第59話 お 掃 除


「しかもですね、どうも家の近所にいる、このいっぱいの不審者さんたちの中には、イタズラ者な人らが多数、居てるようでして。

 ほら、小学校の時に男子がやってたりしてるイタズラ、たしかピンポンダッシュでしたっけ。知り合いでもない他人の家の呼び鈴を何度も押すイタズラをしてくる不審者さんもかなり居るようなんですよねー」


<優奈ちゃん、それもしかして……>


「たしか、私、以前の配信で迷惑な突撃配信だとか取材だとかは受けないって宣言していましたよねー。なので……人権の尊重だとかを含めた、意識高いジャーナリズムののマスコミの皆さんや、そんなマスコミさんから番組制作を請け負ってる会社の人々だとかが、そーんな私の想いや言葉を無視して身勝手な取材だとかしてくるはずはないと思うんですよねー」


 まったくもって棒読み極まりない優奈の口調ではあったが、目が笑っていない優奈を見てか、そのことを指摘してくる視聴者というのは一人もいなかった。


「だからですねー、ということは……ああやって付きまとってこようとする人たちっていうのは、たぶん不審者だとか集団ストーカーだとかいう類の人たちだと思うんですよねー。

 なにせ、女の子の一人暮らしの家に勝手に押しかけてきて、カメラだとか持ってきて家の中を勝手に覗き込んだり撮影しようとしてるのもいるみたいなんですよ?そんなのって、盗撮目的の変態さんだとか、もしかするとマスコミの皆さんにカモフラージュした泥棒さんの下見だったりするかもしれないじゃないですかー」


 うふふふ、と優奈が片手を頬に当てて微笑む。本人はお上品に振る舞って笑みを浮かべているつもりではあるのだが、それを配信越しに見ている人々には上品さどころか妙な威圧感しかその笑みからは感じとることができなかった。


「さっきも言いましたが、きちんと報道倫理を日々、守ってくださっているのマスコミの皆さんがそんな不審者的なことをするはずがないと思うんですよね。

 と、いうことは……ああいうことをしてくる人たちっていうのは、防犯上の面とかからみても十二分に不審者さんでいいんじゃないかなー、なんて思うんです。

 いやぁ、最近の世の中って、怖いですねー」


 完全に棒読みな優奈の台詞である。報道倫理だとかそんなことについては微塵も優奈が信用していないだろうということは、配信を見ている誰の目にも明らかである。だが、視聴者たちは誰一人としてコメント欄で指摘しようとはしなかった。というかできない雰囲気を優奈が放っているのである。


「なので、防犯カメラ的な意味合いでも、いま自宅周辺にいる不審者さんたちの姿恰好や顔を小型ドローンによるカメラで逆にチェックして回らせてるんですよー。

 あ、これに関しては地域のおまわりさんたちと、ちゃんと事前に相談しておいて、やる許可を得た上でやってますよー」


 そう言った優奈は、周辺地域のたちが映った画面の横にあるメールアイコンにカーソルを移動させ、ぽちっとクリックした。


「はい、これでこの不審者さんたちの位置情報と映像データがメールに添付されて、地元のお巡りさんのところへと通報されました。この後は、すぐにお巡りさんが来て不審者さんたちをしてくれる手はずになっていたりします」


 そう優奈が言ってぱんぱんと手を軽く叩き合わせると、その音を合図としたようにコメント欄へと一気にコメントが投稿されだした。


<たしかに不審者だよなw>

<そうだよな、本人が取材拒否明確に宣言してるのに押しかけてくるの不審だよなw>

<取材で家の中とかカメラ向けて盗撮しようとするのとかは行き過ぎだろ>

<ゆーなちゃん、全部わかってて言ってるでしょw>

<あ、さっそくお巡りさんが職質しに行ってるのがモニタに映ってるぞ>

<たしかにあんなデカいカメラを住宅街で持ってこそこそしてたら、不審者以外の何者でもないわな>

<インタビューしたいだけだろうにカワイソス>


そんな盛り上がるコメント欄に、優奈はさらにひとちる。


「私に質問とかあるとかいうのなら、配信で問いかけてくれれば、答えられるものとか答える気があるものについては答えますし、そうでなければ答えないって前にも言ってますよねー。

 なのにわざわざカメラとかマイクを持って私の拒否の意志宣言を無視して、家まで押しかけてくるのって、ハッキリ言えば、なにか不審な目的があるようにしか思えませんよね?」


