第47話 浮島お散歩配信
<ちょっとまったーーーーーーーーー!? ゆーなちゃん、いまそこどこに居るっていったの!?>
「え、だから深層の浮島ですよー。
あ、ここは押上ダンジョンの深層4階です。ダンジョンって下層からは環境条件が出てくるのは知られてますよね。深層に入るとさらにここみたいに物理法則が曲がってるような、普通じゃ見られないファンタジックな地形とか環境がさらに加わってくるんですよー。面白いですよね」
「あ、でもバルスって言っても浮島が崩壊して落ちてったりしないので安心ですよ!」と優奈が言うが、視聴者たちは<えぇぇ……>としかコメントを返してくれない。
「ここの浮島は見ての通り、地表からみてかなりの高所にあるんでけっこう遠くまで見えるんですよねー。しかも、浮島ごとに環境が若干変わってたりして場所によっては凄く眺めがいいところがいっぱいあるんですよ」
いまいるところの眺めは、東京タワーの展望台よりちょっと高い感じで、スカイツリーの展望台よりちょっと低いっぽい感じですからだいたい地上300mくらいですかねー、と、浮島の淵からのんびりと眼下の地上を見下ろして優奈が告げる。
「ここまで徒歩で昇ってくるのはちょっと大変ですが、空中歩行とか飛行を付けたり、ちょっと変わり種だとシールドを足場にしたりすれば昇ってくることはたぶんだれでもできますよー。
高所恐怖症の人とかはさすがに無理だろうなー、とは思いますけど」
さすがにかなりの高所で強い突風なども吹いてくるので、高所恐怖症の人にはオススメはできないスポットであるのが残念だ。でも、そういう人でも映像でなら楽しんでもらえるかな、と思ったので今日の配信の場所をここに選んだのだ。
「あと、多くの人はこの階層に来ても、浮島にまで探索しに行かないって話じゃないですか。だから、ここからの景色を見たことない人も多いんじゃないかなー、と思って選びました。
なので、今日の収益化記念の場所にあまり見たことがない人が多いところがいいかな、びっくりしてもらえるかな、と思ってここを選んだんですよ。
どうです、皆さんにビックリしてもらえました?」
んふふー、とイタズラっぽく優奈が笑いながら問いかけるが、視聴者たちからの反応が返ってこない。
「あれぇ?」と優奈が思ったその時だった。ピコッと視聴者からのコメントが出てきた。
<ゆーなちゃん、確認なんだけど……まさか、そこもソロで行ってるわけ?>
「え。あ、はい。いつもと同じでソロですよー」
あっさりと優奈がそう言うと、またしばらく視聴者たちからのコメントが停止してしまう。
「あ、あれ?
みなさんをビックリさせれる景色かな、って思って選んだんですけど、もしかして滑ってしまいました……??」
不安になった優奈がそう尋ねてみると、途端にコメント欄が爆発したかのように視聴者たちからの連投であふれ出してくる。
<んなわけあるかーーーーー!!!!!>
<違う意味でビックリしてるわい!>
<いや、ちょっと待とうか!下層ソロでもおかしいのに、なんで深淵ソロなんかやってんの!?>
<ていうか、なんでむっちゃ空の上にあるはずの浮島なんかに昇ってみようと思うかなぁ!?>
<そこ、ワイバーンが普通に居たりするとこだよね!?>
<まぁ、ゆーなちゃんだからなぁ:SAN蔵>
<ワイバーンに限らず飛行系モンスターがけっこう襲ってくる場所でしょ!>
<下層ならゆーなちゃんでもだいじょうぶだとはもう信頼してるけど、深層でもだいじょうぶなの!?>
<普通はあの階層、上空からの襲撃の警戒しながら次の階層へと進むところであって、観光しにいったりする場所じゃねぇんだよな:大ムーン>
<またこの子は無茶してるし! いや、たしかにこんな眺望、アニメとかでしか見たことないけどさ!!>
<そんなところで飛行型モンスターに襲われたらどうすんのさ!?>
「あ、
<あ、もしかしてバフ込みの遠距離ウインドカッターで戦えるとか?>
「あー、そういう手も有りですけど……実は鳥とかの飛行型モンスターの対処って、もっと簡単な方法があるんですよ。それもこういう上空でだと」
<ほぇ?>
「ん、ちょうどいま2匹ほどこっちに向かってやってきてるみたいなので実演してみましょうか」
そう言って優奈はパチン、と指を鳴らす。そうすると優奈の足元が緑色に光る。そしてその緑色の光を宿したまま、優奈はとことこと浮島の崖から先へと向かって歩いていく。
<ちょ、優奈ちゃん、そこから先は崖にっ……て、空中を歩いてる?>
「あ、はい。いま自分に空中歩行のバフを掛けましたから。なのでこの光が効いている間は空中でも好きなように歩くことができるようになるんです。10分もすれば効果が切れちゃうから、それまでに別の足場にたどり着いておくか、切れる前か後に再度掛けなおす必要はありますけどね」
<あぁ、空中歩行のバフか。持続時間はあんまり長くはないけど、断崖絶壁の崖の間を渡るときとかに頼ることがあるんだよな>
