第13話 その男、狂気
思えば、彼との出会いから”私”という人間が生まれたと言ってもいいかもしれませんね。
私があの孤児院に引き取られる前、実のところあまり記憶がありません。
かろうじてあるのは、私に向かって拳を叩きつける女性の姿……。もしや、彼女が私の母だったのやも。
まあ、今としてはどうでもいい事ですが。
引き取った先生曰く、ボロボロであったという私。孤児院に来たその日、心配そうに私の顔を覗き込む彼――サーライルの瞳を忘れた日はありません。
清純である、清楚である。そう表現すべきか。
ともかくその瞳に魅了された日から、”私”の記憶は新しく始まりました。
孤児院らしく神に仕える者が営むその施設、私が神に変わって悪鬼を討つモンクに憧れるには十分な環境……と周りは思ったでしょうね。
いえ、神に対する信仰は本物であるという自負はあります。しかし、私が力を振るう者となった一番の理由はサーライルの為。
彼を守る為? 確かにそれもあります。子供の時はそう思ってました。
私は常に彼の傍で過ごし、孤児院でも私達以上に仲の良い子供は居なかったと思います。
ただ純粋に彼との時間を尊んでいた。それだけでもよかったのですが、モンクとなると決めた以上は世の為の旅に出る事は避けられません。
だから彼を旅に誘った。どうしても彼と離れる気は起きなかった。
例え彼が戦う者として素質を持っていなかったとしても、それはさして重要な事ではありませんでしたね。彼と共に旅が出来るというだけで意味がありましたので。
彼もまた、喜んで私の旅に同行してくれました。わざわざサポーターとして。
そう、全ては私の為に……。
彼の心は幼い日のまま、清純であり続けた。それが実に眩しく……だから手放したくなかった。
二人で旅をしていた日常は、ただひたすらの充実を味わっていました。
ああ、あのままであればよかったのに……。
しかし残念ながら、世直しの為の旅というものは私の想像以上にままならないもので二人だけでは厳しい状況というものは割とすぐにやって来ました。
そうなると当然、仲間を増やすという選択が生まれる訳です。
とある町を訪れた時、ついにその瞬間はやって来ました。
ルロリア。
彼女はその町では変わり者として知られていましたが、実力は確かなウィザードでもありました。
ええ、彼の手前で難色など示しませんでした。ただ……。
『ここって他に女の子とか居ないんだね~。仕方ない、パーティの花になってあげるよ! せいぜい頑張ってよ荷物持ち君♪』
花――私にとって人を花で例えるならそれはサーライルをおいて他になく。
彼は白百合の如き清楚な心を持つ者。例えその見た目が無骨であろうと美しさに関係はありません。
なにより気に入らなかったのは、彼を自分の物かのような言い分。
その気があったはずです。彼女がそれに気づいて無かっただけで……。
彼は私の為にサポーターになったのに。
次に出会ったアモネは、私と同じ聖職者でこそありましたが……はっきり言って俗物。
他人を利用する対象ぐらいにしか思ってないのが透けて見えました。
……ただ少し違うのは、彼女はサーライルに対して素直ではない好意を持っていた事。
危険でしたね。何かの拍子でそれが表に出るのか分からなかった。
だから力を使うしかなかった。モンクの力には神に対する信仰を多少操る事も出来ますから。
彼女がプリーストでよかったと本気で思いました。
結果、ただ媚びを売るだけの女に出来ました。
醜さは増しましたが仕方ありません。
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