第53話 銀に輝くランク証明書
「ええっと……その、海外とかに流れたりしたら、やっぱり不味いんですか?」
その優奈の質問に新藤副ギルド長は深く頷いた。
「そりゃあ大問題になるのう。ゴブリンやオーガなどの魔石のような比較的浅い場所で確保できるような素材などであっても、魔石工学による機械稼働のためのエネルギー源や、魔石そのものをエネルギー源とする魔石爆弾などの素材に使えるじゃろ?
ゆえに、それがテロなどに活用される危険が十分にあるからの。なので、ダンジョン産素材の売買というものは基本的に探索者ギルドを通すよう法律で定められておるんじゃよ」
そう言って新藤副ギルド長が腕を組み優奈に細かく説明してくれる。
「唯一、探索者ギルドを通さずダンジョン産素材を使用できるのは、素材獲得者本人が自身のダンジョン探索装備の制作・改造に使用する時、および自身の専属サポーターなどに探索装備の改造や製造のために引き渡す、という場合のみ許されておる。
その場合であっても、そうやって作り上げた装備などを第三者と取引するとなれば、その場合には改めて探索者ギルドを通す義務が課させられておるが、それもそういった不正流出防止という理由が根本にあるからなんじゃよ。
例えば、今日、ゆーなちゃんが釣り餌として持ってきたオルトロスの素材、あれはB級モンスターの素材じゃろ。B級ほどのモンスターの素材であれば防具に使えばDやEのモンスターとの戦いを安全に遂行する防具の素材となるし、武器に使える素材であれば同ランク以下のモンスターを狩る武装用の素材として成立するものがほとんどじゃな。そうなればその分、よりモンスターを狩りやすくなることに繋がるため、むやみやたらと取引を許可してしまえば、入手した者の魔石等の収集効率が向上することに繋がる。
それが裏で行われても、1つ2つでは大した差にはならずとも、それが数百、数千、数万と積み重なっていけば、それにより表にでない国力の差や、裏組織の活動資金や道具といったものになっていき、テロや犯罪などに利用されていくことになるやもしれん」
新藤副ギルド長はそう言って整えられた顎鬚を手で擦る。
「そういう懸念があるからこそ、ダンジョンから産出される魔石などの産出素材や、魔物素材というものは各国が管理する探索者ギルドを仲介してのみ売買できるよう、国際的にも取り決めがなされておる。探索者ギルドでの取引であれば、記録もちゃんと残るように法で決められておるしの。
……それゆえ、一部ではダンジョン素材の本人の装備転用などへの活用で作られた物などについても、探索者ギルドで管理させるべし、という主張がなされることもあるが……これに関しては一長一短があるが故に、いまのところは装備転用は自由と許容する派閥の方が、管理統制派のことを抑え込んでおる。
なにせなんでもかんでも国や探索者ギルドで管理、となればその権限を持った後の、国や探索者ギルド自体の探索者に対する権限が異常に強くなりすぎるからの。それに一部の改造マニアやコレクター的なA級やS級の探索者たちが一斉に暴れ出すことになるじゃろうて」
そっちの方がやっかいな事態になるのは目に見えておるわい、と疲れたように新藤副ギルド長はため息を吐き出した。
「それにのぅ……一部の後進国では、そのような国や探索者ギルドが全て取り上げ、管理するという名目での運用が実際に行われておったりするが、現実にはきちんと管理されておらず横流しや権力者のお気に入りだけが得をするということなども起きておる。
さらにはそういう国などからブラックマーケットへ流されておるということがあったりするのが世界の実情じゃ。
さらに自身の装備の改造やら研究やらで使う必要のあるものを、獲得してきた本人が自由に使えず、活用したければ探索者ギルドから買うしか入手方法がなくなるなどということになれば、だれも危険で大変なモンスター素材とかを自ら取りに行こうとはせんようになるわな。なにせ、安全に金になる素材だけを搔き集めてそれを売って購入すればよいだろ、という方向になってしまいかねんからのぅ」
あと、そうなればすでに金を持ってる者だけが強くなれるようになってしまうじゃろうな、と懸念を新藤副ギルド長が吐き出した。お金を持っている上位ギルドなどが買い占めなどを行うことを危険視しているらしい。
「これが自分で活用する分にとっては可能というままにしておけば、金が無いものや必要性があるものは自分で狩りに行ってくれるようにもなるしの。そうなれば探索者ギルドの手間も減ってWIN-WINじゃな。
ゆえに、へたに国やら組織やらで全て管理させるよりも、探索者本人が活用する分に関しては問題なしとする余地を残して、探索者自身の強化に回させやすくした方が社会全体の探索者のレベルの底上げにつながる余地も生まれやすくなるというのが現在の日本における探索者ギルドおよび探索庁としての判断じゃ。ワシも実際にこっちの方が良いじゃろうと判断しておるしの」
