第48話 物理で飛んでる系に効く
<え、バフ? デバフじゃなくて??>
「はい、バフです。たしかに重力加重とかのデバフでも同じことができないこともないんでしょうけど、デバフ系はモンスター側の魔力抵抗で弾かれやすくなるんですよねー。
でも、バフ系だとなぜかモンスター相手でもたいてい抵抗がなくて通じるんですよ。この辺いろいろとあるんですが面白いですよねー」
<いや、ちょっと待って。なんでバフであんな効果でるん?>
<どう見ても飛行能力を喪失させるデバフだったでしょ>
<ワイバーンが飛べなくなったことにパニックになって悲鳴上げてたじゃん。なのにバフ?>
<ゆーなちゃんが言ってることがいまいちよくわかんない件について>
「む、そんなに難しいことかなぁ……ヒントは、さっきの方法は魔術で飛んでる系のには使えないけど、物理で飛んでる系には効くってことですよ」
<ええっと……どういうことだってばよ?>
<だれかわかるか?>
「んー、答えはちょっと考えれば簡単なんですけど……と、そうこう話をしているうちに次の島に着きました。あ、ここは泉のあるタイプの浮島なんですね。
じゃあ、ちょっと水辺でのんびりしながら説明しましょうか」
そう言って優奈は水辺の近くにブーツを脱いで腰かけ、黒タイツを履いたまま足首から先だけを水面につけてパシャパシャと足を動かしながら視聴者さんたちへの解説を始める。
「ええっとですね、まずそもそも鳥型モンスターとかワイバーンとか、ドラゴンとかと違って魔術を使わないで空を飛んでるモンスターってどうやって飛んでるか皆さん知ってますか?」
<うーん……そりゃ、風に乗って?>
<魔術を使ってないんだからそうだよな>
<地上でも鳥類は風に乗って飛べるんだしな>
「はい、そうです。彼らが空を飛んで攻撃してきたり移動してくるのは風の浮力を利用してですね。これはアサルト=ワイバーンなどの上位種になっても実のところ変わっていません。これに対し、深淵に居るドラゴンみたいにあからさまにその巨体に対して翼膜の長さや大きさが足りてないものの場合や、ゴーストやレイスみたいな実態を持たない幽霊系モンスターの場合は、風による浮力とかだけじゃなくて魔術を使って巨体を軽くしたり風圧を強化したり、そもそも飛翔や浮遊、飛行の魔術で飛んでたりするものなので、魔術を使って飛ぶモンスターたちは異なることになります。ここまではいいですか?」
<うん、まぁたしかに>
<ん、そこまでは理解ができる>
「じゃあ、その風による浮力を利用して物理的に飛んでるモンスターから、風を阻害し、風がモンスターに当たらないようにしたらどうなると思いますか?」
え、とコメント欄が大量に戸惑う。
<そりゃあ……浮力を失うから墜落、する?>
「はい、そういうことです。で、答え合わせですが……私があの時、あのワイバーンに掛けたのはその風の影響を防ぐバフです。
風壁、っていう初級の風の支援魔術ですね」
<は?>
<え?>
<あっ>
「風壁の支援魔術は、本来は掛けた相手に対する突風や風の魔術攻撃など、風による影響を阻害し無くしたり、飛んでくる矢や石などの飛翔物から身を護るための防御系の支援魔術です。
ですが、じゃあそれを上空の突風を利用して浮力を得て浮かんだり飛行している相手にかけ、吹いてくる風の影響を失わせたらどうなると思いますか?」
<そりゃあ、浮いたり飛んだりするための物理的な浮力が足らなく、なる……?>
「はい、正解です。浮かび続けるための向かい風による風力が足りなくなるので後は自重で地上へと真っ逆さまです。落下の際の空気抵抗による突風も風壁がキャンセルしてくれるので、重力による加速度だけがついていきますね。なので、あとは質量かける加速度いこーる力で、高所であるほど、自重があるモンスターほどあとは勝手に墜落ダメージを受けてくれるんです。
で、さっきも言いましたが、これデバフじゃなくてバフなので、まずほぼどのモンスターに対しても魔力抵抗されることがなく受け入れられちゃうんですよねー。なので、どのモンスターに対してでもほぼ効いてくれるんですよ」
