第44話 私はプリンがいいかなぁ


「あぁ、はい。優奈ってば中3の時にダンジョンで1カ月近く行方不明になってたことがあるんですよ」


 たぶん、琴音ちゃんも場の空気に乗せられて口が滑ってしまったのだろう。


「え……?」


と、それまで楽し気に話を聞いていたスカーレットの面々が動きを停め、目を大きく見開かせて驚愕する反応を示したのを見て、「しまった!」と琴音ちゃんも自分が失言をしてしまったことに気がついたようだった。慌ててごまかそうとする。


「あ、ああいや、まぁちゃんと無事に帰ってきたんですけどね!

 ほら、優奈ってば今も無事にぴんぴんしてますよね。だから何も問題はなかったんですよ」


「あ、う、うん。そうだよね、優奈ちゃんだもん。

 普通の人なら1ヵ月もっていうか2週間以上ダンジョンで行方不明になったら死亡扱いになるけど、優奈ちゃんなら下層をお散歩したりできる実力があるんだし、問題ないか~」


「あははは」と場の空気を和らげようとするかのように、そう言ったりんねさんが無理くりに笑ってみせる。優奈の隣では琴音が「ごめん、優奈!」と両手を合わせて謝罪していた。


「はい。まぁその時はまだ私もいろいろ未熟だったので、転移罠に引っかかっちゃいまして……そのせいで実際1カ月ほどダンジョン内で帰れなくなっちゃったことがあったんですよ。

 まぁ、その時にさっき琴音ちゃんが言ってた師匠さんたちと運よく出会うことができまして。そのおかげで強くなれたから無事に帰ってくることもできたんで、塞翁が馬ってことではあったんですけどね」


 本当にあの時は死ぬかと思った。というか、あそこであの人に会えていなければ、いまのように支援魔法が使えていないただの探索者でしかなかった自分は、きっとモンスターの餌になってしまっていたことだろう。


「そうなんだ。じゃあそのお師匠さんたちが優奈ちゃんを助けてくれたおかげで、回りまわってあたしたちも助かったようなものなんだねー」


 そのお師匠さんっていう人、あたしたちも知ってる人なのかなー? と、りんねさんが言うが、知っているはずはないだろうなぁ。けど、この話の流れだと――


「ねぇ、そのお師匠さんって人たちに私たちも会ってみることってできるのかな?」


 そう茜さんが予想していた通りのことを言ってきたので苦笑してしまう。


「んー、どうでしょう。けっこういろんなダンジョンを素材を探して彷徨ってる人ですからね。それに紹介していいのかどうかについても、まず確認をあちら側に取ってみないといけませんし」


 それにあの人たちのことを世間に知らせるかどうかについては、あまりに優奈のことを心配していた琴音ちゃんをあの人たちに会わせた後に、彼女から「優奈がちゃんと力を持ってからじゃないと絶対にダメ」と忠告を受けているのだ。

 なので、チラリ、と琴音ちゃんに視線を向けると、彼女が頷いてみせる。


「そうですね、優奈が言うように紹介するとしても、まずは師匠たちの意向を確認してからになると思います。いまはもう優奈もけっこう知られてきたし、十分に自分で自分の身を護ることもできるでしょうから……あとは師匠たちがOKを出してくれたらだいじょうぶでしょうけど。

 なので、師匠たちからのオーケーがでたら紹介するってことでもいいですか?」


 琴音ちゃんもそう言ってくれたので、師匠たちの件については後日、早めに師匠のところに確認しにいってみようと思う。あの人たちのことを大っぴらに紹介できるようになれば、きっといろいろ面白いことになると思うし。


「そっかぁ、残念。

 まぁでも、それならもしも優奈ちゃんたちのお師匠さんたちから了承がもらえたら是非紹介してね!

 下層だろうが深層だろうが、きっとがんばって会いに行ってみせるから!!」


「はい。師匠たちの了承がもらえたらその時は皆さんを師匠たちのところにご案内したいと思います。あ、その時はこっちの料理を持っていくと喜ばれると思うんですけど、スカーレットの皆さんは料理は得意だったりしますか?」


 そう優奈が質問してみると、春香と千鶴は「だいじょうぶですよー」と朗らかに笑い、茜はそっと目を逸らした。りんねはというと、視線を天井に向けながら「あはは、あたしは食べる専門かなー」と冷や汗をかいている。


「ぷっ、な、なんだか皆さん、見た目通りの印象ですね。ちなみに、春香さんと千鶴さんはどんな料理が得意なんですか?」


「わたしは習い事でやってたりしましたので、家庭料理からフレンチまで料理は割と得意ですよ」


「私は煮物系かなぁ。大鍋でドーンと作って冷凍庫にまとめ置きしとくの。

 りんねと同棲してるんだけど、この子見た目に沿わずけっこう大食いだからその方が楽なんですよね。夏と冬で修羅場になった場合も普段からのストックがあると作業をする時間の確保がしやすくなりますし」


「むぅ、あたしが大食いなのは千鶴ちゃんの料理が美味しすぎるからだもん」


「え。でも、ここでもけっこうパエリアを一人でペロッと平らげてるよね。まぁ、大食いしても身にはつかないみたいだから、そこは羨ましいんだけど」


「茜 ち ゃ ん。それ、いったいあたしのどこを見て言ってるのかなぁ~?」


「え、身長と胸とお尻?」


「その喧嘩、買ったぁーーー!」


「ふたりともー、お店の中ですよ。静かにしてくださいねー」


 激高したりんねさんが、ガタン、と席を立って茜さんに対して指を差して騒ぐが、直後に笑顔の春香さんに注意されると「ひぅっ!」と首をすくめてしおしおと自分の席へと戻る。


「茜さんも、りんねちゃんに意地悪言わないでくださいね」


 春香さんが目だけ笑ってない笑顔で茜さんに圧をかけている。わぁ、怖い。


「う、うん。

 あー、りんね、私が悪かったわ、ごめんね」


「ふーんだ、デザートのベリーアイス奢ってくれなきゃ許してあげないー」


「はいはい。じゃありんねはショコラチュロスのベリーアイスね。私も同じのにしようかしら。優奈ちゃんと琴音ちゃんはどうする?」


「私はプリンがいいかなぁ」


「あたしはチーズケーキにします。あ、じゃあ優奈、半分こにしない?」


 そこからは空気も戻り、頼んだデザートをわいわいとシェアしながら食事を楽しむ。


 それにしても将来かぁ……高校卒業後、私はどうしたもんだろうかな、と優奈は場の雰囲気を楽しみながらも、そのことについてもいずれ考えていかないといけないんだろうなぁ、とぼんやりと頭の片隅で考えるのだった。



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