第8話 情緒知覚思考
「負ける訳ない。そう思ってんだろうが――残念ながらもう俺の勝ちだ」
「は? なに言って……、ん?」
あれ? 手をかざして魔法を使おうとしても何も出ない。
おかしい。そもそも魔力がどれだけ集中しても集まらない。体が沸いてこない感じに、正直焦る。
どういうこと……?
「所詮お前の本性ってのは外道だったな。まさか人を襲って力を吸収してたなんてよ。それが仇になるとは思わなかったろうが」
「まさかさっきの!? でもおかしい、確かに魔力を吸い取る感覚はあった。あれは人間――じゃなかったのか!? それがキミの用意した手だったのか!」
「俺が作った幻だ。吸い取ったら毒が流れるおまけ付きのな」
幻? ウィザードのボクが勘違いする程に精巧な偽物を生み出したっていうの?
それ程の力を、一体どうやって……?
彼はただのサポーター、そんな技を持ってるはずないのに。
そんなボクの困惑もお構いなしに、彼は言葉を続けた。
「……かつて信じた仲間。その正体が他人を実験の道具ぐらいとした思わない女だったとはな。この数ヶ月、復讐する為に情報だって集めた。お前らのパーティが訪れた場所じゃ行方不明になった少年が何人か居たってな。それも、決まって親がいない奴ばかり。必死になって探す人間もいないから、大して問題にもなってなかった。その辺のモンスターにでも襲われたとしか思われないだろうしな」
「それで、そこから推理したってこと? でも、どうしてボクがやったなんてわかったワケ? もうわかってるだろうけど、性格の悪さからいったらアモネあたりの方がよっぽどじゃない」
「腐ってもプリーストだからな。人一倍面の皮の厚いアイツが、教会にバレるリスクを負ってまで直接人間をどうこうしようとはしないだろ? 俺の時はパーティメンバーが全員共犯だからやったことだしな。他の線を考えた時真っ先に浮かんだのはウィザードのお前だった。危ない実験とは切っても切れない。……もし、俺が裏切られる前だったなら気づきもしなかったことだがな」
あらま、御明察だ。これはもう言い逃れは出来ない雰囲気だね。
「ボクは元々こういう性格だったさ。ただ、キミが気づかなかっただけ。そうさ。鈍かったよね、ホント。だからラキナみたいなのにコロっといっちゃうんだ」
「不覚だったさ。まさか高潔な騎士様が裏切りだなんてするはずがない。そう思ってたからこのザマだ」
「そうそ。だからさ、彼女に騙されてないでボクに奉公していればよかったんだ。そうすればあんな目にだって合わなかったんだ。甘い汁だって吸わせてあげた、多分」
「……どういう意味だ?」
どういう?
はて? どうしてだろう?
ボクは前々からラキナが気に食わなかった、自分本位なのはお互い様だけどさ。
お腹の黒さだったらアモネの方が上だったんだけれど、よりいけ好かないのはラキナだったな。
いつ頃からだっけ? あれは確か……。
「まあいい。お前をやったら次はラキナだ」
「……気に入らないな。仕方ないにしても、せめてボクを最後の相手にすべきだったよ」
そんな事をつぶやくけれど、目の前には迫ってくる彼。そして黒く染まった彼の拳。
幻だけじゃなかったんだ。
『よう! これからは俺達”三人”、仲良くやって行こうぜ!』
『ここって他に女の子とか居ないんだね~。仕方ない、パーティの花になってあげるよ! せいぜい頑張ってよ荷物持ち君♪』
『おいおい、俺は何もお前の召使いってんじゃないんだぞ』
なんでボクがキミの最後じゃなかったんだろ? でもボクの人生の最後はキミが決めるんだな。
ラキナの前なのは気に入らないな。でも、キミは……。
(思えば、男の子を襲い始めたのはキミがラキナと付き合ってからだったな。なんだかイライラして。それで偶々その日に出会った物乞いの男の子を手に掛けたんだった。あの子がなんとなくキミに見えて、それで……)
ボクの中に溶かしたくなった。
気付いた時は体を貫く衝撃。
でも、それでもボクの目はキミの瞳を捉えていて……。
『なあ聞いてくれよ! 俺さ、ラキナから告白されてさっ』
『……へぇ、よかったじゃん。キミみたいのでも好きになってくれる女の子とか居たんだね』
『あ、ひっでぇなお前』
……そうか、妬いてたんだ。だから気に入らないんだ、彼女が。
でももういいや。
ボクの最後、キミにあげられたから。
それでも……復讐は最後がよかったな。
キミが見つめる最後の相手が、ボクだったなら……。
「やけに素直に死んだな……。でもどうでもいいか、そんなの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。