<めったに使い道のない支援魔術の一つだけど、たしかに空中を移動するなら便利なんだよね>
<いや、わりと使えるぞ。これを掛けてもらっておくと大型モンスター相手に足場を自由につくっての3次元戦法がしやすくなる。ミノタウロスとかの巨体系相手に使うと頭を直接狙えたりするので割とオススメなんだぞ:大ムーン>
<そうこう言ってるうちにモンスターが見えてきた件。あれはワイバーンだな>
「はい、ここだとよく居るワイバーンですねー。強靭な巨体と羽を持ち、上空から地上の探索者を急降下で襲撃してきたりする子です」
<向こうもゆーなちゃんのことに気づいたみたいだな。あの感じからすると
「あー、番かもしれませんね。ダンジョンのモンスターにオスとメスの区別があるのなら、なんですけど」
そうこう視聴者たちとやりとりをしているうちに2体のワイバーンがかなり近くまでやってくる。そして1匹が優奈の眼前で両の翼膜を上下に動かしてホバリングし、もう1匹が空中に居る優奈の周りを旋回するようにして回り込みながらその高度を上げていく。
「あ、これは後ろに回った方が勢いつけて襲ってくるパターンですね。じゃあ……」
そう優奈が見当をつけたタイミングで、ちょうどそのワイバーンが地面に向かう角度に姿勢を傾け、優奈めがけて急降下してくる。それに対し優奈は、
「えいっ」
とそのワイバーンに向けて左手を向けると、パチン、と指を鳴らす。
ドガァァァ!
直後、突っ込んできたワイバーンの眼前に優奈が張ったシールドが発生し、物の見事に急降下で飛んできていたワイバーンがその障壁に頭を衝突させる。それにより高速で走っていたトラック同士が衝突したかのような激しい衝突音が発生し、見るとワイバーンの頭部と身体が首を支点に120°以上にまで大きく折れ曲がってしまっていた。
シールドに突っ込んだワイバーンは、そのまま地面に垂直よりやや傾いた角度で割れずに残っていたシールドの上をずりずりと力なく滑り落ちていき、飛び出した眼球と血や脳漿らしきものをその表面になすり付けていった後、シールドの淵から外れるとそのまま錐もみ状態になって地面へと向けて落下していく。
しばらくして、ぐしゃり、という音が地面からほんのわずかに聞こえてきた。
そのまま優奈が視線を前に戻してみると、ホバリングしていた方のワイバーンが空中でホバリングしながら、あっけにとられたように口を半開きにしていた。たぶんあのワイバーンにとっては、今の光景があまりにも予想外すぎたのだろう。
そんなワイバーンは優奈と視線が合うと、「きゅいっ!?」と意外にもかわいらしい鳴き声を上げて身をひるがえし、一目散に逃げ出そうとする。そんなワイバーンに対し優奈は、
「ごめんね。でも先に襲ってこようとしたのはそっちだからねー」
と呟きながら、右手を差し向け、指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、逃げ出そうとしていたワイバーンを包み込むように緑の風の球体が発生し、
「きゅぁぁぁぁぁぁ?!」
逃げ出そうとしていたワイバーンが突然浮力を失ったかのようになって、悲鳴を上げながら地上へと墜落していく。
やがてズズン、という重い音が優奈の足元の方からしてきて、そちらに視線を向けると地面に新たに赤い血の華が一つ咲いていた。
「はい、終わりです。
まぁ見ての通りで、実はたいていの物理的に飛んでる鳥形モンスターってこういう高所だと簡単に倒せる方法があるんですよねー」
優奈があっさりとそういうが、コメント欄はシーンと静まり返っていた。
なんにも反応が返ってこないコメント欄に小首を傾げ、どうしたんだろ?と思いながらも、優奈は空中歩行のバフが消えないうちに次の観光スポット予定の別の浮島へとたどり着くため、そちらに向けて空中を歩き出した。
そうしてしばらく優奈が空の上をのんびりお散歩していると、再起動したっぽい視聴者さんの一人から、スパチャで質問が投げかけられてきた。
<"5000円" ゆーなちゃん、シールドで衝突死させた方は、まぁどうにか理解できたんだけど……もう一匹のワイバーンの方はいったい何をしたの?>
「あ、良かった。配信が途中で止まっちゃってたとかじゃなかったんですね。
えっと、あぁ、さっきの2匹目の方ですか?
単純ですよー、魔術とかでではなく、物理で飛んでる飛行型モンスターの天敵になるバフをあの子にかけてあげただけなんです」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
故ワイバーンA「気をつけよう 急降下は急に 止まれない」
故ワイバーンB「え、アレがバフですって? うっそだー!?」
さて、みなさんは優奈ちゃんがいったいワイバーンBくんに対して
何をしたか思い当たりますか?
優奈ちゃんによる解説は次回っ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます