第63話 モンスター食のススメ(by優奈)


<は?>

<え?>

<マジで??>

<え、それ欲しい。分解して構造知りたい。というか魔力そのものの抽出とか、まさにいま研究中のやつそのものなんですけど、それ:流れのダンジョン研究者>

<え、それ本当なら、その機械って世紀の大発明では?>


 優奈があっさりと説明したその噴魔機の機能に、視聴者たちが戸惑ったコメントを投げかけてくる。中にはダンジョン研究者と名乗っているコメント投稿者のように、欲しい、売って、などというコメントも様々な言語で多数投げかけられてきた。


「あ、譲るのは無理ですよ。これが無いと私が家でモンスター肉とかダンジョンで採取してきた素材で作るお料理ができなくなっちゃいますもん。分解されるのとかもってのほかですー。

 それにこれ、恩人にわざわざ作ってもらったものでして非売品なんですよねー」


 なので、すみませんが他の人に売ったりとかはできませんよー、と優奈は売ってくれ、欲しい、と言ってきたコメントたちに断りを入れた。

 そしてそのままとことこと、再度、火にかけた鍋の下まで戻っていく。


「と、まぁ噴魔機のことは兎も角として……そういう訳なので、空間における魔力さえどうにかすれば、ワイバーンとかの肉は地上でだって見ての通り料理できたりするんですよ。

 というか、そうですねぇ……そこまで地上で、って点にばかりに拘らなければ、例えば地上で調理するのではなくダンジョンの上層1層とかまで素材を持ってきて、そこで手早く料理すればいけると思いますよ?

 上層であってもダンジョン内であれば魔力は空間にあるんですからね。

 もっとも、上層や中層と下層や深層とかの魔力の濃度差とかはわからないので、そこは確実にとは言えませんけど」


 興味がある人はやってみるといいんじゃないですかねー、と優奈はそう言い放つ。

 その一方でコメント欄では優奈が断りを入れたというのに、それでも何千万や何億、中には何十億という大金を掲示してまで、優奈に<その機械を譲ってくれ!>と申し出る者が多数居たが、優奈はわざと反応せず、全てガン無視しておくことにした。


「ちなみに下層や深層など、深い場所に居るほど、モンスターの肉体に含有されている魔力は多くなる傾向にあるみたいです。そして下層より深層、深層より深淵っていうふうに、ダンジョンの深い場所ほど空間の魔力が濃くなる傾向があります。

 だからダンジョンの深い場所の魔力に適応できていくからこそ、探索者もモンスターもダンジョン内での能力や肉体が強化されたり強化されたスキルを持っていくみたいなんですよね。さらに、だからこそより魔力濃度が濃いところにいるモンスターは、あまり魔力濃度が低くなる浅いところの層にでてきたりしないんですよ。たまにイレギュラーって形でやってくるのもいますけどね。

 で、そんな深い場所にある魔力に適応していく方法としては、より魔力濃度の高い場所に居続けることで身体を慣らしていくか、魔力含有量の高いものを食べて身体に吸収するか、ということがやっぱり基本になるんだそうです。そういう点では、下層から先の食べるのに適したモンスターを素材にして、料理をして食べるというのって、医食同源じゃないですけど強くなるためってことでいうとオススメだったりするんですよねー。

 この辺、たぶん深層とかにいく探索者の人で、ダンジョン内での長期滞在してたりする人は食材として現地調達したりすることもあるはずですから、それで強くなっていきやすいってのもあると思いますよ?

 なので強いからこそダンジョンの奥へ行けるんだ、っていう風にも言えますし、ダンジョンの奥、つまり魔力の濃い環境に行って過ごしているからこそ、ダンジョンで強くなっていけてるんだ、っていう風にも言えるんですよねー」


 そんなことを言っているうちにワイバーンのチャーシューを作っている鍋の煮汁が煮立ってくる。なので優奈は火を止め、落し蓋をした上で用意しておいた濡れタオルの上に鍋を移動させた。


「あ、でも一つだけ注意してほしいのが、魔力も徐々に身体を慣らしていかないと身体か脳が異物として激しく拒否反応を起こす状態になっちゃうっていうことです。

 ふつうは上層から中層、中層から下層、下層から深層っていうふうに段階を踏んで進んでいきますから自然と適応できていくんですが……身体がまだ魔力に慣れてない上層とか中層の人が深層のモンスター素材をいきなり食べたりしたら、魔力中毒状態になったり気絶したりすることになって、場合によっては命の危険があったりします。だから、そこは気をつけてくださいね」