 優奈が視聴者に向けてそういうと、コメント欄がさらに盛り上がる。

 そしてその中にはいくつか優奈に向けた質問なども含まれていた。

 そんな質問の中から、優奈は気が向いたものをピックアップして答えていく。


「ええっと……高校生なのに一人暮らししてるんですか、保護者の方は一緒に住んでないの?ですか。

 はい。前に話したと思うんですが、私の両親は私が幼いころに亡くなっていまして。なので、いまはおじいちゃんとおばあちゃんが私の保護者になってくれています。

 ただ、そのおじいちゃんとおばあちゃんは大阪に住んでまして……私も両親を亡くしてからの小学校の時は、大阪に数年間の間は住んで居たんですが、中学校の時に両親が残してくれてた家をそのままにしとくのもなんだからということで、おじいちゃんたちには無理を言ってお願いし、私だけでこっちの家で中学の頃から一人暮らししているんです」


「スカーレットのメンバーが昨日映ってたし、前にもカラオケに一緒に行ってたりしたみたいだけど、よく一緒に行動してるの?ですか。

 はい、いいえ、どっちなんだろう?

 えっと、当初はただの偶然で襲われていたところを通りがかって助けただけの縁でしたけど、あの騒ぎの後、アカネさんたちとは今は年上のお友達として付き合っていただいています。なので、たまに一緒に遊びに行ったりとかはしていますね。

 ただ、ダンジョンには一緒に潜ったりとかはしてませんので、そういう意味では一緒に行動してたりはしてませんし……なので、個人的な付き合いという意味では『はい』で、ダンジョン探索っていう意味では『いいえ』ですね」


「ゆーなちゃんの好きな食べ物を教えて……そうですね、たいていの食べられるものであればなんでも好きだと思うのですが、特にこれと言うとしたら、大阪でよく食べていたたこ焼きや焼きそば、お好み焼きとかでしょうか。

 関西に行って最初の頃はびっくりしてたんですが、大阪では白ごはんを主食に焼きそばやお好み焼きを食べるんですよ。どっちも主食じゃないのー!?って驚きますよね。でも、一緒に食べてみると焼きそばやお好み焼きの濃厚なソースの味が白ご飯の淡白な味と合わさると、すっごくごはんが進むんですよね。なので、大阪の粉物がわりと好物って言えると思います。

 あとは甘いものかなぁ……そういえば、おばあちゃんに奨められて食べた京都の幸福堂さんのきんつば、あれが特にオススメですね。あそこの焼き芋を生地に練り込んでる芋きんとか、とても美味しいんですよ。緑茶やほうじ茶と一緒に食べると至福ですよー!」


「昨日の配信で頼まれてた魔水晶、納品したの?いくらだった??……ですか。

 あ、はい。昨日、新藤副ギルド長経由で探索者ギルドに納品させていただきました。どうも向こうが思ってた以上に持っていっちゃったみたいで、価格についてはこれから算出することになるそうです。昨日のごたごたもありましたしね。

 新藤副ギルド長によるとオークションにかけるかもしれない、っていうことだそうですので、いくらになるかについてはまだ未定ですね」


「昨日の飛行型モンスター対策みたいなバフの使い方があったら教えてほしい、ですか?

 んー、いろいろありますよ。今度、配信で実際に実践しながら紹介してみようとは思ってるんですが……例えば毒持ちのポイズンスライムっていますよね。中層あたりからでてくるネバっとしてるアレです。

 あの子たちには清浄クリーンとか解毒アンチドートをかけてあげると、一時的に無毒化されて上層のただのスライムと同じになったりするので、核を狙って倒すのが普通のスライムと同じ感じでできるようになるので、戦うのが楽になりますよ。あのズボッと手を突っ込んで核を掴んで抜き取るあの方法です。毒を無効化すればあの方法が取れるようになるんですよ。

 あ、でもこのやり方については、ポイズンフロッグとか他の毒持ちモンスター相手でも使えたりしますが、ただ注意点がひとつありまして……生体構造的に体内に毒精製器官を持つモンスターに対してこの方法をとった場合は、しばらくするとモンスターが毒を新たに自製しちゃいますので、そのあたりについては注意が必要になりますよ」


「ゆーなちゃんの3サイズを教えて………………あのー、セクハラってことでアカBANしちゃっていいですかー?」


「次はどこのダンジョンにいつごろ潜りに行くつもりなんですか?

