第7話 想定外の出現
「……う~ん、もう昼前っ。時間って経つのが早いんだ」
路地裏から出て来た時には太陽が真上を刺していた。
悩める少年を一人助けて、こういう時間の使い方は一人の魔導研究者として有意義であるのは間違い無しだね。
きっとボクの為に生まれてきたであろうあの男の子は、今まで生きて来た人生の中で唯一無二の最高を味わえたことだろう。それを聞く事はもう出来ないけれど。
歩き出してしばらく、なんせ時間帯が時間帯だからお腹もぐうぐうなり始める頃合い。今度は別の物を頂いちゃおう!
と思った矢先、丁度いいところに屋台を発見だ。
街の中心部の風水前。ありきたりな所だけど、だからこそ趣を感じるボクは風流すらも理解出来る女だろう?
そんなわけで早速屋台のおじさんからホットドッグを買おうとした時だった。
「なあ、お嬢さん? お腹が空いてるんだったらこれ、食べるかい?」
「え? いいの?」
突然横から差し出されたのは、買ったばっかりと思われる出来立てのホットドッグだった。
ちょっと怪しいけど~、せっかくくれるってのなら貰わないとね。親切は無駄にはするものじゃないからね。
どうせ、ウィザードとして鍛えたこの体には毒の類は効かないし、こういうトコは便利なんだよね。
「じゃあお言葉に甘えて――」
「おっと、その前にだ。それやる代わりにちょっと付き合ってもらおうじゃないか」
「――ん?」
おやおや? これはナンパの誘いかな?
基本的にボクって自分から誘う専門なんだけどな~。ま、別にいいか。
何かあったら返り討ちにすればいいしね。だったらせめて、イキのいい少年がいいんだけど。
あれ? そういえばこの声をどこかで聞いたことがあるような……。
そう思って、差し出されたホットドッグから視線を上げて見る。
そこに居たのは――。
「え?」
「いいよな? 別に。ちょっと付き合うくらいよ。……だって俺は、お前に会う為に数ヶ月掛けたんだからな――ルロリア」
居るはずのない人間。もう死んだはずの人。
かつてのボクの仲間――サーライルがそこに居た。
たどり着いたのは人の居ない裏通りだった。
せっかく貰ったホットドッグを食べ終えたボクは、またどうして彼が生きていて、そして何ヶ月も経って現れたのかがわからず頭の中でハテナが浮かんでいた訳だ。
「キミってさ、ホントにあのサーライルなの?」
というシンプルな質問。だってわかんないんだから仕方ない。
「見たまんまだ。ああ、でもそうだな。あの時のまんまって訳じゃないな」
「なにそれ? ……でもいいや。で? ボクをこんなところまで呼び出した理由ってなにかな~? 久しぶりにあった仲間と親交を温め合う――」
「な訳ないよなぁ」
「――だよねぇ」
思えばちょっと雰囲気変わってるかも。
あの頃のちょっとお調子者でお人よしだった彼の面影が見えない。
と、なるとやっぱ理由はアレかな。
「仕返しに来たってことね。まさか生きてるなんて思わなかったから……この展開は想定外だな」
「俺も。死んだと思ったぜ? でも生きてる。生き残った以上は、やらないと。だろ? 覚悟はしなくていい。その方が――一思いにヤれる」
「へぇ、出来るんだ。この数ヶ月間でしっかり準備して来たって感じ~? でも、ボクも一端のウィザードなんだよね。勝てると思う?」
どんな手を用意してきたのか知らないけれど、ボクは戦闘職で彼はサポート。
戦いにおいてはこちらに一日の長がある。それに、さっきのナンパで力も蓄えたんだし、負ける要素がちょっと見えないんだよね。
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