第41話 もう好きにしてください

「ゆーなちゃんだとこっちの服も似合うんじゃないかな」


「もうすぐ夏ですし、もう少し露出を多くしても良いのではありませんか」


「うーん、優奈ってば自分からはあまり着飾ろうとしないんですよね。なので、デザインで攻めさせた方がおもしろ……もとい、良いと思うんですよね」


 女三人寄れば姦しい、とはよく言ったものだと思う。あれから優奈は琴音たちにソラマチのファッションエリアにある店舗を複数連れまわされては着せ替え人形扱いにされていた。


「お連れ様の場合、身長は低いですけれど出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでますからね。羨ましいスタイルです。なのでその素晴らしいスタイルの魅力を生かすためにも薄手の生地のものを重ね着した上でネックレスやピアスなどでワンポイントの彩りを加えてみるのはいかがでしょうか」


「そうですね……たとえばFasillyさんのところの服とウチの店一推しなこの薔薇と小花の花冠がモチーフのアクセを併せて着けてみるのも良さそうですね」


 それどころか、途中からは琴音たちが巻き込み、そのことにむしろ面白がったいくつかのアパレル店の女性店員たちまでもが加わって優奈を玩具にしているというのが現状だ。


「あ、良いですね。じゃあこの組み合わせも購入するということで」


「お買い上げ、ありがとうございます」


 しかも単に着せ替え人形にされるだけでなかった。茜たちが良い組み合わせだと思ったら即コーディネートされた衣服やアクセサリーをセットで購入していくため、店側としてもホクホク顔のようなのだ。そしてさらにそれだけではない。


「ちなみにこれはどうします?」


 琴音が店員たちにそう尋ねる。その質問に店員達が笑顔でサムズアップを見せた。


「かまいませんか!

 ではこちらも撮影して使わせていただければと」


「ええ、ただしその代わり……」


「はい、他と同様に10%引きということではいかがでしょう」


 いつの間にやら、琴音や春香と一部店員たちが手を組んで、コーディネートさせた優奈を撮った写真を店側が店舗の通販サイトや店舗広告に使わせることを条件にした値引き交渉まで成立させていたのだ。どっちも商魂たくましすぎでしょう。


(はぁ……もう好きにしてください)


「ゆーなちゃん、はい、こっちに目線を送ってくださいねー」という春香の声に言われるがままに優奈は指定されたポーズやカメラ目線をとってみせる。

 かれこれ1時間近くこうしていろんな衣装を着せられては写真を撮られることが続いている。まぁ、購入した衣装等の代金は茜たちがスポンサーになって出してくれている上に、後日優奈の家へすべて送られてくるということなので、まぁ一種のバイトみたいなものだと考えよう、と優奈は半分されるがままとなりながらこれらのことを受け入れていた。


 それに両親が亡くなってからは優奈の保護者となってくれている、遠くに住んでいる祖父母を除いては、こうして親身に世話を焼いてくれたり着飾らせようとしてくる近い年上の人などは居なかったのだ。なので、こういう風に年上の人たちに構ってもらうという感覚も悪くは感じない。


 あと、何やかや言っても、優奈自身が自分でもファッションセンスや服の趣味嗜好はシンプル路線が基本すぎなのだろうということは理解している。そのため、こうして他の人のセンスで服をコーディネートしてもらえるという方が、今後の自宅配信等で使う服を選ぶことなどを考えれば助かることでもあった。

 服のコーディネートだのテーマ性だの言われてもよくわからないというのが実のところ優奈の本音なのだ。極端に言えば着れて恥ずかしくなかったらいいじゃん、とすら思うことすらあるのが優奈なのだ。優奈自身がファッション関係で興味を持ってコレクションしてたりするのは、たまに髪型をいじるために使うことがあるシュシュやヘアゴムくらいなものなのである。

 そもそも、優奈が自分だけで服を買うとしたら、基本がユニシロなどのデザインがシンプルで使いまわしがしやすいところのとか、しまざとなど安価な衣料量販店だったりする。そのせいで以前琴音に、「あんたは素材が良いはずなのに、何でそういう服を着てくるかなぁ!」と休日に一緒に出かけた時に怒られてしまったことがあったりするくらいなのだ。もっとも、その際そう言ってきた琴音は琴音で、全身フリルな黒白のゴスロリ姿だったりしたので「それ普段着なの?」と思わずツッコミたくなったりもしたけれど。

