第82話 すやぁ。
「そうですか……わかりました。では、久遠さんたちだけということで申し込むとしましょう。
では、スカーレットの皆さんが……そうですね、付け焼刃でも3日間の受講コースで料理教室の先生にしごいていただいた後に、コラボを実施するということでどうでしょうか。……普通ならこんなに日程を早くしたりはしないものではあるのですが、実は事務所に先日の鴻島さんの配信以来、毎日のようにファンの方々などから問い合わせやらの電話がきておりまして。話題性の高さや注目度などの点を考えても、できればなるべく早く日程決定の発表を行わさせていただきたいのです」
「こちらの勝手な理由で申し訳ありません」と瀬田氏が謝罪してくるが、むしろ優奈の方こそ、コラボの件に関しては瀬田氏やFunnyColorの事務所さんに迷惑をかけているメンバーの一人でもあるので慌てて頭をあげてもらう。
その上で早めの方が都合がいいということについては優奈の側にしてみても同じであるのであとは瀬田氏や茜さんたちと日程調整を行っていると、その間に料理教室側から明日からでも可能であるという返信メールが届いた。そのため、優奈とスカーレットのメンバーでのコラボ探索は、来週の土日に行うということで急遽決定する。
「では、コラボ前の金曜日からは当事務所の方から私名義で熱海のホテルを2泊3日で予約を取っておくことにします。あ、スカーレットの皆さんだけではなく、鴻島さんの分の部屋についても確保しておきますのでご安心ください」
「えっ、そんなことまでしていただかなくても……」
「いえ、どうにも鴻島さんはいろいろなところから追いかけまわされていらっしゃってダンジョンで寝泊まりされているのでしょう。そういう噂は私の方でも小耳に挟んでいますからね。
鴻島さんにはダンジョンではスカーレットの皆さんのサポートもお願いすることになってしまうようですから、せめて前日やコラボ期間の前後だけでも安心して寝泊まりできる拠点の確保は、こちらの事務所の方でサポートさせていただきたいと思います」
「そうねー。優奈ちゃんってば気づいてないかもしれないけど、けっこういろんな噂になってきてるわよ。ここ数日、毎日のように大人の男の人たちに追いかけまわされながら、都内各地のダンジョンに飛び込んでってる探索者学校の制服を着た女子高生がいるっての、探索者御用達のネット掲示板やTmitterで目撃した探索者たちが投稿して話題になってたりするんだもの」
「それにこないだ、初心者探索者の少年たちを優奈ちゃんが助けましたよね。その子たちからの話って形で、彼らを助けにきてくれた優奈さんがマスコミ取材からの迷惑を避けるためにダンジョンで寝泊まりしてるって言ってたという話が広まってるんですよ」
「えっ、そんな事態になっちゃってるんですか?!」
「なってるよー。先日のギルド横領事件でただでさえ大騒ぎになってる最中で渦中の人だっていうのに、その取材に押しかけようとしたマスコミ撃退事件にあの噴魔機?とかいう大ニュース、さらにはあたしたちとのコラボ発表でしょ?