本当にこの辺の仕組みは不思議ではある。まぁもっとも、そうでなければ支援魔術の使い手が混乱の異常状態になったからといってモンスターにバフを掛けた時に必ず効果を示すようなことは起きないものだろう。デバフの魔術だと抵抗されることがあるのにバフだと効果が抵抗されないのは、本当に不思議だよね。と優奈は思う。
師匠たちの言だとバフとは加護であり、デバフは呪詛である、というそれぞれの性質の違いがあるからだという話だからその違いのせいなのだろうか。
「まぁ、バフもデバフも使い方次第、ってことなんでしょうね。
とはいえ、そういうこともあってこういう高所帯だと飛行型モンスターってわりと対処が楽なんですよ。ある意味、その辺の地上型モンスターより気楽に対応できます」
優奈はあっさりとそう言ってるが、コメント欄では多くの視聴者、特に探索者たちが喧々囂々と互いに意見を交わしあっていた。
<まじかー、でもまぁ言われてみれば納得はする>
<とはいえ、普通はただでさえやっかいなモンスターに自分からバフをかけようとか思わないだろ>
<言われてみれば納得なんだが、なんだろう、この不合理の塊のような理解のし辛さは>
<ちょっとこれ、今後の鳥形モンスターへの対処の仕方変わるぞ>
<あ、でもこれ、地上だとそこまで使えないよな。ゆーなちゃんが居るような高所だから墜落ダメージが起きてくれるだけであって>
<それでも崖の側とか断崖絶壁の細道移動とかでの、鳥形モンスターがうっとうしくて難所だったところ、これでかなり移動しやすくなるぞ>
「あ、地上付近だとたしかに落下ダメージ無くなりますけど、それなら空中歩行や
空中歩行をかけた場合は、飛ぼうとしてもモンスターの足元に足場が常にできてしまいますから、鳥さんたちが地上でぴょんぴょん跳ねてるような感じになります。どっちにしろ速度が厄介な飛行型モンスターなのに、その移動速度が極端に遅くなりますから、攻撃しやすくなりますよ」
そう優奈が視聴者の会話を見て追加でアドバイスを告げると、さらにコメント欄での議論が加速する。
<これ、鳥形モンスターとかだけじゃなく、ハーピーとかにも有効じゃね?>
<飛んでくるヤツが魔術で飛んでる場合は意味ないんだろうけど、たしかに物理的飛行型にはその特性失わせられるってのは、今後すげぇ戦闘が楽になるぞ>
<なんでいままで誰も気づかなかったんだ?>
<そりゃ、モンスターにバフかけようなんて、そもそも思わねぇからだろ……>
<これ、支援魔術の位置付けが一気に変わった情報じゃね?>
<とりあえず納得はした。そして優奈ちゃん、足ほっそりしてるなー>
<優奈ちゃんの細い足に濡れた黒タイツがピッタリと張り付いてるのが良い>
<そこの脚フェチども、正座しとけw>
ん、納得してもらえたかな、と思った優奈だったが、変態さんっぽいコメントが出てきたことで恥ずかしくなってきたので足を水面から引き揚げ、乾燥の支援魔術でタイツや脚についた水分をきちんと乾かし、ブーツを履きなおして移動を開始することにした。
「じゃ、答え合わせもできましたし、休憩は終わりということで。
ちょっと予想以上に時間とっちゃいましたし、少し駆け足で次の目的地にまで移動しますねー」
そう言って優奈が移動の準備を終えると、視聴者たちからは
<はーい>
<りょ>
<まぁだいじょうぶだろうと判ったけど、気はつけてね>
という感じのコメントが続々と投げかけられた。
「さて、それじゃ行きますか」
そう言うと優奈は空の上を文字通り駆けだしていく。彼女が駆けたその後には、緑の光がほんの少しの間だけ残響のような足跡として空に光り輝いていた。
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鳥型モンスター一同「この子、なんてこと思いついちゃってんの(驚愕)」
ドラゴン・レイス等魔法で飛ぶ系モンスター「ウチら、まだ助かったっ!」
(11/10:18:10 追加)
近況ノートに本編の一幕の挿絵を挙げました。
https://kakuyomu.jp/users/mihuehinoto/news/16818093088330416363
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