 まぁ、そういう自分のセンスだとかに比べれば、さすが有名探索配信者やアパレルショップの店員さんたちである。優奈からしてみてもセンスがいいなぁ、と思える組み合わせや衣装、アクセサリーを多種多様な選択肢の中から見事に選び取っていってくれるのだから感謝しかない。





「それにしてもけっこうな金額になってると思うんですが、ホントに全部買っていただいてもよかったんですか?」


 すでに20着以上をセットで買ってもらっていると思うので、けっこうな値段となっているはずだった。なのに茜と春香は平気な顔で次から次へと選んだり店員に持ってこさせたりしている。

 そのことに、さすがに「いいのかなぁ」と疑問に思った優奈はそう尋ねてみることにした。


「ん? あぁ金額なら気にしなくてもいいわよ。

 ほら、先日のアサルト・ワイバーンの素材があったでしょ。あれがイレギュラーだってこともあって探索者ギルドが割と高額で買い取ってくれたのよね。だから私たち、いまけっこう小金持ちになってるし、ここで多少散財したとしても、それはあの時にゆーなちゃんが受け取ってくれなかった分をお返ししてるだけみたいなもんだし」


「それに茜ちゃんも私も、妹はいないんですよ。

 だからでしょうか、なんだか自分に妹が居たらこんな感じで服を買ってあげてるのかなぁ、みたいな感じになれて楽しめてます。だから、私たちもちゃんと楽しんでいるんですよ」


 だからゆーなさんは気にせず、次はこれを着てみてくださいねー。と、春香が優奈に次の服装を差し出してくる。だが、春香が差し出してきたのは、優奈のサイズに併せた白のブラジャー(最初にEだと伝えると茜と春香にけっこう驚かれた)と薄い半透明気味な絹の生地に水色の花柄模様が刺繍されているオフショルダーでへそ出しデザインのトップス、斜めのチェック模様の赤いミニスカートといったコーディネートの服のセットというものであった。


「へそ出し……」


 普段絶対に自分ではしない恰好であるだけに、おもわずヒクっと口元が引きつりかけてしまう。けれど、そんな優奈に対し、春香はぐいぐいと強く推し進めてくるのだった。


「ゆーなさんは身長の割に胸が大きいですから、だからこそこういう半透明の生地を上に羽織った上でわざと透けブラとかにして魅せる感じにしてみるというのが、小悪魔っぽいイメージでの着こなしになって良さそうに思うんですよね」


「面白いですねぇ。優奈だとたしかに自分からはそういう格好はしないことでしょうし、この機会にそういうのを着せてイメチェンさせてみるというのも良さそうな気がします」


「じゃあ、次は小悪魔タイプのコーディネートで勝負してみる?

 あー、でもそれならアレよね……りんねが居れば面白そうな気がしてきたわ。あの子も小悪魔タイプだとは思うんだけど、あの子の場合は元気系とか活発系の小悪魔って感じでしょ。それに対してゆーなちゃんの方は割と物静かとか落ち着きのあるタイプの小悪魔っぽさとなりそうじゃない?

 二人をセットにしてみると対って感じになって良さそうな気がするのよねー」


「うーん、それじゃいまからりんねちゃんたちも呼んでみますか?」


「どうしたものかなぁ……呼び出してあの子らが来たら、私たちが身バレしちゃう可能性が高くなりそうだし……でも呼ばないと、それはそれで後で二人から『なんでそんなおもしろそうなの茜ちゃんたちだけでやったの!』って絶対に文句言われそうだよねぇ」


 そんな会話をしながら、茜たちが店員たちを巻き込んで、きゃっきゃ、わいわいと優奈をオモチャにして盛り上がっていった。





 なお、その後、春香コーディネートのへそ出しルックになった優奈の姿を茜が写真に撮り、りんねや千鶴ともligne経由で共有してから、


「もし来る気があるんなら、ちゃんと身バレしない変装をしてきなさいよ。それができないってのならこの写真だけで満足しときなさい」


とメッセージを送る。すると、りんねと千鶴の二人ともから「ぜったい行く!」「こんな面白そうなの見逃せません!」と即座に返事が送られてきて、彼女たちからも優奈はこの後着せ替え人形にされることになるのであった。


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