第42話 けっこうお値段しちゃいますよ
「いやー、楽しかった楽しかった♪」
「お店の人たちも大喜びでしたね」
「りんねさんたちが合流してからは、りんねさんと優奈で『小悪魔少女ペア』、茜さんと優奈で『活発少女な先輩後輩』、春香さんと優奈で『お嬢様姉妹』、千鶴さんと優奈で『静と動のメガネっ娘』……ほんとーにいろいろなお店を巻き込んだ撮影会になりましたもんね」
「せっかくだから、琴音ちゃんも優奈ちゃんと一緒に何かテーマ決めてやればよかったのになぁ」
「あー、私は優奈のサポート役として裏方に徹すると決めてますんで、露出はちょっと。それに優奈とはここに学校の授業でも良く来ますんで二人ペアで目立ちやすくなりすぎるのも避けたほうがいいかなー、と思いまして」
「そっかぁ、残念ー。ところで千鶴ちゃん、マネージャーの方の許可はどうだった?」
「んー、とりあえず上への稟議には回してくれるそうです。半分プライベートでやってることに近いことですし許可は下りやすいんじゃないかとのことですが、さすがにお店のサイトやポスター等で使われるのであれば、案件として先に事務所を通してほしかったとのことでした」
「じゃあ、そのことについてはお店の人たちにも報告しておくわね。代わりに優奈ちゃん以外の分に関しては定価で買い取りってことでお店の人たちに計算してもらうことにしようと思うんだけど、それでいい?」
「おっけー。じゃあ、そっちは茜ちゃんに任せとくね。量があったから清算終わるまで時間ちょっとはかかるだろうし、あたしたち残りのメンバーは、先に上のレストランフロアにでも行っとこうと思うんだけどいいかな?」
「ええ、それでいいわよ。あとでどこのお店に入ったかだけligneで連絡してちょうだい」
あれから約3時間ほど、時間が経過している。りんねさんと千鶴さんは新宿で同棲している(りんねが千鶴の借りたマンションに転がり込んでいるらしい)そうで、ちょうど家についてすぐの時に茜からのligneが届いたらしい。なのですぐに外出用の変装をして押上まで駆けつけてきたとのことだった。
さすがにスカーレットのメンバーが4人揃うと変装していても店側の人たちにスカーレットのファンが混ざっていたのか気づく人が出てきてしまったので、そこからは店頭でではなく従業員用のエリアに服やアクセサリーなどを持ってきてもらって優奈と茜さんたちとのファッションショーが行われた。その際、琴音ちゃんが言ったように、せっかくなのでということでスカーレットのメンバーそれぞれと自分との組み合わせのテーマを作り、そこに優奈とそのペアになった者以外の4人と、各アパレルショップの店員たちが2~3人ずつで組んで班をつくり、その班ごとにコーディネートを競い合うという展開となっていったのである。普段はそんなことをお客を使ってしないせいか、突発的なイベントとなった割に各店員さんたちのはしゃぎ具合と入れ込み具合が半端なかった。なお、ベスト1に輝いたセットはもちろん、2位以下であっても各人が気に入ったものも買い上げリスト入りとなっている。
とはいえ、そんなこんなで盛り上がった突発的ファッションショーではあったのだが、スカーレットのメンバーは事務所所属でもあることから、彼女たちが写っているポスター等については事務所を通す筋があるだろうという話となり、それらについては先ほどまで茜さんと千鶴さんが彼女たちのマネージャーと電話で交渉していたのだ。
「それじゃあ、けっこういい時間になってるし、どこかで夕食にでもしましょうね。優奈さん、琴音さん、お二人はお店の希望はありますか?」
表にでて移動するため、ここで会った時と同じように変装しなおした春香さんが優奈たちにお店の希望があるかと尋ねてくる。
「んー、ここで優奈と食べるんだったら、いつもなら6階のえびそばのとこ一択だったけど、あそこはこの大人数でのんびり食事できるようなとこじゃないしなぁ」
「かといって、他のお店にはほとんど入ったことないよね。
あと入ったことがあるのってスイーツビュッフェのお店だけど、あそこは食事っていうより軽食のビュッフェってイメージだからなぁ」
「あそこは美味しいんだけど、行くと数日後の体重が……」
琴音ちゃんが少し遠い目をする。彼女は甘いものを食べすぎると身体に付きやすいということで以前、ダイエットしないとー!と嘆いてたんだよね。その時に「そうなんだー。私は甘いものをいくら食べても太らないんだけどなぁ」と言ってしまったせいで、彼女に鬼のような目で睨まれちゃったのは懐かしいことである。
「あぁ、あのスイーツビュッフェは美味しいですよね。お皿もピンクで可愛いですし」
「あ、春香さんたちも行ったことあるんですね。ケーキやマカロンがちっちゃくて、ピンクのお皿に載せるとけっこう映えるんですよ」
