生と性を知るために風俗店に行ってきた話
霜月夜空
肌を重ねることで本当に生を実感できるのか?
【警告】過激な文章となっております。純真無垢な心を持つ御方は、ブラウザバッ クを推奨します。中学生が織り成す純愛ストーリーを近日公開予定ですので、そちらでお会いしましょう。
*
『彼女いない歴=年齢』
有名な文言である。
小説やアニメで
「あれれー?おっかしいぞー?あんなに本や映画で女心を学んできたのに、どうして18歳になって今だに童貞なんだぁー?」
どこか遠くで、眼鏡の小学生が言った。刊行100巻を越えて、今だに自身の外出によって人が殺される事実に気付いていない、お前にだけは言われたくなかった。
…と、幼児化した名探偵にマジレスしても仕方がないので、ひとまず僕に彼女ができない原因を分析したいと思う。
正直、原因なんて無限に出てくる。
根暗だとかコミュ障だとか吃音だとか、我が強すぎるとか中途半端に孤独耐性があるとか。僕は欠陥だらけの人間だ。だけどそんな自分を愛してもいる。…ほら、こういう隠れナルシストなところも、きっと僕をリア充から遠ざけている一因に違いない。
だけどやっぱり、一番の原因は、僕が重度の恋愛潔癖症患者であることだと思う。
恋愛潔癖症―それは、多くのチー牛たちが患う、即刻治療すべき病である。
具体的な症状としては、『誰かを好きになるにあたって、それが性欲を満たすことを目的とした感情であってはならない』、『好きでもない相手とセックスする輩は等しくクズである』、『自分からグイグイ異性に絡みに行くのは格好悪い』、などの思想に頭が染まってしまうことが挙げられる。
幼い頃より、いわゆるテンプレートの『カッコいい主人公』を見てきた僕は、気付かぬうちに、この恐るべき病に精神を侵されていた。目指すべき理想像は、一途で純粋でヒロインが困っていたら脇目も振らずに助けに走る男の子であり、カラダ目的の恋愛など鼻で笑って吹き飛ばすような、そんな、どこまでも続く空と真っ白な雲みたいな、汚れのない男の子。
そういう男こそ、真の漢であり、いつかそのカッコよさに魅了された女の子が、僕のことを好きになってくれる。
そんな夢物語を、僕は本気で信じていた。
しかし現実は違った。
前後左右360度、どこを見渡しても、そんな男は存在しない。より正確に言えば、女にモテる男で、そんな男は存在しない。
この世は肉食こそ正義だ。対して菜食主義者は常に矛盾を抱えている。
「動物たちが可哀想!」と声高に訴えるヴィーガンは、大量の動物実験を経た上で販売されるサプリメントを、肉の代わりにバンバン摂取する。
「純愛こそ正義!」と声高に訴える恋愛潔癖症患者もまた、夜になれば名前も知らない女の裸をグーグル検索して、鬼のように右手を動かす。
結論。女を知りたければ、自分の性欲に素直になれ。人よ、変態たれ!
……という世界の
では、何が僕を突き動かしたのか。
…ずばり、エロゲーである。
プレイ経験がある人なら分かると思うが、エロゲーにおける感動は、今やアマプラやらネトフリやらに
物書きの端くれである僕は、なぜエロゲーはここまでプレイヤーを感情移入させてしまう力を持つのかを、真剣に考察した。
単純にストーリーが長めに設定されていることや、主人公の声と姿をなくすことで、まるでプレイヤー本人が目の前のヒロインと対話しているような没入感を再現していることなど、すぐに幾つかの理由は浮かび上がった。
他にもヒロインごとにルートが存在することで、推しの娘を攻略できることなど…いや、違う。別に違わないのだが、何か違う。本質はもっと、別の場所にあるはずだ。視点を変えろ、この童貞。
たとえばライトノベルの魅力は、まさにライト(手軽)に読めることにある。もちろん細かい心情描写や、重厚な物語に定評のある作品も存在する。だが基本的には、軽快な会話劇だったり世の男どもを刺激するようなヒロインの立ち振る舞いだったり、剣や勇者やドラゴンだったりが、純文学にはないラノベの魅力だ。
では、真のエロゲーの魅力とは………はっ!
僕は気付いてしまった。
エロこそが、エロゲーの真骨頂であることに。
基本的にエロゲーのヒロインたちは、みな、何かしら救えない運命を抱えている。
その悲劇から彼女たちを助け出すことが、主人公に課せられた使命であり、物語の本筋である。ヒロインたちが悲惨であればあるほど、その苦難を乗り越えた時のカタルシス=感動は大きくなる。
そしてこの悲惨さを最も際立たせるのが、ヒロインとの性描写、つまりエッチシーンである。
この先たちはだかる悲劇に向かうまでの、束の間の交わり。
暗く冷たい世界で感じる、愛する人の肌のぬくもり。
どれだけ苦しくても、愛し合わずにはいられない人間の
これこそが、僕たちの心を激しく揺さぶるものの、正体なのだ。
そこまで気付いた時、僕の中で、点と点が繋がる感覚がした。
「もしかしてセックスすれば、現実でも生を実感できるのか…?」
僕は呟いた。大学一年の夏休み、逃げるように帰ってきた、実家のリビングで。
誰もいないのが幸いだった。孤独と焦燥に這いずり回る僕が、ついに到達した頭のおかしな結論を、僕の鼓膜の中にだけ、留めておくことができたから。
さらに僕の鼓膜は、もう一つ、音を拾った。
それは、18年かけて築き上げた理想の主人公像が、ガラガラと崩れ落ちる音だった。
僕が恋愛潔癖症から抜け出した、記念すべき瞬間だった。
すぐに僕は、地元の風俗店を、片っ端からスマホで調べるのだった。
―後半へ続く
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