第2話 いきなりだけどパーティー結成


 「ひゅ~、やりますねぇ。流れるようなその剣さばき、並じゃない」

 その男の人は森の中から突然現れそう言った。兎を狩ったお嬢様の太刀筋を褒めているらしい。なんか軽そうな人だなと思ったけど、その人の持つ盾に私の目は釘付けになった。その盾を以前私は王都で見たことがあった。


 「その盾って……」

 私が言いかけると、その男の人はこちらに目配せをした。えっと……言うなって事?


 「貴方、誰?」

 お嬢様が問いかけた。警戒感を露わにしながら。お嬢様は彼の盾を見ても何も反応しなかった。まあ王都では一応箱入りだったから知らないのも無理はないか……


 「これは失礼。私、ミズキ・カサハラと申します。」

 「で、何の用かしら?」

 警戒しながら更に問うお嬢様。その問いに対してミズキさんが答える。

 「見たところ冒険者のようですが、どちらまで行かれるんですか?」


 「それを聞いてどうするの?」

 お嬢様の警戒度が更に強くなった。まあ女の2人旅にいきなり声をかける男性なんて、ロクでもない輩だと思われても仕方ないよね。


 「私も冒険者になったばかりでして。一人旅も飽きてきたので、失礼とは思いましたがお声をかけさせていただいた次第です」

 うーん……それは無理があるような気がするんですけど。


 「貴方も冒険者なのっ?」

 あ、お嬢様の警戒度が一気に下がった。お嬢様は冒険者という言葉に弱いのよね。何せ冒険者に憧れて家を出ちゃったくらいだから。


 「ええまあ。前の職場でちょっとありましてねぇ……」

 「あー、トラブっちゃった感じ?」

 「トラブルって程じゃないんですが、上司との見解の相違というか。人間関係に疲れまして……まあ自主的に退職したという感じですね」


 それは嘘だ。彼の持つ盾は退職した者が持つことは許されない。だって王都騎士団所属の騎士の証なのだから。つまり彼は……


 「ミズキさんはどちらに行かれるんですか?」

 今度は私から話を振ってみる。すると彼は

 「特に行き先は決めてないんですが、取りあえず王都からは離れようと思いましてね」

 と言った。


 「貴方も王都から来たのっ?」

 「『も』と言うことはお嬢様方もですか?」

 「そうなのよ。アタシたち王都からシーオーシャンに向かう途中なの」


 お嬢様は完全に気を許している。この先の事を考えると注意した方がいいのかも知れないけど、ミズキさんと打ち解けるのは良いことのような気がする。そう考え、私は黙っていた。


 「シーオーシャンですか。シーオーシャンへはどのような目的で?」

 「シーオーシャンにはダンジョンがあると聞いてるわ。まずはそこで腕試しをするつもりなの」

 「ほおほお」

 「あ、自己紹介が遅れたわね。アタシはディアナよ。そしてこっちがシーナ」

 「シーナです。よろしく」

 「ディアナさん、シーナさんですね。お近づきになれて幸いです」


 さすが王都騎士団の騎士。態度は紳士的で言葉使いもエレガントだ。お嬢様が気を許すのも分かるような気がする。


 だから私も協力しようと思い

 「よろしければですけど、シーオーシャンまでご一緒しませんか?」

 と言うことにした。


 「そうね、女2人だけだと何かと物騒だし。それは良い考えだと思うわ」

 とお嬢様が言うと

 「そんなに簡単に行きずりの男を信用なさってもよろしいのですか?」

 ミズキさんはそう言った。


 私は黙って微笑みながら

 「もちろんミズキさんのご都合次第ですけど」

 とダメを押す。だって貴方もお嬢様の護衛よね? 旦那様からの命を受けた……。私はそういう意味を込めた視線を送り、ミズキさんの返事を待つ。

 「こちらこそよろしくお願いします」


 こうして私たちはパーティーを組むことになったのだった。

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