、前髪は目の上あたりまで伸ばしたギザギザ型。
ワインレッドのレトロニットワンピースを着ている。
乳袋ができるほど発育が良く、このままでも数年後にも期待ができそうだ。
「か、かわいい……」
ここまでの美少女を俺は今まで見たことがなく、思わず言葉が漏れる。
「ふふーん! あたしが超絶可憐な美少女なのは事実だけど、なかなか見る目あるじゃない! あんたが橘一真ね? あたしはエリート女神のサファイアで、この子は新人女神のラピス。詳しく話すと長くなるしめんどくさいから、要点だけまとめて手短に話すわね」
女神? 一体何を言っているんだ?
「ちょ、ちょっと先輩? そんな適当なことやったら、またルビー様に叱られちゃいますよぉ」
「ばれなきゃ大丈夫よ! ……コホン。橘一真、一度しか言わないからしっかり聞きなさい? あんたはね、幼女を黒塗りのトラックから助けて死んでしまったの」
俺は死んじまったのか……。
ならここは俗に言うあの世ってやつか?
いやそれよりも、確認しなければならないことがある。
「女の子はどうなったんだ?」
「あの子ならあんたのおかげで無事よ」
サファイアのその言葉を聞いて肩の荷が下りた。
これで思い残すことは何もない。
「ならよかったぜ、無駄死にだけはごめんだからな。そんでサファイアさんだっけ? 俺ってこの後どうすればいいんですかね?」
「転生して新たな命を授かることになるわ。―――あ! 今だったらオススメの転生先があるけど、どう?」
「先輩!? まさかあれを橘さんにやらせるつもりなんじゃ……」
「うるっさいわね! あんたはエリートである、あたしの仕事ぶりを見てちゃんと勉強しなさい!」
サファイアとラピスはひそひそ話をし、何かを相談しているようだ。
「じゃあせっかくなのでその、おすすめでお願いします」
「―――そうこなくっちゃ! それじゃこれからあなたを異世界へ転生させるわ。あなたはそこで魔王に奪われた、7つの神器すべてを取り返しなさいっ!」
俺の答えを待ってましたとばかりに、再びドヤ顔かつ大きな声ではきはきとしゃべりだす。
「ああああやっぱり! 本気なんですか先輩!?」
「あたしに任せておきなさいって、この橘一真とかいうのぜったいチョロイわよ」
要するにRPGの主人公よろしく、イベントをこなして魔王をボコせばいいのか?
というかこれ、夢にまでみた異世界転生ってやつなんじゃ……。
「いい? 魔王はね、放っておいたら全人口の6割がパン以外食べられなくなっちゃうのよ?」
「―――なんだって!?」
実家が米農家であり米派の俺にとってはこれ以上ない大問題だ。
それに異世界と言えば、出てくる女の子は美少女ばかり。
うまくいけば美少女達と毎日、あんなことや……こんなことも……ぐふふ、これは夢が広がるぞ!
「はいはいっ! 俺やります! 美少女と出会い……じゃなかった! 異世界の平和のためにがんばります!」
「いい返事ね! いまなら転生特典として身体能力を大幅にアップし、あんたを最強のSSS級魔導師にしてあげる! おまけに最強の武器でも防具でも、好きなものをなーんでもあげるわっ! いやーあたしったら太っ腹っ!」
「ん? 今なんでもって?」
「ちょ、ちょっと先輩! いくらなんでもそれはまずいですよ! 女神規定で要求されたら断れないんですよ!?」
「あんたっ! あたしが何年女神やってると思ってるの? ああいうのはね、俺TUEEEとか、最強の~とか、なんかこう強そうなものを手に入れたら満足するのよ」
なんでもか……。
チート能力がもらえるから、俺が最強なのは確定してるんだろ?
だったらおまけとして選ぶのはひとつしかありえないっ!
「じゃあ、ここにいる女神で!」
「ほら見なさい、さっそく強そうなものを要求……って、ええええええあたしたちぃいいいい!?」
女神ふたりは俺の要求が予想外だったのか、口をあんぐりとあけたまま石のようにかたまっている。
「異世界転生って言ったら、『チート』、『ハーレム』、『剣と魔法』の三柱神以外ありえないでしょ! 『ハーレム』がない異世界転生なんて、味噌の入ってない味噌汁同然!!」
「ど、どどどうするんですか先輩っ!?」
俺がサファイアを指差してはっきりと言い放つと、ラピスが両手をパタパタさせながら慌てふためき指示を仰ぐ。
「どうするもこうするも……」
サファイアは歯をぎりぎりとさせ、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「『好きなものをなーんでもあげるわっ!』っていいましたよね?」
「……ああ、もうわかったわよっ! ついていけばいいんでしょっ! どちらにしろ、いずれ集めに行かなきゃいけなかったんだし……。いいわよ! やってやろうじゃない! ただしっ」
サファイアは涙目になりながら地団太を踏み、俺の顔をびしっと指差してくる。
「あたしにも事情があるの。まずはあんたの力だけで生き抜いて見せなさい! ラピス、橘一真をルーファガイアの冒険者の街付近に飛ばしておいて。あたしは上に報告してくるわ」
「わ、わかりましたぁ。橘さん、失礼しますね」
ラピスが俺の眼前で『パンッ』とねこだましのように両手を叩くと、俺は急激な眠気に襲われゆっくりと目を閉じた。
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