 できあがったワイバーンのチャーシューは、タレが表面を覆って綺麗な艶のあるテカリ具合を見せてきていた。そんなワイバーンのチャーシューに、優奈はスプーンで鍋に残っていたタレを掬ってはかけていく。茶色に染まったテカリのある肉からは食欲を誘う香りが漂ってきていて、優奈はつまみ食いしてみたい衝動に駆られたが、配信でそんなことをするのはみっともなさそうだと、ギリギリのところで思いとどまった。


「さて、それはともかくとしてワイバーンのチャーシューの方が一煮立ちしましたので、こっちは脇に置いて、ここからは数時間冷まして味を染み込ませていきます。

 ちなみにさっき料理中に溶けて消える理由について説明しましたが、実はモンスター素材を使った料理っていうのは、どうもある程度まで調理が進んで料理として形になってくると、そこから後は普通に地上で持ち歩いたりしても、それまでのように素材が解けて消えてなくなったりすることはないっていう特徴があるんですよ。特にこちら側の材料で作った調味料やタレなどで煮込んだりすると効果的ですね。

 なので、ちゃんと料理しておけば、地上でも持ち運びできるようになるんですよねー」


 だからお弁当とかの具にしておけば、ダンジョン外でも持ち運びして食べることができるんですよー。下層から先に行ける探索者の人は、このことを知っていれば普段の食費だって浮かせられるので便利ですよ!と優奈は力説する。実際、配信では語っていないが、優奈はときたまこうして自分で狩ったモンスター素材を調理してから冷凍保管しておくことで、普段の食費を浮かせていたりしているのだ。

 なので、そういう家計の知恵ということで、モンスター食がだいじょうぶな人は、ぜひ一度試してみてくださいねー!と言った優奈は、カメラに向かってグッと親指を立ててみせた。


「さて、なのでワイバーンのチャーシューの方の調理はこんな感じですね。

 ワイバーンはけっこうそのままだと淡白な味わいなので、こういう濃い目のタレなどで味付けしたりするか、いまから焼いて作るワイバーンのステーキみたいな感じで、素材本来の味に塩コショウなどでちょっとアクセントつけてあげるくらいの味付けにしてサッと焼いてみると、食べて美味しくなると思いますよ。

 ダンジョン探索に調味料持っていくっていうのは、どうしても荷物になっちゃうからとやる人が少ないそうですが、それなら濃縮調味液とか小分けしたミックススパイスだけ地上で作っておいて、現地で薄めたり調整しながら試してみるといいと思います」


 そう言って優奈は続けて塩コショウとハーブで下味をつけたワイバーンのステーキ肉を、サラダ油を塗ったフライパンで焼いていく。


「あ、それとモンスター素材で料理をする時には、ちょっとだけでもいいので属性魔術を使うのが美味しく料理する際のコツだったりします。煮込みとかならさっきやったみたいに水を水属性の魔術でだして、焼き料理ならこんなふうに火属性の魔術で出した火で包み込んで、軽くサッとフランベってみるとかがコツかなぁ……あ、でもアルコールを使わないのでフランベって呼ぶのが調理用語的に正しいのかはちょっとあやふやですね」


 苦笑しながらそう言った優奈が、ぱちんと指を鳴らす。すると一瞬だけステーキ肉全体を包み込む炎がゴゥッとフライパンの上で発生しすぐに消えた。


「はい、できました。こちらはワイバーンのステーキですね。味付けは塩コショウとローズマリーやパセリの粉末をミックスさせたものを、下味としてかけています。

 あとはこれらに野菜サラダを盛り付けた小鉢を加えて……ステーキセットって感じです。どうでしょう!

 あ、それとワイバーンのチャーシューの方は味が染み込むのを待つしかないんですが……これはゆっくり待っててもいいんですけど、ダンジョン探索中とかで作るのには急がないとだめだとかであれば……」


 ぱちん、と優奈が指を鳴らすと一瞬、冷えて味が染み込んでいくのを待っているワイバーンのチャーシューが銀色に光る。


「こういうふうに時間加速ヘイストの魔術とかで漬け時間を加速させることで味を染み込ませる時間を短縮させてみるというのが裏技として使えたりします。忙しかったり時間がなかったりして味を染み込ませるのが大変な時には時短料理になりますので試してみてくださいね。

 ただ、こんなことしなくても少し置いておけば自然と味が染み込んでいってくれますから、やっぱり一番は自然に味が染み込むのを待つことだと思いますけど」


と優奈は視聴者たちに支援魔術ヘイストを使った時短料理法についても追加で説明してあげるのだった。


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