第89話 コラボ発表配信
「……はい、はい。すみません、急に連絡したっていうのに、わざわざ時間を取ってくださいまして……はい、では明日、巣鴨の駅前に着きましたら、改めて再度お電話させていただきます。ありがとうございます」
ペコペコと頭を下げてから、優奈がプチッ、と通話終了のアイコンを押す。固唾を飲んでそんな優奈の通話を傍で聞いていた茜たちに、ふぅ、と一度吐息を吐き出してから優奈がVサインをする。
「聞こえてたと思いますが、会ってもらうことについてはOKだそうです。明日のお昼前に巣鴨にある白の旅団の本部で先方は待っててくださるっていうことだそうで、向こうに着いたところで改めて連絡してほしいってことでした。そうしたら御月さんが駅まで迎えに来てくれるそうです」
その言葉に、茜さんたちがホッとした様子で肩の力を抜いた。
「そっか。じゃあ明日、打ち合わせに行くことにしましょう。とはいえ、このメンバー全員で向かうと人目を引いちゃうことでしょうし、ここは優奈ちゃんとあたしと……」
「春香ちゃん、かなー」
「えっ」
「あら。りんねはそれでいいの?てっきりあんたが行きたがるもんだとばかり思ってたんだけど」
「んー、白の旅団の本部の中ってのを見てみたい、っていうのは確かにあるんだけどさ、あたしはあたしで目立つでしょ。
特に優奈ちゃんとあたしが二人で居て、あと茜ちゃんって組み合わせだったりするとさ」
「だから、茜ちゃんたちにお任せするよー」とりんねさんが言う。
「ただし、どんなところだったかとかについては、後で教えてね。あたしも少しは興味があるし」
「そっか。じゃあそうしましょうか。春香と千鶴もそれでいい?」
「わかりました。じゃあ明日は私が同席させていただきますね」
「了解です。じゃあわたしとりんねちゃんで瀬田マネの方には伝えておきますね」
それでこの件については、いったん打ち合わせは終わりとすることになった。
その後はこの後に行うコラボ配信発表についてのことだ。こちらについてはあまり大した打ち合わせはない。
スカーレットの四人がFunnyColorのチャンネル配信でコラボの日程が決まったこと、今回の配信ではゆーながBランクに上がったことも記念して、東京都外にあるとある地方ダンジョンで行うということになったということだけを彼女たちがこのリビングからの配信で発表する。そこに優奈はゲストとして別の場所からの参加という形で配信に加わるというだけのことだ。
あとは日時については発表するが、そのコラボの開催場所となるダンジョンについては、当日の混乱を避けるためにということで、その日まで視聴者たちにも詳しい場所は秘密にするということが確認された。
「コラボ発表配信で優奈ちゃんが一緒に映ると、ここで匿ってる意味が無いから優奈ちゃんには悪いけど、客室の方から配信に参加するようにしてね。あと、手料理の件についてはこないだの打ち合わせの時の話の通りでいいかしら?」
その確認にも頷いて了承の意を示す。
「はい。数をもう少し増やすってことですよね。個人製作の分を一人2つ作るのと、ペアで作る分が10個、合計20個に増やすってことでしたよね」
一人1つずつの5つだけが当選数っていうことに対して、なんでも倍率がすごいことになるということで増やして欲しいという意見や要望が、FunnyColorの事務所に電話やメールで殺到してしまったらしい。なので、急遽そういうふうに数を増やすことにしたいという要請が前回の打ち合わせの際にあったのだ。優奈としては調理すること自体は、ダンジョンでならバフで作業速度をスピードアップしてしまえばいいだけなので、別にそこまで手間でもないので了承していた。
「でも、その件に関しては茜さんやりんねさんの方がだいじょうぶなんですか?」
「ふ、ふふ……そのためにこの2日、朝から晩までずっとしごかれてきたのよ。量をちょっと多めに作っていけばいいだけのことでしかないんだし、だいじょうぶよ、だいじょうぶっ!」
「ふっ、あたしをメシマズとかハズレとか言ってる連中に、あたしの成長を見せつけてやるんだからっ!」
優奈の心配などそこもとに、二人ともやる気満々である。ならいいか。
ちなみに春香さんと千鶴さんは、そんな二人のことを温かい目で見ていた。
『はーい、視聴者のみんな元気にしてたかしら?
