第45話 ちょーっといろいろお話、聞かせて
「それじゃ、今日はお疲れさまー。あ、優奈ちゃん、買ったものは2~3日後には優奈ちゃんちに届くように手配しといたけど置き配とかでだいじょうぶだった?」
「あ、はい。ありがとうございます。一人暮らしですけどたぶんそれでだいじょうぶだと思います」
「そか。じゃあこれ伝票ね。宅急便は黒猫のとこで頼んであって、教えてもらったメールアドレスも書いといたから後で通知が行くと思うわ。もしなんだったら時間指定に変更とかもしてもらえばいいと思うし」
「なにからなにまで本当にありがとうございます。でも本当にあんなにいっぱい買ってもらっちゃっても良かったんですか?夕食も奢っていただけましたし、けっこうな金額になりましたよね」
「なぁに気にしないで。これでも大手所属の有名配信者の仲間入りしてるんだから、そこそこ稼いでいるのよ。それに稼ぎでいったら優奈ちゃんもダンジョンの素材で稼げてるでしょうから、この程度の金額じゃだいじょうぶなのはわかってることでしょ?」
なにせ下層のモンスターだって狩れるんだし、と茜さんが笑ってだいじょうぶだと胸を張る。そんな茜さんの言葉に、優奈はやっぱり下層で狩りをできる人気の配信者さんたちって、素材や配信での稼ぎがすごいんだなぁ、とスカーレットの面々のことを尊敬する気持ちになった。
なので、何気なしに
「いやぁ、私は全然稼いでたりしないですよ。下層のモンスターをいくら倒して素材を持って帰ってもDランクだと換金できないってことでギルドに没収されちゃいますし。もちろん、お金が必要な時はたまに中層とかで狩っていれば日雇いのバイトくらいのお金は稼げるからお小遣い程度には困りませんけど、そんなには稼いでないですよー」
と、自分のダンジョンでの収入状況を素直に彼女たちに告げる。
「「「「「……え?」」」」」
ん、なんだろう。スカーレットの面々だけでなく、琴音ちゃんまでもが変な声を上げた。
あ、そうだ。配信での稼ぎということでいえばアレの報告をしないとだ。
「あ、そういえば聞いてください。さっきお手洗いに行った時にメールが来たんで知ったんですが、収益化申請が無事に通ったんですよ!
なので、次回は収益化記念でちょっと頑張った配信をしてみようかなー、って思ってたりするんです」
そう言ってさっきお手洗いに行った時に届いたDtuber運営からの、収益化審査通過のお知らせメールの画面をスマホで出して茜さんたちに見せる。
「あ、うん。それは、おめでとう」
「わ、よかったね優奈ちゃん。これでみんなきっとスパチャ送ってくれるよ!」
「私たちもその際には投げ銭させていただきますから覚悟しておいてくださいね」
「おぉー、これはめでたいですね。もう少し早く届いてたら、さっきの食事会はそのまま収益化のお祝い会にもできたんですが」
「はい、これも収益化申請の仕方とか、みなさんが丁寧に教えてくれたからだと思います。このことについてもありがとうございました!」
茜さんたちが口々におめでとう、とお祝いの言葉を述べてくれる。あれ、けれど琴音ちゃんだけが眉をひそめて黙り込んだままだ。
「あれ……琴音ちゃん?」
気になったので声をかける。すると琴音ちゃんがハッとしたように息を飲んだのがわかった。
「あ、うん。……優奈、収益化申請の通過、おめでとう。
ただ、ちょっともう一度聞かせて……さっき優奈、あんたなんて言ったの?」
「え?お手洗いに行った時に……」
「ううん、違う。その前よ」
琴音ちゃんが真面目な顔をして首を横に振り、そう問いかけなおしてくる。んーと、確か……
「えぇーっと……中層とかで狩ってるからお小遣いには困ってない、ってこと?」
「それについてもだけどその前。下層のモンスターの素材がなんだって言ったの?」
「えっと、ランク外だからギルドに没収されちゃうんで、持って帰ってきてないってこと?」
「っ!? 何よそれっ!!」
優奈が言ったそのことに、琴音が胸の前で手のひらと拳をバン!と叩き合わせ、怒りを顕わにする。
「え、だって換金できるのは探索者ランク+1の素材までだっていうのは探索者法で決まってることだってのは琴音ちゃんも知ってることでしょ。だから持って帰っても換金できないそういった素材は、ギルドの方で処分してもらうことになる。だから、持って帰ってきても没収対象になるって受付の橘さんが言ってたよ?」
「はぁ?!」
「あっ、これ言っちゃダメなやつだった。
前に一度、そのことを知らなくて持って帰ったことあったんだけど、橘さんが処分代かかるのを内緒で処理してあげるから今後は注意しなさいって言ってくれてたのに……琴音ちゃん、茜さんたち、ごめんなさい!今のは聞かなかったってことでお願いしてもいいですか?」
そうお願いをしてみるが、やけに怒っている琴音ちゃんだけでなく茜さんたちもすごく怖い顔をして私のことを見てきている。やっぱり内緒で処分してもらったりしたことは悪いことだったりしたからみんな私に怒ってるんだろうか?