「茜ちゃんが甘いものが好きなので、ここに来るとたまに寄ってます。でも、あそこはたしかに食事ってイメージの場所じゃないですし、違うお店の方がいいですかね」
ひとまずレストラン街のフロアまで行って、フロアマップを見て考えようか、という話になりエレベーターに乗って移動する。そうしてレストランフロアで店舗選びに迷った末に優奈たちが選んだのは、国際パエリアコンテストで優勝した料理人がプロデュースしたというパエリアとタパス料理が自慢のお店だった。
色とりどりの華やかな模様が描かれたタイル地の床に、壁一面にはスペイン風のPOPなポスター(パエリアを題材にしたポスターが多数)が飾られている落ち着いた店構えのお店だ。料理の値段が小皿料理でもM字マークがシンボルのファストフードのセットが頼めそうなお値段だったので、優奈も琴音も「将来稼げるようになったら行ってみたいねー」と話題にしてみたことがあるところだった。
「こ、ここけっこうお値段しちゃいますよ。本当にいいんですか?」
メニュー表のお値段を見て、優奈は注文するのをちょっと気おくれしてしまう。自分だけで食事するのであれば、絶対に入らない価格帯のお店だった。
「いいのいいの、気にしないで。あ、もちろん誘ったんだからここのお会計もあたしたち持ちだから二人は好きなの頼んじゃってね!」
「ふふっ、命の恩人でしかも年下の学生さんなのに、お金を出せとは言いませんよ。お姉さんたちに任せて好きなのを選んでくださいね」
「こういう時は大人の!社会人に奢ってもらえばいいんです!!」
りんね、春香、千鶴が年上の余裕、という感じでもって笑顔で優奈に値段は気にしなくていい、と言ってくれる。千鶴にいたってはその胸を大きく張って力説してくるほどだ。服の時は自分がポスターなどの素材になることで割り引いてもらえるということで、春香さんたちに買ってもらうというのも少しは気が楽になったが、料理ではそういう割り引いてもらうとかっていう手もとれないだろう。お金を出してもらってばかりでいいのかなぁ、と優奈はちょっとためらってしまう。けれどそんな優奈のことをチラッと見てから、琴音ちゃんがニヤっと笑って大きな喜びの声を挙げた。
「おぉー!そう言うことなら遠慮しませんよー!!
優奈も気にせず、こういう時は奢ってもらいましょ!」
そう言って千鶴ちゃんが優奈にウインクをしてくる。そこで気がついた。さっきもそうだったが、琴音ちゃんは金銭感覚が小市民な優奈があまり気にしないでいいよう、お店の人と交渉したりこうして大げさに喜んでみせたりしてくれてるんだろうな。思わずくすっと小さく微笑んでしまう。
「うん、ほんと遠慮しなくていいからね。あたしたちも好きなのどんどん頼んでいくし」
「じゃあ、まずは本日のタパス3種盛り合わせを人数分でしょうか。春香さんは何を頼みます?」
「んー、海老のアヒージョかマッシュルームのアヒージョ、どっちにするかで悩みますね。あ、飲み物はスピットモストっていうのが珍しいのでそれにします」
「みんな二十歳未満だから飲み物はソフトドリンクだよねー。あたしは普通にオレンジジュースかな。優奈ちゃんは飲み物何にする?」
「あ、えと……それじゃおりんさんと同じオレンジジュースで。琴音ちゃんは?」
「あたしはジンジャエールにしようかな。
春香さん、迷っているなら両方頼んでみたらいいんじゃないですか?」
「そうですよ、春香さん。琴音さんが言う通り迷ってるなら両方頼んじゃいましょう。あと、どうせならパエリアもいろんなの頼んでみんなでシェアしません?」
「そうねぇ、千鶴ちゃんのその案は良いわね。あぁ、じゃあみんなで注文しておいてくれるかしら?
その間にわたし、茜ちゃんにligneでこのお店に入ったことを連絡してくるから」
わいわいとみんなであれはどう、これも良いかも、と話し合いながら注文をどんどんと入れていく。最初は遠慮していた優奈も、琴音が物おじせずに注文し、りんねたちがそれに乗っかってさらにどしどしと注文していくので、途中からは自分が興味をもったものなども注文に入れてもらっていった。
なお、途中から合流した茜は店舗に入ると「なかなか洒落たお店にきたわねー」とこのお店を選んだことについて面白がっている様子を見せていた。その後は、パエリアが出来上がるまでに30分少々かかるという店員さんからの話だったので、生ハムやタパス、アヒージョやチョリソーなどの小皿料理などすぐに出してもらえるものをみんなでシェアして舌鼓を打ちながら、皆でいろんな話をして盛り上がっていったのだった。
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一応念のため。
本作品はフィクションです。現実のお店・団体・組織等で作中と同じようなところがあったとしても無関係です。
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