そこにマスコミ連中以外にも、スーツ姿のどうみても外国人風の男たちまで含めた何人もの連中に追いかけられて探索者学校の学生服姿な女の子がダンジョンに飛び込んでった、っていうことから探索者ギルドの警備部や白の旅団が慌てて追いかけてったりしてたんだよねー。んで、その時にその騒動を目撃していた探索者たちの一人が、飛び込んでった女子高生ってのが優奈ちゃんだったんじゃないかって言ったことで、もー、ネットでは当初から大騒ぎ大騒ぎ」
なんでも、そんな状況を見た探索者たちから探索者ギルドや白の旅団へと、その時は大量の通報が行われたのだという。
「しかも、白の旅団やダンジョン警備部が抑え込んで連れ戻してきた男たちっていうのが、どうも各国の大使館員だったりしたとかですぐに釈放された、という本当かデマかよくわからない話もネットには上がってたりしまして……さらにその後にアラームトラップに引っかかって窮地に陥った初心者探索者たちのことを、混乱する状況の中で通報を受けた白の旅団が助けに行って保護してみたら、その子たちを窮地から救助したのが優奈ちゃんだったってことでまた騒ぎになったんですよ。
しかも、その初心者くんたちの方は優奈ちゃんがどうやって助けたのかっていうことについては『ゆーなさんには迷惑をかけられないから』の一点張りで詳しくは話してくれてないそうなんですけど、その代わりに優奈ちゃんがマスコミに迷惑をかけられるのを避けるためにダンジョンで寝泊まりすることにしたって言ってた、そんなのは酷いと思う!って声明までだしてたりしてね。おかげでけっこうなマスコミへの取材方法に対する批判がネットやSNSを中心に巻き起こってたりするんですよね」
ほえー、そんなことにまでなっているとは。特に初心者探索者であるあの三人がそんなことまでしてくれていたとは予想もしていなかったと驚く優奈に茜が声をかけてくる。
「優奈ちゃんさえよければ、今夜はウチにでも泊まりに来る?
琴音ちゃんから聞いてるけど、優奈ちゃん家には連日、張り込みとかまでされてたみたいだから帰れていないんでしょ。……そういえば優奈ちゃんのことだからダンジョンで寝泊まりはしてたんでしょうけど、洗濯とか着替えはどうしてるの?」
ふと、疑問に思ったようで茜がそう尋ねてくる。「数日間ずっと着たきりってわけじゃないよね?」と笑って問われたので思わず苦笑してしまう。
「あー、えっと。当たりです。あ、でもダンジョンでは魔術が使えますから、浄化の魔術で衣類は毎日クリーニングしてありますし……」
優奈がそう言った途端、茜がジトっとした目で優奈のことを見つめてくる。いや、茜だけではなかった。春香も千鶴も、りんねからもジト目で見つめられ、瀬田氏にいたっては憐れむような、辛そうな視線で優奈のことを見つめてきている。
「決定。優奈ちゃんはしばらくウチで寝泊まりしなさい!
だいじょうぶ、ウチのマンションなら芸能人御用達系のとこだから住人以外は招かれないと入れないよう、セキュリティが元々しっかりしてるし、マンションに入る時に……そうね、優奈ちゃんなら大容量のボストンバッグとかになら入れそうだから、それに入ってもらって地下の駐車場から運べば、きっと気づかれにくいでしょ」
びしぃ!と茜が優奈に人差し指を突き付けてそう宣言する。
なんでも、春香さんは実家暮らしで両親や兄、姉も同居しているし、千鶴さんのところにはスペースにはまだ余裕はあるもののりんねさんが同居しているので若干手狭になりそう、ということで、そちらでもかまわないが一人暮らしをしている茜さん家に泊まらせるのがベストな選択肢ではないか、ということだった。
「言っておくけど断るのは無しね!
優奈ちゃんも無事に学校の中間考査期間は済んだんでしょ?だったら少しはのんびりしても問題ないでしょうし、数日くらいウチで寝泊まりして休養しなさいな」
「はぁ……じゃあ、お言葉に甘えまして……」
押しに負けるような形でではあったが、優奈がそう了承すると茜がガッツポーズを取ってみせる。そこからは茜と春香がなにやら二人だけで話し合いをしていたり、りんねと千鶴が優奈が潜り込めそうなサイズのボストンバッグを事務所の中へと探しに行ったりとてんやわんやとなってしまったのだった。
なお、その間に優奈は瀬田氏との間でコラボに関する守秘義務契約やスカーレットの配信に出ることへの同意書やそれについての契約金などの事務手続きを行っていた。
――ちなみにりんねたちが持ってきた分厚い革製のボストンバッグには、優奈は余裕で潜り込むことができました。
聞くと、ダンジョン探索時に春香さんがポーターとして荷物入れに利用してたりするボストンバッグだったそうで、試しに潜り込んでチャックを締めてもらうと真っ暗になり、思わず寝ちゃいそうになりました。すやぁ。
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