スカーレットのダンジョンちゃんねる始まりよ!』
『みなさん、こんばんはー。良い夜をお過ごしですか?
あなたのハートに癒しを。ハルです』
『視聴者のみなさんこんばんは。ちづりんです。
今回は見ての通り、茜さんのプライベートスペースから配信させていただいています。
そしてなんと!今日の配信にはゲストが居たりするんです』
『にはは!いっつも元気が取り柄のおりんでーす!!
今夜はみんなが気になってるアレについての告知回だからねっ!
それじゃ、さっそくだけど今日のゲストを紹介するね!』
部屋の防音がしっかりしているため、リビングでリアルタイムにいまやっている茜さんたちの声はPCのスピーカー越しでしか伝わってこない。けれど、事前に決められていた通りのやりとりでりんねさんから合図の声掛けが行われてきたので、優奈は少し緊張しながらも教えられていた通りの操作を行う。
「えっと、ちゃんと映ってますでしょうか?
スカーレットさんのチャンネル視聴者のみなさん、初めまして?
探索者のゆーなです」
ゲスト参加ボタンをONにして「配信参加中」のアイコンが出たのを確認してから、優奈が茜から借りたPCのカメラに向かってそう声をかける。
<おおおお!>
<おりんちゃんの前フリでまさかと思ったけど、マジでゆーなちゃんじゃん!>
<こんばんわー!>
<ビッグゲストktkr!>
<大物ゲスト参加だーーー!>
途端に、画面に大量の視聴者たちからのコメントが右から左に流れる形で大量に表示されていく。さらにその配信画面の右側には下から上に流れていく形で投稿されたコメントが文字として見えるタイプの配信画面となっていた。
「歓迎していただいているようでありがとうございます。
あ、スカーレットのみなさん、こんな感じで参加の仕方はだいじょうぶでしょうか?」
『基本的にはオーケーよ。あ、でもカメラとの距離が近いから、もう少し前かがみにならなくてもだいじょうぶかも。
こっちの声もちゃんと聞こえてるんだよね』
「あ、はい。カメラとの距離はこんな感じですかね。
音声はだいじょうぶです。ヘッドホンからちゃんと聞こえてきてますよー」
互いにそう言って通信環境等に問題がないことを確認する。ここから後は打ち合わせの通りで視聴者さんたちに向けての優奈とスカーレットでのコラボ配信開催が正式決定した話を進めていくだけだ。
『……ということで、配信日時は今度の週末、土曜の18時から。ゆーなちゃんの配信ちゃんねるとわたしたちのスカーレットちゃんねるの両方で同時2画面並行配信って形でするわ。開催場所については、さっき告知した通り、今回はゆーなちゃんのBランク昇格お祝いと証明も兼ねて、ゆーなちゃんオススメの地方ダンジョンで開催することになるからね』
『詳しい開催場所については、いま告知しちゃうと当日いろいろとたいへんなことになるかもしれないしで当日まで秘密にさせてもらうことはご了承くださいねー』
『いろいろと見どころたっぷりなコラボ回になること間違いなしだから、期待しててね!』
「私もみなさんに楽しんでいただけるようがんばりますので、どうぞよろしくおねがいします」
『あと、皆さんがすごく気になっていると思う手料理プレゼントについてですが、こんな感じに内容を強化してありますっ』
千鶴さんが画面の向こうでパネルを起き上がらせて手に持ってカメラに向ける。そこには各々による手料理のプレゼント数が増加したことや、ペアでつくるお弁当分が追加で加わったことなどが可愛い丸文字で記載されていた。
『こちらのお弁当の内容については、ご飯だけ持ち込みで、それ以外のおかずは当日のダンジョンで入手する素材を基に料理したダンジョン飯ということになります。なので、どんな料理ができることになるかとかは現時点では私たちにもわかりません』
そう千鶴さんが言って笑うと、視聴者たちが
<食える食材でよろしく!>
<トンデモ飯がきそう>
<なんというギャンブル要素っ>
<まぁ、ご飯持ち込みなら最悪でも日の丸弁当ができるしな>
などという、期待されてるのか期待されてないのか、いまいち判断に苦しむコメントが続々と投げかけられる。