「だからいつも素材を持って帰るとしたら、琴音ちゃんに私のダンジョンギアの開発素材を作ってもらう分だけにしてるんだよ。それ以外は持って帰っても没収されるしギルドに迷惑かけちゃうってことだから、いつもダンジョンに放置することにしてるんだし」
優奈がそう言うと、琴音ちゃんが怒りを落ち着かせようとするかのように深呼吸して怒鳴るのを抑え込んでいる。そんな琴音ちゃんが2度3度深呼吸をした後に優奈に再度、別の質問を投げかけてきた。
「……っぅ……はぁ……優奈、もう一つちょっと確認したいんだけど、中層のモンスター素材を、いったいどのくらいの価格で優奈はギルドに買い取ってもらってるの?」
「え、んーと……モノによると思うけど、だいたい5千円から2万円くらいじゃないかな。相場がそんなものなんでしょ?」
優奈が橘さんから教えられただいたいの相場価格について思い出しながらそう答えると、琴音ちゃんが頭をガシガシとかき乱して怒りの声を挙げる。
「っ、やられた。優奈とは友人だからダンジョンでの収入のこととかまで聞くのはヤボだと思って、これまで確認してこなかったけど……まさかそれでずっとこんな目にあってたことに気づいてあげられなかったとか……
なにがサポート役よ、あたし。これじゃ優奈のサポート役失格じゃないっ」
「え?」
突然の琴音ちゃんのそんな自虐するような言葉に頭が混乱してしまいそうになる。
琴音ちゃんは私が中3の時にダンジョンで行方不明になる前からも、ずっといろいろと相談に乗ってくれたり、私が抱えこんだダンジョンの秘密を一緒に知っても離れていくことなくアドバイスやサポートをさらにしてくれて、これまでずっと助けてくれてたんだよ。彼女以上の私のサポーターなんていないって思ってるというのに、いったい琴音ちゃんは何を言っているのだろう。
「優奈さん、今の話は……本当ですか?」
優奈がそんな風に混乱している中、春香さんが私に再度尋ねてくる。春香さんもいつになく、なんだかすごく真剣な顔で質問してきており、なんていうか、圧が強い。
「は、はい。別にあたりまえのこと、ですよね?」
ほんのついさっきまでのほんわかとして優しいお姉さんといった雰囲気が完全に消えて、まるでモンスターを前にした戦闘体勢のような気配をビシバシと纏わせている春香さんの纏う空気に、うわーちょっと怖いなー、と思いながらそう返事をする。
だが、その優奈の返事を聞いて春香さんだけでなく茜さんや千鶴さん、あのいつも明るく元気な空気を纏っているりんねさんまでもが、完全に激怒している気配を纏いだした。
「さっきまでこれで解散するつもりだったけど……優奈ちゃん、ちょーっといろいろお話、聞かせて欲しいな」
ビシッ、と足元で石畳が割れる音が聞こえたような気がした。けれど、その時の優奈はそんな些細なことを気にするよりも、茜からのその提案にコクコクと頷いて了承することの方にしか、意識を向けることができなかった。
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なお、下層や中層の素材の正しい価格帯については33話の掲示板話にて既出だったりします。
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