第14話 その男、満悦
最も危機感を覚えたのは、やはりラキナ。
まさかサーライルが彼女に一目惚れしてしまうなんて、想定外とはまさにこのこと。
幸いにもラキナはサーライルに好意を持っていませんでしたので、それを利用しました。
彼女にサーライルと付き合うフリをさせたのは、いつか来る好意が裏切られるという事を彼に教える為。
ただ、それでも彼女に人一倍の愛想を振りまくのが面白くなかった私は、その裏で彼女と体の関係になりました。
ラキナは男女のアレコレに頓着しない性格でしたので。ただのストレス解消くらいにしか考えて無かったのでこれも問題はありません。
彼が好意を寄せる相手は、所詮尻の軽い売女でしかない。
彼女と体を重ねる度に、そんな彼女を貶める感覚で私の心は満たされていきましたので、そういう点では女性と関係を持つのも悪くはありませんでしたね。
私は世間では持て囃される容姿をしているようで、何度も女性に声を掛けられたりもしましたが……そも、私が美しさを磨いたのは彼の為だったのでさして嬉しくもありませんでした。
他人に言われて嬉しかったことと言えば、彼と並んで歩いている時に恋人と勘違いされた時くらいですか。
そんな日々が続いていくうち、この関係が変わらない事にどこか安心もしていましたが……それ以上にモヤモヤとした気持ちがありました。
何かが変わったのは、そうあの日――”宝物”の噂を聞いた時。
是が非でも欲しいと思った。
上手く言えませんが、これを手にした時、私の本当に欲しい物が手に入ると予感したのです。
彼を罠に嵌める計画を立てた時、彼以外の全員が乗り気だったのは意外でしたが好都合でもありました。
そして”アレ”を目撃した時、本当に欲しいものを理解したのです。
私は彼の永遠が欲しい。
だから彼を手に掛けた。彼の死に際の視線も、彼の死そのものも私だけのものとした。
変わらない関係ならば、いっそ時を私の中で永遠に止めてしまおう。
完遂した時、私の心はこれまでにない程に満たされました。
宝物を手に入れた私は全能感に満たされ、戯れに目についたアモネから彼の記憶を一部消した事もありましたか。身に着けた瞬間、そういう力があると理解しましたので。
実際、彼の名前を思い出せないようでしたね。一度は好意を抱いた相手だというのに、所詮俗物は俗物でした。
ああそういえば、ルロリアの暴走に拍車を掛けさせた事がありました。
他人の感情と記憶に手を加えるこの力は、我が物ながら恐ろしいものですね。
ラキナに関して言えば、何もしてないにも関わらず勝手にやつれて行きました。
理由は謎です。本人も話してくれませんでしたし。とりわけ私と夜を共にした後に不機嫌さが増していましたが、多少面白かったのでその後も関係は続きました。
休養という名目でこの地に来た私達、この廃墟となった教会に毎日のように足を運んだのは聖職者としての懺悔の為。彼の永遠を手に入れた私はこんなに幸せでよろしいのかと思いましたので。
しかしながらそんな私に、なんと神はさらなる祝福を授けたのです。
「……ほう。これはこれは……っ。お久しぶりですね――サーライル」
彼が実は生きていて、私の為に会いに来る機会を下さいました。
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