リビルド・リビリオン

@LUXION2211

第1話 記憶

穏やかな春 心地よい日照りにほのかに香る草木の匂い。どうやら俺は眠っていたようだ。徐々に体が目覚めてくるのを感じる。耳を澄ませれば親子の楽しそうな声、体の感覚は草むらに寝そべっているようだ。少し寝過ぎたのか頭がスッキリしている・・・いや、し過ぎているのか?何故自分がここに居るのか、ここが何処なのか、何も思い出せない。俺の名前は・・・勇  柊木勇。歳は17歳。兄弟は・・思い出せない。両親の名前も思い出せない。今頭を巡ってる言語は日本語。日本出身。


とにかく今自分が覚えている記憶を片っ端から思い出して行く。どうやら今寝そべっている場所が草むらである事などの「知識」に関する記憶は残っている。現に日本語で物事を考えている。しかし「思い出」に関する記憶が一切ないらしい。徐々に今自分が置かれている状況が不味い事に気がつき焦りが増してくる。所持品は無し。スマホや財布は持っていなかった。


一度起き上がり周囲を見渡した。場所は山の麓の広場。少し歩くと看板が立っており、看板には「仁風閣」と書かれていた。そして説明文を見るからに今自分が居る場所が「鳥取県」である事が分かった。


広場を何周もして自分を知っている知人友人が居ないか、話しかけてこないか期待したが誰も話しかけてこない。仮にここが地元だとすれば歩いているうちに何か思い出すかもと俺は街が見える方角に向けて行くあても無く歩き出した。幸いな事に季節は桜が綺麗な春らしい。程よく暖かい気候に恵まれ比較的体力を消費せずに歩くことが出来た。


そこからはひたすらに国道沿いを歩き続けた。県庁所在地らしい風景はとっくに過ぎて今は郊外を歩いている。暖かい気候とは言えかれこれ2時間近く歩いていると背中が汗で蒸れてくる。喉が乾いてきたが所持金がない為公園の水でなんとか喉を潤す。存在しない子供時代の記憶が蘇るかのように一瞬懐かしい気持ちになり、その気持ちの正体を探ろうとするが徐々に気持ちが抜けて行く。寝起きの瞬間はその日見た夢を覚えているが顔を洗う頃には思い出せなくなってくるのと同じ感覚だ。


平坦な道が終わり徐々に傾斜のある道になっていく。徐々に道沿いのお店は無くなってきたが車通りはある為、この山道の先にはそれなりの街があるのだと推測できるのでこのまま進むことを決意した。


徐々に日が暮れてきて、野宿を覚悟し始めた。山道を登った先には平野が広がっており、徐々に国道らしく道沿いにはお店が並び始めたので野宿を回避するためにも夕暮れまでこの辺を探索する事にした。


少し進むと高校生の下校時間と被ったのか多くの制服を着た生徒の集団が見えてきた。ここでふと自分の容姿が気になり、たまたま隣にあったお店のガラスに反射する自分を確認する。顔は普通。歳は高校生ぐらいだろうか。もしかしたらあの高校生の集団に話しかければ何か知っているかもしれないと思い満身創痍の体にムチを打ち高校生の集団に駆け寄った。


「あの、すいません。変な事を聞くんですが、私の事何か知らないですか?」


疲れのせいか自分でも何言ってるんだと思うほど主語が抜けた文章で話しかけていた。


高校生の反応は・・・何やら汚物を見る様な目で見ている。少し怯えている様にも感じる。まあそりゃいきなりこんな事話されたら誰でもそうなるだろう。


「」


そう言って集団の1人が俺に向かって飲みかけのジュースの缶を投げてきた。俺は衝撃で一言も発することが出来なかった。ふと周囲を見れば相手の高校生と同じ制服を着た生徒がこちらを見ている。中にはスマホで動画を撮ってる人も。


俺は何も考えられなくなった。ジュースでベタついた服、周りの目。恐らく周囲の人間は俺を知っているのだろう。とても無関係な人を見る目ではない。きっと知っている人に会えば助けてくれると思ったのに絶望に浸ってる。


「ちょっと退いて!おい!そこ動画撮るな!」


やけにやかましい声が聞こえてきた。周囲の人だかりの中から違う制服の金髪の女の子がこちらに向かってくる。直感で味方だと確信した。


「ちょっとあんた何やってんの!もうこんな事されて」


そう言ってその女の子、いやギャルは俺にジュースを投げつけた相手を睨んだ。


「ほら!さっさと行くよ」


そして俺は状況を理解できないままギャルに手を掴まれてその場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リビルド・リビリオン @LUXION2211

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画