第12話 友よ、再び
今日でここに来て四日が経った。
これまでに復讐したのは三人。それぞれ死体も処理した。
そもそもこの街で誰が死んだなんて気にする人間もいやしないだろうが。
今日で終わりにしてやる。
「次はいよいよお前だ――クアンっ!」
俺を直接手に掛けたお前だけは最後に取っておいたぞ。
◇◇◇
『サーライル、君の助けが必要なんですよ。……私は一人の神に仕える者として無辜の民を悪鬼から守る役目があります。ですがそれは決してこの身一つでは為せないこと。この旅は、君と共に行くからこそ大きな意味がある。一緒に冒険をしませんか? よく知ってる君だからこそ、誰より頼りに出来るんです』
村で一緒に育ったお前は、あの日俺にそう言った。
お互いに親はおらず、孤児として一緒に育った俺とお前は血を分けたも同然の兄弟。
そう思っていたの俺だけだったのか?
孤児院の中でも生まれつき魔力の扱いが得意だったお前は、先生達のようになりたいって神に仕える戦士――モンクになった。
対して、俺には得意ってもんがこれといってなかった。しいて言えば他人の仕事を率先して手助けして身に付いた筋肉と体力くらいだ。
村の外じゃ化け物が人を襲うって聞かされて、それなのにモンクとなって救済の旅に出たいと言ったお前は誰より眩しかったさ。
そんなお前に憧れて、俺に出来る範囲で旅の助けになるサポーターになって、人並みには粋がってみせた。
女子と見間違えられる程に美しい見た目に育ったお前は、常に目立って、主に女性から声援を浴びていたな。
それが羨ましくもあると同時に、誇らしくもあった。
だってそうだ、俺達は兄弟も同然。
身内の人間が認められて嬉しくないなんて事は無い。
旅の途中、訪れた町で変わり種の美少女”ルロリア”と出会って、それで俺とルロリアは不思議と馬が合って旅の仲間にしたいって言った。
……俺は人を見る目が無かったぜ。
その次に出会った”アモネ”にしても、”ラキナ”にしてもだ。
もっと言えばクアン、一緒に育ったからってお前を信用し切っていた時点で俺の目は腐っていたも同然だったんだろうがな。
それも今日で終わらせる。
俺の悪縁――頭の中を埋め尽くす復讐心を全て、お前の血で洗い流す為にな!
◇◇◇
街に来て奴らの動向を探ってる内に、クアンがここに来て毎日訪れる場所があるという事を知った。
中心街から離れた場所、入り組んだ路地を掻い潜った先にある教会だ。
といっても、とっくの昔に廃墟になってるらしいがな。
本来一般人は立ち入り禁止だが、奴はモンクだ。つまり関係者として入ってもおかしい事はない。
同じ理屈がアモネにも言えたが……来て初日にカジノに顔を出すような女だ。正直プリーストといってもそれほどの信仰心が本当にあったのか……、今となっては確かめようもないが。
が、それはさておき。
今は夕刻。
元々人通りの少ないこの場所に、この時間帯だ。
つまり今、ここら一体は俺と中に居るクアンしかいない。
何が起こったって気づく人間は居ない。
気合を入れ直し、ドアへと手を掛けた。
中に入ると埃の被った椅子が並ぶ。
それらの真ん中の通路の先、風化の目立つ彫像の前で膝をつく人間が居た。
天窓の夕陽に照らされ、腰まである長い金の髪を輝かせながらその男――クアンは祈りを捧げていたようだ。
これから自分の命を捧げる事になるとは……知りもしないだろうな。
「おや? どなたでしょう? 申し訳ありませんがこちらは現在、立ち入りを禁止しておりまして……」
背後から迫る俺の気配に気づいたのか、奴は間違えて入った観光客にでも注意するかのような優しい声色で振り返り、そして俺の姿を視界に捉える。
「……ほう。これはこれは……っ。お久しぶりですね――サーライル」
一瞬だけ、その切れ長の瞳を開いたかと思えば、しばらく会って無かった親友と再会したかのように――その美女の顔を笑みで満たし始めた。
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