 ……んー、昨日、Bランクに上がることができたので、一気に行ける幅が広がりましたからね。ちょっとまだ考えてる最中ですね。これまではDランクでしたので、基本的に都内でしか回ってなかったんですよねー。

 今日の配信でも皆さんからいろいろなダンジョンのことをオススメしていただけましたし、他県のオススメしてもらったところとかも行ってみたいですよねー。あ、ただ、どこかに本格的に潜りに行ってみるとしてもまずは明日からの学校の中間考査が終わってからかなぁ……」


「スカーレットのみんなとか他の探索配信者の人とかとコラボはしてみないの、ですか?

 あー、そういえばスカーレットの皆さんとはそのうちコラボしてみたいなとは思っています。最初の騒動の後に誘われて約束していましたし。

 ただ、私ってこれまでコラボってのをしたことがないんですよね。コラボっていっても、いったいどんな風にしたらいいんでしょう??」


 優奈がそう悩みを視聴者に吐き出すと、ピコン!とコメント欄にスパチャでの通知が来た。


<"1000円" コラボしてくれるならいつでもいいよ!ゆーなちゃんに合わせる!!事務所には許可取ってみせるから、ゆーなちゃんのオススメのとこにどっか一緒に行ってみるとかどう?!:おりん@公式>


 飛んできたスパチャの内容を読んで、ぶふぅ、と優奈は思わず吹き出してしまう。りんねさん、打ち合わせにないのに何やってんですかっ!


<ちょ、おりん!またあんたは勝手に!!:アカネ@公式>

<おりんさーん、ゆーなちゃんとコラボしたいのは同感ですけど、これあとで呼び出し確定ですよー:ちづりん@公式>

<先にマネージャーさんに話を通してあげないとマネージャーさんがまた「胃薬増えた……」って泣いちゃいますよ:ハル@公式>


 続けてスカーレットの他の3人もそうコメント欄で通知を入れてくる。そんな他3人からのコメントに優奈や他の視聴者たちが反応できず呆然としていた間に、さらにりんねからのコメントが投げかけられた。


<てへぺろ☆:おりん@公式>


 あ、これ確信犯だ。そう思ったが、同時に実際に舌をちょっと出して「てへぺろ☆」って言ってそうなりんねの姿も想像できてしまい、優奈は思わず苦笑してしまった。


「くすくす……そうですね、ハルさんとかも言ってるようにスカーレットのみなさんは事務所所属なんですから、そちらの事務所やマネージャーさんの許可とかを事前に取っておいてください。

 そちら側の許可が出るようなら、スカーレットの皆さんとは気心も知れてますので、初コラボ相手として、こちらからもお願いしちゃってもいいですか?」


と、りんねに対し優奈が応じると、即座にりんねから返事がコメント欄に投げ込まれた。


<やったー!じゃあ、絶対にマネージャーから許可をぶん捕ってくるから約束だよー!!:おりん@公式>

<まったくおりんは……でも、私も楽しみにしてるから、許可が取れたらよろしくね:アカネ@公式>

<日程とかコラボのやり方とかは、正式決定しましたらまた連絡します:ちづりん@公式>

<ゆーなちゃんの方は、まずは中間考査をがんばってください:ハル@公式>


 優奈の返事に、即座にりんねが、そしてそれに続けてスカーレットの他メンバーからも反応したコメントが投げ返され、コラボすることがほぼ決定すると、これまで黙っていた視聴者たちもが爆発したようにコメントを投げ込み始めた。


<ゆーなちゃんとスカーレットがコラボ!>

<これは突然の爆弾ニュースktkr!>

<これ、事務所がいまさらNoとは言えんだろ!>

<いま話題の新人Bランク探索者とFunnyColorの推し探索者たちがコラボとかめでたい!>

<どんなとこに探索に行くのか期待!>


爆発的に投げ込まれてくるコメントの嵐に、優奈はちょっと慌てて注意をおこなう。


「わわっ。み、皆さん、あくまでスカーレットの皆さんが所属してるFunnyColorさんから許可が下りたら、ですからね!まだ決定じゃないですよ。

 あと、コラボっていっても、ほんと、コラボってどんなことすればいいのかだとかどんな場所に行くかとかまだ全然スカーレットの皆さんたちとも相談してないんですから。まずは落ち着いてくださーい!」


 そう優奈が視聴者たちに声をかけるが、視聴者たちの盛り上がりと興奮はしばらくの間止まることはなかった。



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