それにの、と新藤副ギルド長がニヤリと口元に意地悪いような笑みを浮かべる。
「そういうものなので、そのような裏取引等がされていることが判明した場合には、物理的なことも含めての厳しい国際的懲罰が当事国に対して課されることになりえるものなんじゃよ……その懸念があるんじゃから、あの愚か者への取り調べというものはこれから苛烈を極めるものとなることじゃろうな。
背後にいる者たちのことも含めてしっかりと叩き潰して各国に報告せねば、日本が世界から非難されることが避けられなくなってしまうからのぅ。そうなると恐らく、国として貿易や金融、外交の面でもダメージを食らうことになるじゃろうなぁ……。
たぶん、そろそろ警察や探索庁だけでなく、公安や内閣の調査室もあやつの取り調べの場に乗り込んできておるんじゃなかろうかの。事態を知って、すぐに官邸に報告にも行かせておるからな。あの愚か者がどの時点で、己の未来がもはや御先真っ暗闇であるということに気づくのかが見物じゃろうて」
と、新藤副ギルド長が橘のことを嘲笑う。
「ま、ワシや探索ギルド長も今後、見逃してきてしまっておったことについて叱責されたり処罰を受けることが避けられんじゃろうが、それは管理者としての責任と義務じゃ。粛々と受けるしかないわい。まぁ、そんな些事のことよりも、ゆーなちゃんには本当にすまないことをしてきてもうたの。そのことについては、再度、探索者ギルド副ギルド長として公式に謝罪をさせてもらいたい。
まずはこれより、これまでのゆーなちゃんと探索者ギルドの間で行われた取引記録については全て洗い直し、不正があった金額についてはその差額分全額と賠償金を加えたものを改めて払わせていただきたいと思っておる。賠償金の額についてはゆーなちゃんの被害額の算出が出てからの決定となるが、少なくない額にはなることじゃろうな。
また、さきほど言及したように、今回の件はあやつ一人の犯行、被害者もゆーなちゃん一人の個別案件とは考えづらい故、全国の探索者ギルドに対しても、ひとまずは保管期限内であるここ5年間の取引記録、その全ての洗い出しと確認を行わせることを探索者ギルド副ギルド長として確約するぞい。加えて、これらのことについては今回の不正が行われていた件についてを含め、すべてを日本探索者ギルドが社会に対し公式に会見をもって報告、謝罪を行い、同時に関係機関各所と連携して今後の捜査に全力で協力していくことを約束させていただきたいと思う。この約束についての立会人は、スカーレットのアカネさん、あんたにお願いするぞい。
――申し訳ないが、どうかこれらのことを以って、我ら探索者ギルド側から優奈殿への此度のことに対する、ひとまずのせめてもの誠意と謝罪であるとして受け取っていただけんかのぅ」
そう言って新藤副ギルド長が再度、深々と優奈に向けて深く頭を下げる。
そんな新藤副ギルド長に対してどうしたらいいか少し戸惑い迷った優奈が茜へと視線を向けると、茜はコクリ、と頷いて彼女に新藤ギルド長へと言葉を発するよう促した。
「――わかりました。新藤副ギルド長からの、その誠意と謝罪を受け取らせていただきます。なので、頭を上げてください」
そう優奈が告げると、新藤副ギルド長は2~3秒ほどしてからゆっくりと頭を上げて、吐息を一つ吐き出した。
「いやはや、すまんの……」
そうして少し肩の荷がひとつ下りたとばかりに力を抜いた新藤副ギルド長に、優奈は条件を付け加える。
「あの、ただ、一つだけ条件を付けさせてください。
もし、他にも同じような被害を受けている人が居たら、その人たちに対してもちゃんと保障と謝罪をギルドの方からしてあげてください。それが条件です」
「……うむ、それは当然のことじゃな。確約しておこう。
あぁ、それとこれは先の件とは別でなのじゃが……ゆーなちゃん、探索者ギルドのランク証をいま持っておるかね。持っておるのであれば、ほんの少しの間だけ預からせてもらいたいのじゃが」
「え、ギルドランク証ですか?
あ、はい。ここにありますけど……」
そうして優奈が自分の
そうしてしばらくしてから机の上にあった別の機械からシュッと出てきた銀に輝くカードを取り出すと、その銀のカードを持って元居た場所へと座りなおす。そして居住まいを正しなおした新藤副ギルド長は、
「さて、鴻島 優奈殿。これまでの貴殿の探索状況等を配信記録などから評価し、この度、探索者ギルド東京本部副ギルド長としての権限による特例認定制度の適用によって、貴殿を探索者ギルドにおけるDランク認定からBランク認定へと引き上げさせていただき、本Bランク認定証の授与を行わせていただきます。ご査収の程、どうぞよろしくお願いいたしたい」
と、それまでとは口調まで変えて厳かに、優奈へと
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