『プレゼントの応募条件は、当日、わたしたちとゆーなちゃんの配信ちゃんねる両方を登録してくれてる人で、万が一のことがあっても自己責任でこっちに文句を言ってこない人たちってことね』
『あ、一応試食は私たちの方でもしますので、食べられない味のモノが届くとかってことは無いと思いますのでそこはご安心ください』
『ちょっとー!そこでなんであたしの方をみんなで見てくるわけー!!』
『そりゃあやっぱりね……と、言いたいところですが、実は!このコラボ回のためにちゃんとおりんってば料理教室に通って基礎から料理を教わったりと努力してるんです』
そう言って茜さんがタブレットの画面を配信画面に映す。そこには調味料の使い方などに悪戦苦闘しながらも、エプロン姿のりんねさんが恰幅の良い中年の女性から料理の仕方を手ほどきされているのを短く編集されてまとめられた映像が流れていた。
『ぎゃーーー!アカネちゃん、それって!!』
『マネージャーから貰ってきたわよー。あ、このおりんも頑張っている料理練習の動画の詳しい内容は、この配信の後にFunnyColorのメインチャンネルから観れるようになっていますから、そちらの視聴もどうぞよろしくお願いします』
『くっ、もう編集されてるだなんて聞いてなかったのにー!』
「あははは……アカネさんもがんばって習ってるんですよね」
『あ、ゆーなちゃん。うん、そうだよ。私や他のみんなも、おりんと一緒に料理教室のリュウナおねえさんから、いろいろと基礎からていねいに教えてもらいました。だから視聴者のみんな、プレゼントのお弁当についても期待しててね!』
そう茜さんが言って画面に向かってウインクすると、大量に好意的に捉えてくれた視聴者さんたちからのコメントが流れていく。
『料理以外にもいろいろ見どころがたっぷりな回になるとおもうから、特に探索者の視聴者さんは期待して待っててね!』
『それじゃ、今日の告知回はここまでってことで。よーろしーくねー!』
『ではでは、みなさん最後までおつきあいいただき、ありがとうございました』
『次回はコラボ配信回の当日となりますので、よろしくお願いします』
「今日は突然のお邪魔をさせていただきました。次回のコラボ本番も楽しみにしていてくださいね」
ではではー、と全員で視聴者たちへと挨拶をして配信を切る。終わってみると、いつもと違う配信スタイルであったからか無意識のうちに緊張していたようで身体中に力が入っていたことに気がつけた。ふぅ、と意識的に息を吐き出し、両手の平を組んで腕を天井に向けて伸ばす。そうして座ったまま背伸びをして身体を後ろへともたれかけさせると、優奈が座っているゲーミングチェアが優奈の体重を受け止め、首を支えるクッション部分に掛かった優奈の体重によりゆっくりと斜めに傾いていく。1~2秒、そうして身体中の筋肉を伸ばしてから上げていた手を自分のお腹へと降ろしたところで、部屋のドアがトントンとノックされる。
「優奈ちゃん、おつかれさま。これで無事にコラボ発表配信の方は終了したわね」
「あ。茜さんもおつかれさまでした。これで後は明日の白の旅団とのやり取りが上手くいけば準備はだいじょうぶですね」
「そうねー。まぁそっちはそっちでまたがんばりましょう。
ひとまず、無事に終わったことだし、これから本番に向けての激励会をするつもりだから、優奈ちゃんもこっちにおいでよ」
「あ、了解でーす」
茜さんの誘いの声に乗って、席を立つ。その後、優奈たちはTmitterや掲示板などを回って今回のコラボ決定発表に関するつぶやきや投稿などを、千鶴やりんねが買ってきていたお菓子をつまみながら全員で見て回ってみたのだが、割と評判はいいようだった。特に茜とりんねがきちんと料理教室で事前に練習しているというのが安心材料となったらしかった。
そしてその日はわちゃわちゃとしながら深夜まで優奈たちはいろいろとおしゃべりしながら過ごしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます