第60話 モンスター食


「さてさて、そろそろ向こうにも動きは有ったでしょうか?」


 優奈とスカーレットのコラボするよ声明に興奮した視聴者たちが、ある程度おちついてきたところで、優奈は視聴者たちにそう声を掛けながら、家の外でドローンがカメラ撮影している家の近所に居る不審者たちマスコミ取材班の様子を伺うためにPCのディスプレイへと視線を向ける。それに伴い、配信用ドローンも優奈の右肩辺りに移動して同じディスプレイを映し出した。するとそこには、幾人かは優奈の配信を見ていたか、見ていた会社側から連絡でも来たのだろう。そそくさと慌てた様子で機材を片付け立ち去ろうとしている姿がいくつも映ってくる。そういった者たちには警察も様子見をしているのか近寄っていく様子はなかった。

 だが、その一方で配信を見ておらず連絡も来ていなかったっぽいのか、変わらず物陰から様子を伺っている連中たちのところには、優奈たちが注視しだしたすぐ後に複数名の警察官たちがやってきて職務質問をし始める様子がバッチリと映り込んできている。


「あ、お巡りさんたちが対応してくれてますねー」


 のほほんとそんな様子をモニター越しに眺めていると、職質を受けていた連中の一部は何かあったのだろうか?突然、激高した様子で警官に詰め寄り警官を押しのけようとしてしまい、公務執行妨害でなのだろう、お巡りさんたちに捕まえられて画面外へと連れ去られていく者が出始める。

 そこまで暴れる様子がない者たちも、何やら警官相手に喚いていたようだが、結局はしばらくするとすごすごと機材を片付けて去っていく姿が映っていった。

 そんな光景を見て、優奈の配信のコメント欄が再度盛り上がり始める。


<これはたしかに"掃除"www>

<見事に『不審者』が一掃されてらw>

<押しのけようとしたやつ、連行されってたんやろうな>

<お巡りさんたちおつかれさまです!>

<ゆーなちゃんも通報おつかれさま!>


「いえいえ、私は別に大したことはしてませんから。

 でもまぁ、これからもああいう不審者さんにはこういう対応させてもらいますっていうつもりなので、その辺はどうぞよろしくお願いします。

 ただまぁ、このためだけに配信をするというのもなんでしたので、これから今日のもう一つの配信テーマである、お料理の方をさせてもらいますねー」


 そう言って優奈は先ほどまで座っていた場所から移動する。移動先は同じ部屋の中にあるキッチンだ。


<あれ?そんなのそういえば最初に言ってたわよね……?:アカネ@公式>


 優奈のその言葉に、茜がコメントで不思議がる。まぁ、ここから先はスカーレットのメンバーとの打ち合わせででは出ていなかった話で、昨日のことを受けて急遽、優奈と琴音で打ち合わせて決めた追加のネタなのだから不思議がるのも仕方ないことだろう。

 まぁ、そんなことについては後で茜たちにも説明すればいいだろうし、なによりこれからすることを見れば彼女たちも興味を持ってくれることだろう。そう思って悪戯をしている気分になりながら、優奈は配信を続けていく。


「えー、皆さんはモンスター食って知ってますか?」


 キッチンへと移動した優奈は、視聴者たちへとそう問いかけながら白い布地に花柄がプリントされたエプロンを身につける。その優奈からの問いかけに幾人かの視聴者たちがコメントで返事をしてくれる。


<知ってる知ってる。ダンジョンのモンスターを食材にして食べるっていうアレでしょ>

<ダンジョン発生当時は話題になったよねー。世界的にも食料問題がけっこう課題の一つだからなぁ>

<とはいえ、ダンジョン上層とか中層に出てくるモンスターのうち、ゴブリンとかオーガのような人型のはどうしても意識的に敬遠されるんだよな>

<というか、そもそも上層のモンスターは、味が酷すぎる上に肉が臭すぎて食材には向いてない点について>

<ある程度食える味のモンスターが出てくるのは、下層の後半あたりからかな?>

<とはいえ、下層とか深層のモンスターの肉とかは、冷凍保存でもしないと地上まで持ってくる間にどうしても痛んでしまうんだよね>

<苦労して冷凍保存して持ち帰ってきても、深層モンスターの食材にできる箇所とかは、地上で調理してるうちになぜか気化してくように蒸発して消えちゃうんで、地上じゃまず食えないんだよなぁ……>

<革とか歯とか骨とか、そういう素材だと地上にもってきても変わらず残ってくれるんだけどな。なぜか肉部分はたいていが蒸発したように消えてなくなってしまうという>

<けどまぁ、だからこそ地上の畜産業界が普通に保っていられるんだよなー>

<どこからか湧いてくる上層のモンスターの肉とかが食える味のものだったら、食糧危機は一層されるだろうけど、畜産業が成り立たなくなるだろうからな。一長一短だわ>

<だから、まともに食える肉を得たければ下層とか深層に行かないといけないんだが……>

<かといって下層や深層だと、危険と採算のバランスが合わないしな>

<だからモンスター食をするのって、下層や深層にキャンプ前提で探索に行く上位探索者たちが食糧が尽きてか現地調達前提でやる場合に限るんだよ>

<とはいえ、コカトリスやバジリスクの肉って、焼いただけでもむっちゃ美味しいって聞くよね>

<ワイバーンの肉で焼肉とか一度してみたいよな。どんな味がするんだろ>

<ワイバーンの肉は赤から白のグラデーションが綺麗な肉なんだよな。サシが多いんだろうか>

<ワイバーンはけっこう鶏のささみっぽい淡白な味だぞ。あの白い部分は脂肪じゃなく、あそこも肉だったりするんだわ:大ムーン>

<とはいえ、下層や深層に食事目的に行く探索者なんて滅多にいないんだよな>

<たまに下層とかで活動してるメシテロ探索配信者が居たりするくらいかな>


「そうなんですよねー。

 上層や中層のモンスターのお肉とかは食べられた味じゃないですし、下層もある程度から先だと食べられたり美味しいのとかはあるんですが、食事目的で普通は狩りに行ったりすることはないらしいし……ただ、下層や深層の食材になるモンスターの素材が地上では食べる前に消えたりしちゃうの、あれにはちゃんと理由があるんですよねー」


 コメントを見て、そう言いながら優奈は部屋の片隅に鎮座していた黒い立方体状の機械の様子を確認する。その機械からは微かな振動音がしており、その上部からは薄い黒い色をした霧が部屋の中へとずっと散布され続けていた。その機械の上部にあるランプで、室内がこれからの作業をする上で必要な条件を満たしている状態となっていることを確認してから、優奈は別の箱から、彼女の顔の半分くらいは厚みのある立方体状の肉の塊を取り出してくる。その肉の断面は、まさに先ほどコメントの中にも出てきていた、表面が綺麗な赤から白のグラデーションがかった色をしているものであった。


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