第3話 夜明け前 ~第三の章~
「皆、揃った様だな」
一番の上座に座る国王が厳かな口調で出席を確認すると、いつもの様に国の政策や課題についての話し合いが始まった。
政治、経済、外交…。課題が出される度にそれぞれの分野を受け持つ兄達が各々の対策等を述べ、国王が最終的な判断を下す。俺がこの世界での息苦しさを感じたのは、この王族会議が最初だった。元のカイエル王子の記憶を受け継いでいるので、この国の状況は理解出来ている。俺は会議の中でこの国、チサトーゴ王国が今後取るべき政策や外交等の意見を述べた。
その時の俺を見た国王、王妃、それに六人の兄達の表情は、コイツいきなり何を言いやがる、と言わんばかりのモノだった。
「カイエル」国王は俺に厳しい視線を向け厳かに申しつけた「お前はまだ深く国政に携わる必要は無い。黙って私達の話を聞いていなさい」
俺は耳を疑った。会議に出席して黙ってろって、どういう事だ?これ以降も俺が発言する度に一同はしかめっ面をし、何も喋るな、と俺を抑え付けた。そして周囲の俺に対する戸惑いの声も耳に入って来る様になった。
「カイエル様はどうされてしまったのだ?あの病気以降、まるで別人の様だ」
「あんなに物静かで大人しかったのに。病で脳をやられてしまったのではないか?」
「何か心境の変化でもあったのですか?」常に側にいるソキーラも事あるごとに言う「あまり国王様方を困らせては行けませんよ。私が変な思想を吹き込んだのではないか、と言う人もいる位ですから」少し苦笑いをした後「でも…、私の予想がもし正しいのだとしたら…」
ここで言葉を止めて、何やら思い当たるかの様な顔で俺を見た後
「私の思い過ごしかも知れませんね。すみません」
そう言ってそそくさと業務に戻っていった。その言葉の意味を知るのは、かなり後になってからの事だった。
俺が一連の会議に出席し、国王達の政策を聞いて来た中で一番疑問を感じたのは、外交に関する考え方や姿勢だった。
ここで我が国チサトーゴ王国の概要について話す必要がある。この世界には大小さまざまな国が存在しているが、その殆どが王族支配の形を取っている。そして周囲の国々と押したり引いたりしながら、様々な駆け引きをしている訳だが、チサトーゴはその中では小国に当たる。国土は前世の地図で見た蝦夷地より少し広い位で、人口も江戸の総人口より若干多目程度だ。そして内陸に位置し、その周りをぐるりと大国に囲まれている。陸地続きではないが、露西亜や清に睨まれている日本とやや似ている。当然兵力には大きな差がある為、真っ向勝負等出来る筈もなく、我が国は常に腰を低くして、相手の顔色を伺う様な外交を続けて来た。
そんな中、西方に隣接する国が最近になって怪しい動きを見せる様になって来た。王座の交代があり新たな国王に代わったのだが、早々に国策を急変更。軍備を増強し周辺諸国に武力的な圧力を掛ける様になったのだ。当然周囲の国々は警戒し、負けじと兵力を拡大したり友好に力を入れる等、被害を避ける為の動きを取った訳だが、我が国チサトーゴ王国はこの状況に対し、どの様な動きを見せたか?
「対応を変える必要は無い。我が国は無用な戦争はしないと周辺国にも伝えている。相手がどの様な動きをしようと、警戒は不要だ」
チサトーゴは十年以上前に平和国家宣言をし、最低限度の兵力を持つ以外一切の軍備の増強を放棄した。いざこざは全て対話で解決すると周辺国に通達し、その時は一応全諸国から了承を得た。
だが、例の西方の国がここに来て我が国の国境に兵力を集め始めた。軍事演習と称して大砲を撃ち込んで来たりもした。俺はそういった状況を危惧し、会議でも何らかの対策を取るべきと主張した。だが、一同の意見は一貫していた。
「相手とは不戦条約を結んでいるのだから戦争は起こらない。何かあれば対話を申し込む」
要するに無防備、無対策という訳だ。本当にいいのか、それで?楽観的過ぎやしないか?そんな思いに駆られる俺に
「カイエル、これは憂慮すべき問題だと思うんだ」
と話し掛けて来る人物がいた。
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